●いかに相手からおもしろいネタを引き出すか
福田:塚越さんが最初に中国に赴任した30年ほど前は、インフラ面などが今とは全然違いますよね。
塚越:当時のソ連は、いわゆる鉄のカーテンの中でなかなかニュースが取れませんでした。詳しくは言えませんが、あ れは 、育てていた情報源のひとつに、大きな魚がかかったようなものでした。 報道の世界で必要なのはコミュニケーション能力。相手からいかにおもしろい話を引き出すか、真実を引き出すかが一番大事なんですよ。食材が良ければ生で食 べてもおいしいけれど、食材が悪ければいくら名人が腕をふるってもおいしくない。記者にとっては、全能力をつかって いかにいいネタを入手するかが勝負 なんです。
福田:中国では報道 活動に制約がありますか 。
塚越:中国メディアも表面的には、西側メディアと変わりありません。しかし根本的なところで、大きく違う。中国で はメディアは究極のところは宣伝機関だし、西側では権力監視を大きな役割とする報道機関だという点です。「新華社電によれば……」とそのまま転電していた のでは、日本の読者には本当のことはなかなか分からない。昨年の高速鉄道事故で、なぜ車両を埋めてしまったのか、重慶の公安局長がなぜアメリカの総領事館 に逃げ込んだのか、読者はわからないでしょう。ですから 特派員時代は、 表面的な情報の裏にある真相や本音をカバーする記事を書くように努めていました。
福田:ネット社会、国際社会になり、情報化が進むと中国はどうなるのでしょう。
塚越:一番中国当局が悩んで いることですよね。いままではメディアを国家が抑えていましたが、いまや個人がブログやツイッターで勝手に発信していますから、いろんな情報が飛び交うわ けです。アラブの春のこともありますし、さまざまな システムで規制しようと している。でも、中国のネット人口は5 億人。モグラたたきみたいなものですね。責任者も管理しきれないと言っています。いずれは風穴が開くというか、じわじわ波が押し寄せるように自由の許容度 が広がるのではないでしょうか。