「第三者」による客観的な評価

09:尾崎 護-4

●言葉を守る受け継ぐ責任

写真福田:ところで尾崎さんご自身は文章を書くとき、気を配っていることはありますか。
尾崎:まず、法律の文章などは正確に書かなければなりません。見るからに難しい言葉を使う必要はないのですが、漢字の知識は必要です。漢字の威力というのは実にすごいものです。文字にしっかりと意味が込められていますからね。
ですからビシッと決めたいときは漢字で、逆に政府の答申など、やわらかく伝えたい場合には大和言葉の仮名文字を使って角が立たないようにすることもあります。
福田:文字が意味を持たない平仮名は文体のイメージもやさしくしてくれますね。一方、平仮名だけで文章を書くと読みづらくなるものもある。法律や経済の文書はわけがわからなくなってしまいます。考えてみると、漢字というのは本当に奥が深い。
ところが、ご指摘の通り最近はやたら外来語のカタカナ表記が頻出して、文字面だけでは意味不明のものが多い。コンピュータの説明書などはカタカナだらけで読めば読むほどわからなくなるし。
尾崎:コンピュータでも法律でもjargon(ジャーゴン:符丁、隠語)のようなものが多く、専門家同士でないと コミュニケーションが成立しないものが多々あります。特に外国語をそのままカタカナで書くのは表音文字と同じですから、見るだけでは意味がわかりません。 そうしたものは専門家が一般にもわかりやすい日本語で表す努力をしなければならない。日本人のコミュニケーションにとっていちばん大切なことかもしれませ ん。
福田:外来語の氾濫に対する「わかりやすさ対策」はどのようにしたらいいのでしょうか。
写真尾崎:カ タカナを漢字に置きか得る努力が必要です。実際、過去にはそうした例が数多くあります。たとえば「philosophy」の訳語「哲学」は、漢字を見ただ けでなんとなくわかった気になれる。あれは訳語の中で最もすごいもののひとつですね。「speech」の訳語「演説」などは、いつの間にか中国でも使われ るようになりました。このあたりは皆、幕末から明治期にかけ西周(にしあまね)という教育者が生み出した素晴らしい言葉です。
福田:漢字は見るだけでイメージがわきますからね。
尾崎:コミュニケーションにどのくらい漢字を入れるかはすごく重要なことなのです。作家の呉善花(おうそんふぁ) さんから伺ったのですが、哲学や倫理学の本はハングル語で読んでも良くわからないが、漢字のある日本語で読むと良くわかったそうです。抽象的な話は特に表 音文字では表しきれない。さらに、いわく言い難い情緒を伝えるのに大和言葉を合わせたのが日本語です。これがまたいい。
福田:この素晴らしい言葉を守っていく責任が我々にはあるわけですね。お話を伺って、なにより日本語を守る努力をしなければならないと痛感しました。日本語を正しく使うということは、情報を正しく伝えるということにも繋がりますね。本日はありがとうございました。

プロフィール/尾崎 護(おざき・まもる)

1935年生まれ。東京大学卒業。
1958年大蔵省入省後、主税局長、国税庁長官、大蔵事務次官、国民金融公庫総裁などを歴任。
竹下内閣時代の1988年、主税局長として消費税導入を牽引した。
現在は、公益財団法人矢崎科学技術振興記念財団理事長、矢崎総業株式会社顧問、財団法人歴史民俗博物館振興会理事長などを務める。

保護中: UCDAトーク

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