プロフィール
田中 聡(たなか さとし)

1986年3月 京都大学 法学部卒業後、同年4月 日本生命保険相互会社入社。
コンプライアンス統括部長、お客様サービス部長、営業企画部長を経て「UCDAアワード2019」受賞(生命保険分野)の際には、取締役 常務執行役員 金融法人部門担当として登壇。
現在はニッセイ・ビジネス・サービス株式会社 代表取締役社長。

お客さまの自己責任、自助努力が求められる時代になってきた

― この度はUCDAアワード2019受賞、おめでとうございます。
ユニバーサル・サービスの提供や、お客様満足度の向上など、いろいろな項目を貴社は企業活動の取組として掲げていますね。

日本は社会保障制度が進んでいるほうですが、自己責任、自助努力でリスクに備えることが求められる時代になってきていると思います。今までは国の医療保険や年金で補えていたが、将来的には自分で努力しなければいけない。今や、様々な場面で将来の資産形成が話題に上ることが多くなってきました。一方で、生命保険を提供する側と提供される側の「情報の非対称性」は大きく、これを解消していかないと、お客さまの理解が進まない。その最初の一歩という意味で、私どもの発信する情報をわかりやすくすることがポイントだと考えています。

― 令和に時代が移り、SDGsというものが掲げられるようになりました。貴社にとってのSDGsとはどういうものでしょうか。

SDGsというと、いろいろな項目があり難しいのですが、生命保険会社にとって親和性が高いテーマは、高齢化の問題や、年金の問題、場合によっては貧困や経済的なテーマなどいろいろあると思います。そして何よりもベースは健康ですが、日本は世界一高齢化が進んでいる国で、解消するべき問題がたくさんあります。その中で、高齢化への対策取組をどう変えていくのか、従来の延長線上ではだめだということだと思いますね。

高齢のお客さまにとってのわかりやすさを考えなければいけない

― 昔に比べて保険の選び方や役割が変わってきていると思います。選択肢や販売チャネルも増えていますが、時代に沿って情報の伝え方も変わってきていますか。

私が入社した三十何年前は、生命保険に入る経路は90%以上が営業職員経由でした。今では営業職員経由は50%、残り半分を代理店さま経由と金融機関さま経由で分ける形となっています。決定的に違うのは、営業職員は私どもの職員なので教育徹底が行いやすい部分もありますが、代理店さまや金融機関さまは社外であり、工夫が必要だということです。

― そのような方に教育するのはハードルが高いですか。

本当のエンドユーザーの手前にもう一人お客さまがいるという感じです。金融機関さまが説明しやすくなければ、その向こうのお客さまには伝わらない。お客さまが窓口で説明を受けている時だけではなく、帰ってからもう一度パンフレットを見ても理解できることが非常に大切だと思います。それから、金融機関さま経由で加入するのは65歳以上の高齢の方が非常に多いので、その方々にとってのわかりやすさが大事だということです。そのため、UCDAさんやいろいろな方にご指導、ご教示いただいて改善してきました。

― 保険の展開が変わってきているのですね。

少し前の時代の生命保険のイメージは、一家の大黒柱に万が一何かあったら大変だからというものだったので、高齢層となると保険加入を考えなくなるのが普通でした。でも、人生百年時代だと、働く20歳から60歳までとその後の60歳から100歳までとは長さが変わらない。後半戦が大変だということになってきた。これからはシニアのライフスタイルも多様化してくるでしょう。非常に悩ましいのは、何歳まで生きていられるかわからない、リスクも多様となるので、老後にどう備えればいいのかわからないことです。そのため、60代以上の方向けの保険や提供の仕方を考えていく必要があると思います。

― 実際に販売している金融機関さま窓口の方々からはご意見などありますか。

例えば「金利が上がると債権の価格が下がるので、お客さまの財産が減ります」と説明した時に全てのお客さまがすっと理解できるかというと、そうでない方もいらっしゃる。だから図を使うとか、いろいろ工夫をしないと説明に時間がかかってしまいます。それを解消するために、どこの説明が難しいかというようなご意見をいただいています。

