コラムのコンセプト

現象だけを見ていては、何も解決されません。
調べて、議論をして、分析をして、
知識を深めなければ、本質は見えてこないのです。
このコラムでは、有識者の方々の経験や知見を通して、「情報品質」の本質を探っていきます。

官と民が紡ぎだす「情報品質と社会的責任」 第3回(最終回)

 

読売新聞 元論説委員

UCDA顧問 永井順國

顧客本位の情報品質の向上に向けて

 企業のコミュニケーション活動は、それぞれの当事者が一見、ばらばらの原理の下で動いているように見えて、実は、共通する理念・ミッションに基づいて、同じ方向に向かって動いている。そうとらえていいと思います。特に金融業界は昨今、情報品質という社会的責任を時代の要請として担っています。それを実現するためにはUCD、すなわちユニバーサル・コミュニケーション・デザインを通じた「偽りのない・誤解を生まない・わかりやすい」情報の提供が欠かせません。これを全うしてはじめて、顧客本位の業務運営、つまり生活者とのあいだに、質の高いコミュニケーションが成立するのです。
 先ごろ金融庁が発表した、新たな金融行政方針の「主なポイント」によれば、「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」を目標として掲げています。

 そのうえで、顧客本位の業務運営の原則定着のために、金融機関の取組の「見える化」を促進するとうたっています。さらに、金融庁自体のガバナンス改革のために、「さまざまなチャネルから外部の意見や批判が入る仕組みの整備」に力を注ぐとも言及しています。
 言い換えれば、「社会正義の実現」のために顧客や市民サイドに立って、何がフェアで、何がアンフェアかを、自らを律しつつ追究していくと宣言したとも言い得ます。

 UCDAはこの10年、民間の第3者機関(これは広い意味のNPOそのものですが)として、生活者にとって重要な情報をわかりやすく伝えると言うミッションを一貫して掲げて参りました。そして「産業・学術・生活者」のそれぞれの知恵と努力を結集して、客観的評価のための基準を策定し、改善を加えながら、現在に至っています。これらの構成メンバーの間で、何が共通しているのか。金融業界、金融庁、そしてUCDAのいずれもが、その使命・役割の対象と目的を、「顧客・生活者・市民・国民のため」に置いていることです。

 この活動では、行政、企業、NPOのそれぞれが、主体的に「公」すなわち「パブリック」に参加・参画していることが見て取れます。その意味で、市民協働による「新しい公共空間」を形成していると言い得ます。顧客本位の情報品質のさらなる向上に向けて、たゆまぬ努力を傾け続けていきたい。そう考えます。