
サンヨー食品株式会社
開発本部 副本部長 開発第2部 部長
江藤淳 氏
誰もが知る商品だからこそ「わかりやすく」
― 「サッポロ一番」シリーズは国民的ブランドですが、あえてパッケージを改善するきっかけや背景は何だったのでしょうか。
江藤さま:「サッポロ一番」シリーズは、1966年発売の「しょうゆ味」が今年で60周年を迎えました。その後「みそラーメン」「塩らーめん」とラインアップを広げていく中で、私たちは常にその時代における「ベストな表示」を追求してきました。
しかしその結果、商品ごとの表示に若干の差が生じていたことも事実です。味の個性や特徴を押し出したパッケージの表面はそれぞれの商品の特徴があって良いのですが、裏面の調理方法や一括表示は商品ごとに差があるより、むしろ統一されていた方がお客さまにとってわかりやすいのではないかと考えたのです。
裏面には「原材料表示」や「注意喚起情報」が集中しているので、これまでは社内の専門的な知識を持つ部署が自分たちなりに考えて工夫を重ねてきました。しかしやはり一度、第三者の客観的目線や専門家視点で評価してもらえないだろうかと考えたのがきっかけとなり、UCDAに相談して「DC9ヒューリスティック評価」を受けることにしたのです。
試行錯誤を重ねた「調理方法」の文章表現
― 実際に評価を受けて印象に残っていることはありますか。
江藤さま: 大きな気付きは、「文字組みの読みにくさ」という点でした。特に印象的だったのが「行間」の重要性です。言われてみれば確かにその通りなのですが、「行間を広く取るだけでこれほど読みやすくなるのか」という点は自分たちだけではなかなか気づけなかった点だと感じています。
― 改めて指摘を受けて気付いた点は他にもあるのでしょうか。
江藤さま:「サッポロ一番」シリーズは長年にわたって親しんでくださっているお客さまも多いため、自然に受け入れていただける形を維持しながら、初めて手に取る方にも一瞬で伝わる表現にしていくことを意識して改善を進めました。
最も時間がかかったのは「調理方法」の文章ですね。これまで「カップ2杯半」という表現を併記していましたが、料理に慣れていない方にとっては「どんな容量のカップを使って、どのくらいの量を入れるのかわかりにくい」という指摘がありました。良かれと思って情報を補っていたものの、それがかえってわかりにくさに繋がっていたのだと感じたポイントです。最終的には余分な迷いをなくすために「500ml」といった具体的な数値のみの表現へ統一することにしました。
「お客さまにとって何がベストか」で乗り越えた最大の難関

―これだけ親しまれているブランドとなると、改善にもさまざまなハードルや苦労があったと想像します。具体的にどのような手順や手続きがあったのでしょうか。
江藤さま:例えば行間を広く取るためには、パッケージ全体の内容やレイアウトを思い切って見直す必要がありました。「サッポロ一番」の5食パックは全6面で構成されていますが、その中で最も広くスペースを確保できる面を原材料名や調理方法など「情報」の表示にあてることで、十分な文字サイズや行間を維持できるようにしました。
そのスペースを確保するためにもこれまで定位置にあったバーコードの位置を見直し、さらにキャンペーン情報の配置も整理しています。結果としてキャンペーン情報は移動後のほうが正面からより見やすい位置になり、むしろメリットが生まれたと思います。きっかけはレイアウトの変更でしたが、結果的にパッケージ全体の最適化へと繋がりました。
― 社内の調整や生産現場との連携で特に苦労された点はありますか。
江藤さま:今回の改善で最大の難関となったのは「賞味期限」の印字位置を変えたことです。この変更は単にデザインを変えるだけではなく、製造ラインそのものを入れ替え改修する必要があり、工場の全ラインに影響が及ぶ非常に大きな決断でした。
果たしてそれが可能かどうかという懸念もありましたが、開発本部からマーケティング本部へ提案を行い、何度も協議を重ねた結果、「お客さまにとって何がベストか」という共通認識を持つことができ、全社一丸となった協力体制を築くことができました。
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| 「サッポロ一番みそラーメン(5食パック)商品パッケージ」 |
むしろ「反響がない」ことがポジティブな反響の証
― 改善された「サッポロ一番 みそラーメン」は、2025年のUCDAアワードで「専門家賞」を受賞されました。エントリーのきっかけと受賞後の社内の反応はいかがでしたか。
江藤さま:一連の改善を通じて、社内でも「非常に読みやすくなった」という確かな手応えがありました。アワードへのエントリーは手応えを改めて客観的に評価していただきたいと考えたからです。結果として専門家から高い評価を受けて受賞できたことは、会社としても大きな自信になりました。改善は生産ライン改修など難関がいくつもありましたが、社内からは「大変だったけれど、やって良かったね」という声が上がり、取り組みへの前向きな評価、モチベーションにも繋がったと感じています。