― ヒアリングして、修正・反映しているということですか。

そうですね。常にPDCAを回して改善していかなくてはいけない。募集人さんも全部を記憶して自分の言葉で説明するのがいちばんですが、現実には難しい。そこで、ベースのところでは動画をお客さまにお見せして、途中で説明を加えていくというような工夫が必要になります。UCDAアワードではパンフレットでお褒めいただきましたが、違う媒体もどんどん工夫していかなくてはいけない時代だと思います。ただ、動画はわかりやすい反面、提供する情報に限りがあるので、パンフレットなどとの役割分担が大事だと思っています。

情報を受け取る側の価値観も変わってきている

― 2018年は営業職員向けのタブレット画面、2019年は銀行窓口販売用のパンフレットと、2年連続のアワード受賞ですね。前回受賞のタブレット画面は利用が始まって1年が経ちました。

お陰様で大変評価をいただいております。以前はノートパソコンだったので、キーボードがあって便利な反面、重いし、画面の操作性もあまりよくなかった。そういう意味では非常に楽になった、お客さまといっしょに触れるし、わかりやすくなったと聞いています。もともとUCDAさんにエントリーすることもあって、画面の展開もできるだけ短くわかりやすくと、工夫したつもりでした。現場の混乱もなく好評です。

― パンフレットの反響はいかがですか。

もともと私どものパンフレットは、硬い、真面目、わかりにくいと三拍子そろったものでした。そこで、キャラクターを使うなどいろいろと工夫した結果、とりわけ女性の募集人さんから説明しやすい、馴染みやすいと、非常に好評です。受賞も大きな励みになりました。やはりポイントはお客さま側の価値観です。昔のように書かれた内容をかっちり読むような方は少なくなっています。むしろ最初は大まかにつかんで、細かいことは後で聞けばいいというように、変化してきている。そういうことを踏まえて、パンフレットなどの情報提供の仕方を考えていかなければと思っています。

契約締結前交付書面兼商品パンフレット「ロングドリームGOLD3」(UCDAアワード2019受賞)

― 貴社は生活者の注意喚起や誘導が非常にうまいと高評価でした。

お客さまからいただく苦情をよく聞くと、受けた説明を忘れていらっしゃることが多いので、認知の度合いを上げることを意識しなくてはいけない。覚えやすいものにして、苦情を減らしていくことも非常に重要だと思っています。

紙媒体のデザインと他の媒体をどう組み合わせるかが大事

― 今後のわかりやすさへの取り組み目標をお話しください。

いちばん情報量が多いのは紙媒体ですが、その他の媒体との連動性、役割分担が重要です。技術もどんどん進歩するでしょうが、どこまで行っても、書かれた内容のわかりやすさを媒体に合わせて工夫し続けることが大事だと思います。ただお客さまが利用しやすい媒体でないと意味がないので、あまり媒体の選り好みをしないことも大事かもしれません。たとえば、パンフレットを見ながらパソコンかスマホを操作していただいて、QRコードをかざすと画面が展開して説明してくれるとか、そういう組み合わせができると良いですね。

UCDAといっしょになって活動の認知度を上げていきたい

― わかりやすさの取り組みにあたってUCDAに求めることをお聞かせください。

現在、自分たちが「わかりやすい」と思っても、お客さまがどんどん変わってきている時代ですので、UCDAさんに評価をいただけるのはありがたいことです。後は、UCD活動の認知度がもっと上がって、認証を取得することや、UCDAアワードで受賞するのはすばらしいことなんだと広く知っていただけるとありがたい。そういう意味では、UCDAの皆様にお願いするばかりではなくて、我々がもっと盛り上げないといけないなと思います。

「わかりやすさ」という企業価値

― 昨年、今年と受賞されて、わかりやすさに努力していることが貴社のブランドになっているのではないかと思います。それをぜひ一般の方に情報発信したいですね。

業界をあげてお客さま本位の業務運営をやっていきましょうと言っています。そういうことは一朝一夕にできることではなくて、細かい努力の積み重ねの上に成り立っていると思います。今回UCDAアワード10回目の記念すべき節目に、ありがたいことに2年連続で受賞させていただきまして、身が引き締まる思いですし、ますます頑張ろうと思います。

― 関係省庁も、各業界が重要な情報をわかりやすく提供できているのか気になってきているようです。我々も、「わかりやすさ」の推進をこれからも続けていきます。
本日はどうもありがとうございました。