プロフィール
夜久 敏和(やく としかず)

1984年3月 神戸大学 経済学部卒業。同年4月 住友銀行(現:三井住友銀行)入行。
藤沢法人営業部長、広報部長、東京中央法人営業第二部長、人事部長などを経て、現在は、取締役兼副頭取執行役員 兼 三井住友フィナンシャルグループ執行役副社長。

三井住友銀行は「UCDAアワード2019・2020」の2年連続でアワードを受賞、三井住友フィナンシャルグループは2年連続で実行委員会表彰を受賞した。

― 三井住友銀行様は、2019年から2年連続でUCDAアワードを受賞されました。今回は、株式会社三井住友フィナンシャルグループ執行役副社長 夜久 敏和様に「わかりやすい情報提供」に対するSMBCグループ全体の取組みについてお話を伺います。

対面・非対面、リアル・デジタル、両面でのわかりやすさが求められている

― この度はアワード2020での受賞、おめでとうございます。まずは令和の時代において、日本を代表する金融機関として求められていることを、社会的な影響、コロナ禍の中での課題といった観点からお聞かせください。

IT化はさらに加速されるでしょうし、「非対面でのコミュニケーション」ということも新たに加わったと思います。ただ、金融界、銀行業界はもともと非常に規制が多い業界でして、ともすれば法令上必要な事項の説明を優先しがちでした。お客さまに本当にわかりやすくお伝えするという意識が後回しになっていた面があることは事実です。そもそも根っこのカルチャーにおいて、我々の業界には改善の余地があったのです。

― 改善の余地とは、どういうことですか。

先に、今までの流れをご説明します。まず 2013年に、障害者差別解消法が成立しました。また、高齢社会の進展が強調されるようになりました。その辺りが1つのターニングポイントで、「誰にでもわかりやすく」ということが重視されるようになってきた。そして「ユニバーサルマナー」の導入から始まり、いま推進されているユニバーサルコミュニケーションデザイン(UCD)にも広げてきました。私どもは、2014年頃からアワードにエントリーさせていただいたかと思います。

― UCDは少しずつ浸透していたわけですね。

決定的になったのが2017年で、トピックが2つあります。1つは金融庁から「顧客本位の業務運営に関する原則」が公表されたこと。本原則を採択するかたちで、SMBCグループも「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」を策定・公表しました。その指針の1つが「重要な情報のわかりやすい提供」。これがUCDへの取組みにつながっていくわけです。
もう1つは銀行の店舗改革を始めたことです。400か店超の支店がありますが、日常的な取引はできるだけデジタル化を進める、来店いただくお客さまにはライフプランに関することなどを丁寧にコンサルティングさせていただく。そのように支店を大きく変えていこうということを2017年度頃から始め、3年にわたって進めてきました。

― 日常的な取引をデジタル化することでお客さまと向き合う時間を増やしてきたのですね。

さらにこの1年ぐらいはコロナ禍ということもあり、デジタル化がより加速しました。それで、お客さまとの接点のあり方が、対面と非対面、リアルとデジタルというように変わってきています。その中で、その両面において誰にでも「わかりやすい情報提供」を追求していかなくてはいけなくなった。こういう流れがあったと思っています。

UCDをSMBCグループの企業文化に

― 次に三井住友フィナンシャルグループとしての取組みについて伺います。特に、グループUDコンテストを実施されたり、積極的にUCDAの2級講座を取得されたりと、この2年ほど本格的に「わかりやすさ」に取り組まれています。グループ企業の中には温度差もあるかと思いますが。

最初に本格的にUCDに取り組んだのはSMBCですが、「お客さま本位の業務運営」が特に求められるSMBC日興証券、SMBC信託銀行でもアワードにエントリーさせていただくようになりました。さらに、グループを挙げて「重要な情報のわかりやすい提供」に取り組んでいく中で、グループベースでの研修やセミナーを行ってリテラシーを上げていく、あるいはUCDAの資格取得を推奨していく。そうしたことによって、UCDを私ども企業グループの文化にしていこうと考えたわけです。

― 企業グループの文化を、どのように作り上げていこうとお考えですか。

この何年かは、銀行から始まった取組みをグループベースで横展開して、グループ各社も含めた役職員のマインドを引き上げていくことに取り組んでいます。今年度はグループ内で開催したコンテストなどで切磋琢磨し、ご評価もいただきました。こうした取組みをいま進めつつあるということです。