2025年11月開催 UCDAアワード2025選考報告会における「専門家賞」受賞の様子
(左)サンヨー食品株式会社 執行役員 開発本部長 阿部 浩二 様
(右)宮城大学名誉教授 池戸重信氏
― お客さまからの反響はいかがでしょうか。
江藤さま:実は、お客さまから「ここが変わったね」といった反響が殺到しているわけではありません。ですが、大きな反響がないということは現場でトラブルや疑問も生まれていないということ。つまり、食品表示に関してはむしろ「反響がない」ほうが望ましい状態なのではないかと考えています。「カップ2杯半という表現がわかりにくい」といったお問い合わせも改善を境に減りました。
シリーズ展開からカップめんに、そして業界全体の「情報品質」向上へ
― 今回の取り組みは貴社のウェブページで「SDGs活動」の一環としても発信されていますが、その点についてもお聞かせください。
江藤さま:わかりやすさへの取り組みは、「お客さまの声にどうお応えしていくか」という点においても当社のSDGsにおける大切なテーマです。今回の改善をきっかけに「サッポロ一番」シリーズ7品を横並びで見直しました。冒頭でも触れたように同じシリーズでも商品ごとにデザインや表現が異なります。商品の特徴や個性を活かしつつ、重要な表示についてはシリーズ全体のわかりやすさ、統一感も持たせていくことが重要だと考えました。
※:SDGs活動(サンヨー食品)「分かりやすい表示への取り組み」

改善へのチャレンジを通じて得た「基準」と「共通認識」
― 食品業界ではHACCP※をはじめ、さまざまな品質管理手法がありますね。UCDは「情報品質」の管理手法とも言えますが、今回の改善をスタートとして今後の展望をお聞かせください。
江藤さま:これまで「袋めん」で取り組んできた改善を「カップめん」にも広げていくことを検討しています。実は「カップめん」の主力商品である「カップスター」も2年前に「DC9ヒューリスティック評価」を受けているのですが、まだその結果を反映した商品化には至っていません。
「カップめん」を店頭に陳列すると円柱形の容器が回転してしまい、正面を向かないことがあるという特性があります。原材料も多いですし、実質的な表示スペースが袋めん以上に限られてしまうので、全体的な傾向として文字も詰め込みがちです。
そうした制約の中でいかに情報品質を確保していくか、そして袋めんで得た知見をどう活かしていくかが、今後のテーマになると考えています。
※:HACCP(ハサップ)とは、食品における原材料の入荷から製品出荷までの全工程で、食中毒菌汚染や異物混入の危険を分析・管理する衛生管理手法のこと。
― 業界としてどのような課題があると感じていますか。
江藤さま:おいしさや魅力、シズル感など「この商品はどういうものか」というアピールはパッケージの表面でしっかりと伝えつつ、注意すべき点や調理方法といった詳細な情報は裏面の決まった場所に整理されている……「ここを見ればいい」というルールが明確になっていれば、情報をあちこち探しまわる手間も省けますし理想的ですね。
また、デジタル表示のあり方も食品業界全体のテーマと感じます。当社でもパッケージに記載しきれない情報や具体的な「アレンジレシピ」などは二次元コードを通じてウェブページで確認できるようにしています。重要かつ優先度の高い情報をパッケージに集約し、それ以外はデジタルで補完する。そうした「棲み分け」が、今後さらに重要になっていくのではないかと思います。
― 最後に、UCDAやこれからの「情報品質」に期待することをお聞かせください。
江藤さま:実は、かつては「カップめん」の賞味期限の印字位置はメーカーごとに異なっていましたが、業界内で連携し、底面表示が主流になった経緯があります。
UCDでもこうした連携がさらに広がり、お客さまのためを思って「わかりやすい情報提供」を目指す動きが、業界全体に波及していけば良いと思いますね。
― ありがとうございました。


