「第三者」による客観的な評価

21:金巻龍一-4

●コミュニケーションの齟齬がコストを生んでいる

福田:他に「わかりやすさ」についてご提案はありませんか?
写真金巻:コ ストダウンでしょうか。企業の業務改善はその業務がいかに効率的に行われるかに着目しがちですが、それよりもなぜその業務が発生するのかを考えることの方 が重要です。たとえば、クレーム受付センター。電話をするといつも話し中だったり長く待たされたりした経験がどなたにもあると思います。生活者としても 「もっと効率的に処理できないものか」とイライラしたりするわけですが。実際には効率的なクレーム処理よりも、クレームがどうして起きるかに着目すべきで すよね。クレームの原因を考えていくと、意外に説明書にきちんと記載されていたりするのに、肝心の「わかる」「誤解がない」への配慮が不足している。だか ら誤解のままクレームとなる。これがとても多いのだと思います。社内のメールも同じです。わかってもらいたいからレポートやメールを長々と書く。でも、長 いから相手は読まない。それが延々と繰り返され、最後は読まなかったほうが悪いという考え方が蔓延する。日本企業は業務改革をすでにやりきっていると考え ますが、「見やすさ」「わかりやすさ」を視点にした解決の機会はまだまだ残っていると思います。言うなれば、「見やすさ」「わかりやすさ」は業務改善に残 された最後の砦だと思います。
写真福田:おっ しゃるとおりですね。金巻さんはUCDAの考え方に共感されて、今回理事として参加していただくことになりました。これまでUCDAは、ユニバーサルコ ミュニケーションデザインの普及によるコミュニケーションの効率化が主な活動でしたが、金巻さんの参加で、もっと経営そのものに入り込んだ視点で業務の効 率化について提案していきたいですね。
金巻:目下いろいろなデータを集めているところです。例えば、アメリカの国立保険医療科学学院の報告によれば同国 の医療事故の70〜80%はコミュニケーションの欠如が原因だそうです。また日本の不動産取引のトラブル原因は圧倒的に「重要事項の不告知を含む重要事項 説明書」の不備によるものだそうです。コミュニケーションの齟齬がいかに社会にコストを生むかを知る非常に興味深いデータと思います。わかりやすさという のは経営に関わる問題だと考えれば、改善の得意な日本人のことですから、必ずホスピタリティとして輸出可能なものになるはずです。コストそのものにメスを 入れるのではなく、コストの発生源である「わかりにくさ」にメスを入れるということが大事だと思います。
福田:「見やすく、わかりやすく、伝わりやすく」というコミュニケーションの視点からのコストダウンというのは新 しいですね。UCDAは、デザイン的なことで、「お客様の立場を考えたわかりやすいものに」という視点でスタートしましたが、おっしゃるように、経営その ものに関わるという新しい視点からも取り組んでいきたいと思います。ありがとうございました。

プロフィール/金巻龍一(かねまき・りゅういち)

早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科博士前期課程修了。日本ビクター、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)等を経て、プラ イスウォーターハウス コンサルタント入社。アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービスに統合後、2003年より戦略コンサルティンググループを統括、専務取締役兼日本IBM執行役員。2010年に日本IBMへ統合、執行役員戦略コ ンサルティンググループ統括。2012年日本IBM常務執行役員 就任。
専門領域は、グローバル化戦略、マーケティング戦略、企業統合マネジメント、プロフェッショナル人材管理、法人営業改革。主な著書は、「企業統合」、「カ リスマの消えた夏」。慶應義塾大学 SDM(System Design & Management)大学院 特別研究教授

  • Hatena
  • Google+
ページトップ