インタビュー(肩書きは取材当時・左から)
ジブラルタ生命保険株式会社 支払サービスチーム
マネージャー 遠藤 賀子 氏
スタッフ 棟方 唯 氏
スタッフ 光田 伸輔 氏
ファンクショナルチームリーダー 明石 智 氏
 

― ジブラルタ生命保険株式会社様は「入院・手術状況報告書(自己申告用)」でUCDA認証「伝わるデザイン」を取得しました。帳票の制作を担当された支払サービスチームの皆様にお話を伺いました。

お客様のための帳票なのに「伝わらない」ジレンマ

― 認証取得された「入院・手術状況報告書(自己申告用)」について、どういった帳票であるか、ご説明いただけますでしょうか。

光田:保険金の請求書面には、死亡保険、入院手術給付金、介護保険などたくさんの種類がありますが、その中で最も多い「入院給付金、手術給付金」に使われる帳票です。保険金の請求には病院発行の「診断書」の提出が大原則ですが、病院で診断書を発行する場合、通常、5~6千円程度の発行料が必要です。また診断書発行には平均1~2週間の時間がかかるんですね。そこで当社では、お客様の費用と手間を軽減しようという観点から「入院・手術状況報告書(自己申告用)」を使った「簡易請求」を導入しています。「入院・手術状況報告書(自己申告用)」に、病院の発行する領収書・診療明細書を組み合わせることで、より迅速に、コストをかけずに保険金請求ができるメリットがあります。領収書や診療明細書は手術を受けられた日、退院した日にすぐに発行され、お客様の手元に渡るものですので、お客さまが退院された当日でも保険金を請求することができます。

― 今回、「入院・手術状況報告書(自己申告用)」でUCDA認証「伝わるデザイン」を取得しようと考えられた理由を教えてください。

明石:まず当社の方針として「帳票全般をわかりやすくしたい」という共通認識がありました。そこで、お客様視点に立ちユニバーサルデザインを活用し帳票を見直そうという取り組みが始まり、UCDA認証の取得を目指すことになりました。では、どの帳票で認証取得をしようかと考えた時、使用頻度が高い・不備率が高い・営業部門からもっと使いやすくしてほしい……そんな要望が非常に多かったのが、今回の「入院・手術状況報告書(自己申告用)」だったのです。「伝わるデザイン」が難易度の高い認証であることは知っていたのですが、高い目標を持ちたいと認証取得を目指しました。

― 「入院・手術状況報告書(自己申告用)」を選んだ背景として、不備率や現場での改善を求める声があったということですが、具体的な課題にはどのようなことがあったのでしょうか。

光田:この帳票は、領収書や診療明細書などの添付書類の提出が必要です。これらの書類に日常生活では馴染みのない方も多く、「領収書と診療明細書の違いもよくわからない」という方もいらっしゃいます。改善前の旧帳票にも領収書・診療明細書の見本を載せていますが、すべて提出しないといけないのか、ひとつだけでも申請できるのかと迷われて、お問合せが多かったという印象があります。

UCDA認証「伝わるデザイン」取得
「入院・手術状況報告書(自己申告用)」
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認証取得のプロセスで自然と生まれた「わかりやすさ」への工夫

― 認証評価にあたり、専門家・生活者からの評価レポートをお渡ししています。改善にあたり工夫した点など、実際に取り組まれていかがでしたか。

棟方:まず帳票の1ページ目に「ご利用にあたって」「給付金の請求方法について」という項目を設け、そもそも請求方法が2通りあること(①「診断書による請求」、②「入院・手術状況報告書(自己申告用)を使用した請求」(簡易請求))を明確にしました。2ページ目は「記入例」ですが、お客様が実際に記入する手順に沿って番号を付け、順を追って説明するように工夫しました。また、それぞれの説明文は左揃えに統一することでお客様にとって、見やすいデザインになるように変更しました。お客様に実際に記入いただく最後の3ページ目は、不要な項目を削除し簡素化しました。読みやすく、かつ記入しやすいよう、治療期間や手術内容の記入欄スペースを拡張し、文字サイズも拡大しています。文章については、一文が長くならないよう改行する、2つに分けるなど工夫しました。

― 今回はお客様の理解を補助するツールとして、「給付金をご請求される皆さまへ」を新たに作成いただきました。評価にあたった専門家・生活者からも、フローチャートがとても便利で満足度・UXが高いという声がありました。作成の経緯を教えてください。

棟方:「診断書による請求」と「入院・手術状況報告書(自己申告用)」を使った簡易請求の違いがお客様に伝わりにくいという課題に対し、双方の違いを明確に説明する資料もセットでお渡しすることが重要と考えました。実は「給付金をご請求される皆さまへ」は別の担当者が改訂を進めていましたが、今回の認証取得のタイミングに併せて同時に改定することになりました。

