コラムのコンセプト

現象だけを見ていては、何も解決されません。
調べて、議論をして、分析をして、
知識を深めなければ、本質は見えてこないのです。
このコラムでは、有識者の方々の経験や知見を通して、「情報品質」の本質を探っていきます。

フィデューシャリー・デューティー事情 第4回(最終回)

  弁護士法人 中央総合法律事務所
社員弁護士パートナー
UCDA理事 錦野裕宗

顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載

FD原則では、「形式的・画一的な対応」は、悪とされます。競争・市場原理の中で、金融事業者が自ら創意工夫を発揮し、顧客本位の実質的達成が求められるところです。「情報のわかりやすさ」が正に競争分野にあり、企業がこれを達成することが企業利益に繋がることは、第3回で述べました。

「情報のわかりやすさ」追及の第一歩は、当然のことなのですが、情報が「顧客に見られる(べき)、読まれる(べき)、理解される(べき)」ことを意識することです。
一方、世の中を見ますと、「顧客に見られる、読まれる、理解される」ことを必ずしも前提としない情報提供があるように思います。例えば、ある商品に、顧客に不利益となる情報があったとします。あるべき姿としては、このような不利益事項は、商品購入の際に顧客がそれを踏まえて購入判断を行うことができるよう、顧客に対し、見やすくわかりやすく注意喚起(情報提供)されるべきなのです。

当然、不利益事項ですから、それを読んだ顧客が商品購入に消極的となることも想定されます。企業側に、一応書いてはおくが、できれば顧客に読んでほしくないとのインセンティブが生じないとも限りません。そうなれば、不利益事項は、目立たないところに、小さな文字で、詰めて、読みにくい文章で記載されることとなります。その一方で、この不利益事項に関し、顧客から事後にクレームがあったときには、、企業は「(書面の)ここに書いてあります」と説明することとなります。訴訟等の局面でも、不利益事項は書面に記載し、説明していると主張していくこととなります。私は、これを揶揄して「顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載」と呼んでいます。

しかし、このような企業の態度、即ち、「顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載」は明らかにアンフェアです。自ら読まれることを前提とせず、むしろ読んで欲しくない、との思いで不利益事項を書面に記載しておきながら、後で「書面に書いてあるから、読んでいて当然でしょう」と主張するものであるからです。前述のとおり、FD原則は「形式的・画一的な対応」を悪としますが、「顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載」には、それを超えた「悪質」を感じざるを得ません。「顧客に対して誠実・公正に業務を行っている」(FD原則2)とは到底いえません。
加えて、近時、裁判所や金融ADRの判断は、従前に比し、顕著に消費者保護に配慮したものとなっています。書面にわかりにくい記載をしているだけで、企業側を免責するのではなく、よりわかりやすい記載や懇切丁寧な口頭説明を行うべきとの判断がなされている例も相応にあります。とすれば、「顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載」は、企業にとって真にリスクヘッジとはなっていない、ということになります。

いずれにしても、「顧客に読まれることを前提としない企業のリスクヘッジ記載」は、文字通り「顧客に読まれることを前提としない」、読まれたくないわけですから、企業がこのようなマインドを変更しない限り、未来永劫、わかりやすくなるはずがありません。
「情報のわかりやすさ」をめざすUCDAの世界では、これは「悪」です。

不利益事項を、見やすくわかりやすく注意喚起することは、短期的に見れば顧客が商品の購入を思いとどまることとなり、企業利益にマイナスとなる場合もあるのでしょう。しかし、中長期的に見れば、顧客とのトラブルを真に防止でき、企業は大事な顧客を失うことなく、企業利益に繋がると考えるべきです(安定した顧客基盤と収益の確保)。これこそが、FD原則が求める顧客本位の実質的達成であり、「金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるようわかりやすく提供」することを求めるFD原則5に合致する対応だと思います。

私は、FD原則の特徴、ポイントは、以下の5つと考えています。

1.市場原理・CSV(社会価値と企業価値の同時実現)の発想
2.販売会社を、(あたかも)顧客と委任関係あるアドバイザーと擬制
3.金融事業者に、「プロフェッショナルリズム」を要求
4.「見える化」の促進
5.企業文化・風土の醸成・定着

これまで4回に渡り、私が「FD原則とUCDAは、とても似ている」と感じた点を、思いつくままに述べてきました。本当に、共通点は多く、UCDAは、FD原則のいう「有識者等で構成される第三者的な主体が、例えば民間における自発的な取組みとして形成され、金融事業者全般あるいは各金融事業者の取組方針や取組状況を顧客の立場から評価し、評価結果を公表するといったメカニズム」に正にふさわしい存在ではないかと考えています。
このテーマで、自分なりにお伝えしたいことはすべて書くことができました。ここで一旦、FD原則関連のコラムは終了させていただきます。この一連のコラムが、皆様の共感を少しでも得ることができたとすれば、これに勝る喜びはありません。
まだ、私が気付いていない共通点もあるように思います。皆様が、新しい共通点を見つけられた場合には、お会いしたときにでも、ぜひご教示ください。

長い間、このコラムにお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました!

<完>