UCDAアワード2012:講評

「アナザ―ボイス」と余白の効用

評議員長(UCDA理事/政策研究大学院大学 客員教授) 永井 順國 

今年のアワードの特徴は、以下の二つに集約されると思います。
一つは、評価対象を、従来の生命保険、損害保険に加えて、投資信託の募集パンフレットとOTC医薬品の商品パッケージの商品パッケージに広げたことです。いわば、人の生命・健康・財産にかかわる「安心で安全な情報」を見る姿勢です。
そして、今回から新たに「アナザーボイス」として、生活者の視点を汲みあげる仕組みを導入しました。これが第二の特色でしょう。
様々な分野の専門家による評価(むろん専門家自身も生活者の側面を持っているのですが)と同時に、利用者・購入者の立場で、例えば「買いたいと思うか」「伝わりやすいか」を聞く。このことは、企業の対顧客言語の充実にも欠かせない要素でしょう。
アナザーボイスによる評価結果を読み進めながら、「余白の効用」に改めて気づかせてくれたのも、今年の収穫でした。
例えば、文章で行を変える際、最後の行の文字を余白にし、次の行の文頭を一字下げて、ここでも余白を作る。この余白には実は、たっぷりと情報が入っているのです。読み手は、次のパラグラフが、「しかし」で始まるのか、「さらに」と続くのか、あるいは「他方」という言葉で場面転換されるのか、そうしたことをめまぐるしく考えながら活字を追うものなのです。
情報の充実と余白の効用を同時に活かす作業には、ある種の矛盾がつきまといます。それを承知で分かりやすさを追い求める。物書きのはしくれを続けている身として、改めて自らを戒めています。