― 2つの異なるデザインですが、どのように改善を進められたのでしょうか。

棟方:担当者と連携しながら、「給付金をご請求される皆さまへ」と「入院・手術状況報告書(自己申告用)」が相互にリンクするような表現・文言・デザインとなるように調整を行いました。また、担当者はフローチャートを活用したデザインを新たに提案してくれたのですが、この点がお客様のわかりやすさにつながったと思います。

別添資料:「給付金をご請求される皆様へ」
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― 現在、改善後の帳票が既にリリースされていますが、「伝わるデザイン」認証取得後の社内の反応、帳票についてのお客様の反応はいかがでしょうか。

遠藤:営業現場の皆さまから「見やすくなった」という反応があり手応えを感じています。また、課題であった「診断書による請求」と今回の「帳票を使用した請求」(簡易請求)の違いについてのお問い合わせは少し減っている印象を受けています。とはいえ、まだまだ一部の方のお声のみで、本当の反応はこれからかなと感じます。これからも社内外の反応に耳を傾けていくとともに、リリース後の現状分析を進めていきたいと考えております。

「お客様目線」に立つための人材育成とガイドライン作成

― ここまでお話を伺ってきて、ジブラルタ生命保険様は「お客様目線」で「わかりやすさ」や満足度追求のプロジェクトを全社的に進めておられる印象があります。UCDの人材育成制度である「UCDA認定2級」の取得者数も大変多いですね。これから次の展開、次のステップとしてイメージしていることがあれば教えてください。

明石:すべての帳票でUCDA認証を取得するのが理想ですが、まずはユニバーサルコミュニケーションデザイン(UCD)やユニバーサルデザイン(UD)などの知識を持った人間を増やしていくことが大切だと思っています。また、帳票を変更していく際に指標となるガイドラインの作成にも取り組んでいます。

―ガイドラインの作成では多くの部署の方々と調整されたり、連携されるケースが多いのでしょうか。

明石:そうですね、検討はいろいろなチームの担当者が集まっています。大テーマは「お客様」ですが、そのためには「何から取り組めば良いか」を話し合いました。そこで、まずUCDやUDをしっかりと学んだ上で、わかりにくい部分の多い帳票などを改訂する際の「デザインガイドライン」を作成することを掲げました。

― 基本に立ち返る「ガイドライン」があると、部署を横断して展開していける拠り所のツールになりそうですね。

デジタル化が進む時代でも「紙・帳票」には役割と可能性がある

― 最後に、企業の枠組みを超えて「保険業界全体」について課題に感じる点、意識していきたい点はいかがでしょうか。

光田:法律やガイドラインで定まっているものも多いですが、保険に関する独特な言い回しや語句は課題に挙げられると思います。また加入時・支払い時のデジタル化が進んでいますが、デジタルに弱い方々もいらっしゃいます。そういう方々のためにも、帳票・紙のご案内は今後も残っていくものです。「わかりやすい表現・言葉」や具体的な表現はより重要になっていくのではないでしょうか。

― デジタルにはデジタルの、紙には紙の、ユーザーの立場や利用シーンに応じた「わかりやすさ」が必要ですね。

光田:保険では加入時、お客様は必ず保障内容を明記した「設計書」を見られます。加入後の保障が図解されていることが多いので「こんな保障が続くんだな」と安心を想像できますよね。しかし支払い時・請求時の資料となると、どうしても言葉が羅列された書面になっていることが多い印象を受けます。紙・デジタルに関わらず、加入から支払いまで一気通貫で「視覚的にわかりやすい資料」があるといいんだろうなと思いますね。

遠藤:私たちが日々扱う帳票というのは、最終的にお客様のお手元に渡り、実際に記入いただきます。保険金・給付金の申請にあたって準備いただく必要項目も多いですので、「お客様目線」でわかりやすい帳票をつくっていく必要があるのかなと思います。

明石:帳票はどうしても文字が多くなりがちです。情報をいかにコンパクトにお客様に伝えるかが課題ですね。デザインにメリハリ、強弱をつけるといった工夫は効果的だと思いますので、意識して反映できると親しみやすくなると思います。

棟方:デジタル化が普及しても、帳票はこれからも役立つツールであり続けると思います。実は、お客様からも「紙の案内が欲しい」「手元で紙に置いて書きたい」というお声があるんです。ウェブによる手続きをご案内するにしても、URLのお知らせにはチラシを活用していますし、時代に合わせて変化しながら、紙・帳票の可能性を考えていきたいと思います。

― ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。