コラムのコンセプト

現象だけを見ていては、何も解決されません。
調べて、議論をして、分析をして、
知識を深めなければ、本質は見えてこないのです。
このコラムでは、有識者の方々の経験や知見を通して、「情報品質」の本質を探っていきます。

フィデューシャリー・デューティー事情 第3回

  弁護士法人 中央総合法律事務所
社員弁護士パートナー
UCDA理事 錦野裕宗

企業が「情報のわかりやすさ」を追求する燃料は何か

第2回では、「情報のわかりやすさ」という分野には、FD原則の企業(金融事業者)の競争・市場原理に任せ、監督当局は一歩引こうとの考えが、ぴったりと当てはまる、との私の実感を述べました。
「情報のわかりやすさ」の真の実現は、企業間の競争・市場原理により、達成されるものです。行政官の顔色を伺いながら・・・、ということをいくら一生懸命やっても、その達成は実現し難いでしょう。
「情報のわかりやすさ」の真の実現が、企業利益にプラスであり、また不可欠であることを認識することがスタートだと思います。

顧客は「情報のわかりやすさ」を真に求めています。現代は、町の電気屋さんが薦めるカメラをその人柄等への信頼から購入するのではなく、顧客が家電量販店に足を運び、あるいはネット上で、沢山のカメラの中から自分に必要な機能を有しており、またリーズナブルな価格のものを、自ら選ぶ時代ではないでしょうか?
機能がわかっているカメラと機能が不明なカメラがあれば、前者が選ばれることとなります。
まして、金融商品・保険商品は、カメラのように、目で見たり、手にとって触れることができません。このような無形のものは、顧客にとって、「情報=商品」との図式が成り立ちやすいのではないでしょうか。この分野では、「情報品質」の良いものは、商品の内容・品質が良い、とのイメージにより繋がりやすいようにも思います。
このように、「情報のわかりやすさ」が達成されれば、顧客から選んでもらえ、購入してもらえるため、企業利益に繋がることとなります。企業が、これに係る取組みを行う、何よりのインセンティブであり、燃料です。企業利益に繋がるものであれば、相応の資本を投下することもできるようになります。
「情報のわかりやすさ」に、より優れたものが選ばれるため、企業間には「情報のわかりやすさ」に関する競争が生まれ、そして企業間の競争というものは終わることのないものであるため、どんどん良くなっていきます。
「わかりやすさ」に終わりのない、小さく生まれても大きく育っていく、世界です。
商品の販売者にも目を向ける必要があります。顧客に実際に商品を売ってくれるのは、販売者だからです。保険の世界では、生命保険の営業職員さんや保険代理店の方がこれに当てはまります。
商品の販売者もプロです。プロ野球選手が、バットやグラブ等の道具に拘るのと同様、プロの販売者も、道具(顧客に商品内容を説明する資料)に拘るはずです。保険であれば、「契約概要」「注意喚起情報」の重要事項説明書面、投資信託であれば交付目論見書がこれに当たります。
商品の販売者にとって、商品内容の説明やコンサルティングは、まさに販売勧誘の主戦場です。プロが、その真剣勝負に、より使いやすい道具を選ぶのは当然で、その道具が「わかりやすい書面」ということとなります。このように、「情報のわかりやすさ」が実現すれば、商品の販売者からも選択され、企業利益に繋がります。

企業が、「情報のわかりやすさ」を実現しようとするとき、当然、「顧客」にとってわかりやすいのか、ということを考えます。勿論これは大事なことです。
しかし、書面のユーザーは他にもいます。「販売者」や自社の「職員」です。これらの方は、「顧客」よりも身近で、本音の声も聞きやすいです。その声にも耳を傾けることにより、良いアイデアが見つかることがきっとありますので、どうか、これらの方の声も忘れないように、見逃さないように、きちんと、意識して、聞いて頂きたいと思います。

第4回に続く icon-link