「第三者」による客観的な評価

11:孔令文-3

相手の視点で碁盤を見る

福田:私は、コミュニケーション力をつけるのに囲碁を活用することがいいことだと思っています。技術だけではな く読解力や戦略戦術の思考力が養えるばかりでなく、対局を通して色々な分野の人とも対話ができますから。そういうものが大学の授業に取り入れられるのはと てもいいことだと思います。知的なゲームは思考力を高めるし、集中力、持久力などいろいろな力を鍛えられます。UCDAは、相手の立場に立ってわかりやす いコミュニケーションを考えるという活動をしています。囲碁の世界と通じるものがあると思いますが、いかがでしょうか。
写真: 囲碁は、行き詰ったときには相手の視点で考えます。相手の席から同じ碁盤を見るとまったく違って見える。それが戦略の大きなヒントになります。相手の視点 から学ぶという点は、UCDAと通じるところがありますね。勝負が動くときは、空気が変わります。相手が発しているものを「読む」のです。
福田:私たちは、企業がユーザーに送る通知物や書類などについて、どこをどうユーザーが見ているかを調べて、問題 点を探して改善するような活動を行っています。コミュニケーションに重要なのは、相手の立場に立って問題点を見つけ、さらにそれを適切に改善することだと 思っています。
:相手の立場に立つと、相手が何をしたいのかが見えてくる。これがコミュニケーションということでしょうか。囲 碁では大局を見るということがとても大切です。アマチュアの人は、どうしても1カ所に集中してしまいます。私が福田さんに囲碁でアドバイスするとしたら、 「次の一手のために全局を見る」ということです。これはコミュニケーションにも通じることですね。
写真福田: なるほど。私がとても好きな言葉には「定石を覚えて忘れる」というのがあります。まず、今の仕事を覚える。そしてそれをベースに、新しいことにチャレンジ するということですね。囲碁も同じですが、企業経営や工場管理の場合一番怖いことは先入観というものです。先入観が強いと大局が見えなくなってしまうし、 改革への判断が偏ってしまいます。定石を覚えて忘れるということは、定石を基本にするが、状況によって臨機応変に対処するということなんです。ところで話 は変わりますが、プロは一局終わって必ず反省会をしますが、これはすごいですね。ビジネスの場でもやるべきだと思います。
:そうですね。負けることは自分を否定されることで、とても悔しいことです。けれど、自分の失敗の原因を見つけ ることは、次の成功を目指すためには絶対に必要なことです。日本には「御城碁」というものがありました。これは戦争をしないで碁盤の上で解決しましょうと いうことでした。大名が自分の代わりに強い者に対戦させたことから、名人という言葉もできたわけですが、中国の歴代国家主席はこれを勉強してきました。囲 碁を通じて相手とのコミュニケーションをはかり、問題を解決することを勉強してきたのです。米国のオバマ大統領が胡錦涛国家主席に碁盤をプレゼントしたこ となども、「もし争うようなことが生じたら、これで解決しましょう」というメッセージだったと言われています。
福田:なるほど。囲碁は、コミュニケーションという観点から見ても非常に深い意義があるんですね。本日はどうもありがとうございました。とても楽しく、とても勉強になりました。

プロフィール/孔令文(こう・れいぶん)

1981年中国生まれ。父親は中国棋士・聶衛平九段、母親は中国棋士・孔祥明八段。10歳で日本に渡り、菊池康郎氏に師事。1998年4月1日入 段、2000年二段、2001年三段、2002年四段。2006年五段。2007年六段。2003年に小林覚九段の長女・清芽さんと結婚。

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