わかりやすさの追求に終わりはない

― 2年連続でアワードを受賞されて、いろいろな反響が内外にあったかと思いますが、いかがでしたか。

大変光栄ですし、グループでの取組みをご評価いただいた実行委員長賞、これもすごくうれしいですね。もともと銀行から始まった取組みがグループ全体のレベルを底上げしていくという動きをご評価いただいたことも非常にありがたいと思います。外部の専門機関から評価されたということは、やはり社内、グループ内、社員のモチベーション、意識の向上につながります。今後もこういう企業でありたいと思っております。

― 継続的な取組みは色々とご苦労することが多いかと思います。

これは、「ここまでやれば終わり」という取組みではありません。例えば銀行のお客さまの層は、若い方からご高齢の方まで、非常に幅広くなっています。お客さまによって求めるものも全然違いますし、デジタル化については、抵抗がない方もいれば、ある方もいらっしゃる。そういうことを考えると、やるべきことはまだまだいくらでもあると思います。

― アワードを受賞したことで何か変わると思いますか。

責任の重さを感じますが、いい意味でプレッシャーを感じながら、より高みを目指していきたいですし、そういうふうにつながっていくとうれしいと思います。

リアルでもデジタルでも「わかりやすく」

― 「お客さま本位の業務運営」の定着に向けた活動を続けられている中で、今後の取組み目標について教えてください。

2つに絞って申し上げます。先に申し上げたように、コロナ禍でお客さまとの接点のあり方が大きく変わってきました。対面・非対面、リアル・デジタル、それぞれに理解しやすい説明、情報提供のあり方が違います。ですから、例えばデジタル化を推奨するチラシが、そもそも字が小さくてわかりにくければ、デジタルのご利用を始めていただけない。「読んでみよう、やってみよう」と思っていただくためには、リアルな紙の広告物を見たときのわかりやすさが必要です。もちろん、スマホでアプリを使ってみるときも、本当にユーザビリティを考えたものになっていなければいけません。

― 確かに、媒体に応じて見やすさ・使いやすさを検討する必要がありますね。

リアルの場合でもデジタルの場合でもわかりやすく伝えるということが、1つの大きなポイントです。もう1つは、金融商品とか、サービスというものは、どうしても複雑で、そもそもわかりにくい。それをいかにして誰もが理解しやすい表現、見せ方にするかということが大きな課題だと思います。

― 金融商品は形がないものだからこそ、わかりやすい情報提供が非常に重要になってくると思います。

そのためには、やはり我々だけでやっていくには無理があって、科学的な知見、貴協会のような外部の知見なども得ながら進化させていかなくてはいけないと思っています。

― 私どもにも、最近はデジタル化に関するご相談がよくあります。でも、いきなり移行するのは混乱しますよね。まず印刷物をわかりやすくして、それからデジタルに誘導する必要がある。そういう点で、貴行は順番を踏んで活動されているなと思います。

ありがとうございます。金融機関の取組みについてお話をしましたが、今やUCDの重要性は社会全体で求められていると思います。

印刷物と動画のコミュニケーションデザイン(UCDAアワード2020受賞)

「UCDといえばSMBC」といわれるブランドを作りたい

― 最後に、UCDAに求めること、厳しいご意見をいただければと思います。昨年は「もっと有名になってほしい」というお言葉をいただきまして、それがすごく刺激になっています。

このUCDAアワードをいただいたことは大変なステイタスだと思っています。従業員もそういう意識は強くなっていますし、社会的な認知度も上がってきていると思います。それをさらに高めていただいて、「SMBCはすごいな、UCDAアワードを取っているんだな」と言われるくらいになればよいと思っています。今、ダイバーシティや環境関連など、いろいろな認証の枠組みがありますし、SDGsという流れの中で、社会に対して配慮すべきことに一生懸命取り組んでいること、成果を出していることは、対外的にも大きなメッセージになります。

― それが企業のブランド、企業価値につながりますよね。

ですから、「UCDといえばSMBCグループ」といわれるような、それぐらいのブランドを作りたいですし、それでお客さまが「あの会社の従業員は資格認定講座を受けているんだ、さすがだね」と言ってくださるように、これからも頑張っていきたいと思っております。

― 私どもも、もっと頑張らなくてはいけないという気持ちでいっぱいです。本日は貴重なお時間をありがとうございました。