インタビュー
前橋市役所
政策部 情報政策課(インタビュー当時)
郷 芳曙 氏

生活者に正しく情報が伝わってこそ通知書の意味がある

― 今回、納税通知でUCDA認証「伝わるデザイン」を取得されました。取得の経緯についてお聞きします。

郷:本市と高崎市、伊勢崎市の3市で、今までバラバラだったシステムを統合しました。
大きな変革なので、1つのシステムから出てくる通知物を市民目線でわかりやすくしようということになりました。担当者が集まって議論をしている中で、ユニバーサルコミュニケーションデザイン(UCD)の考えを取り入れようとなり、本市と伊勢崎市の納税通知でUCDA認証「伝わるデザイン」を目指しました。

― 大量プリント事業の入札仕様書に、UCDA認証を取得することが明記されていました。

郷:私たち職員が議論をしていると、どうしても市役所目線の通知物になってしまいがちです。市民にとって「見やすく、わかりやすく、伝わりやすい」のかという視点が抜けてしまいます。そこで客観的な評価が必要になりました。他市の事例などを探したところUCDAさんに行き着いたのです。このような理由で、入札仕様書を作る際UCDA認証の取得を条件に入れました。

― 全国的には短冊型の帳票が圧倒的に多いです。小さく情報が詰め込まれていて、あまり読む気にはならないですね。

郷:各市独自の従来帳票は捨てて、市民目線、生活者目線で、1つのベストの形にしていこうということです。単純に様式の統一がゴールではなく、市民の方に正しく情報が伝わってこその通知書だと、通知書の意味を再定義して取り組みました。

コストも市民へのストレスも削減

― 市民目線の発想ということに着目し、今回の改善に至ったのですか。

郷:それと、共同利用というのが出発点にあります。自治体によってバラバラだったものを1つの仕組みに置きかえることで、毎年の税制改正に対応するコストも削減できるため、自治体としては取り組むべき事業です。それをやっていくと、どうしても帳票様式が課題となります。今後共同システムの参加団体が増えても目指す点は1つ、重要な情報をわかりやすく伝えるということです。

― 以前の短冊型に対して、市民の方からどんな声がありましたか。

郷:まず1つ目は字が小さい。それと、あるページを理解するためにはたくさんのページを経由しなければならない。だから、読む気にならない、読んでも理解できないというものです。電話でも、例えば問い合わせがあると、まずお問い合わせ番号を言っていただかなくてはいけないのですが、他にも整理番号とか、いろいろな番号が書かれているので、市民の方にはわかりにくい。それを今回、見つけやすい目印を置くように工夫しました。

― 新しいA4型のものでは、一面を見て全部わかりますね。なかなか自分の欲しい情報にたどり着けないと非常にストレスになりますが、これだとストレスも小さいと思います。

郷:12ページあったものが4ページになりましたからね。

固定資産税・都市計画税納税通知書(改善前):クリックで拡大

認定講座を受講したことで改善がスムーズに

― 短冊型からA4型に変える際、工夫したことを教えてください。

郷:全般的に、短冊型からA4型に変えたこと、ページ数が減って使いやすくなったことが、まず工夫だと思っています。課税明細については、法律で載せる項目が決まっています。そもそも法律自体が難解なので、それを載せなくてはいけないのが難しいところです。それで、見開き1枚目の裏側に用語の説明を入れ、視線を誘導したことも工夫です。

― 苦労された点はありますか。

郷:UCDAさんの評価レポートに書かれた指摘箇所をどう修正するか自分で考えなくてはいけなかったことですね。レポートに至らない点は書かれていても、その修正方法はあくまで自分で考えなければならない。その点が難しかったです。

― 郷様はUCDA認定2級を取得されましたよね。講座の内容は役に立ちましたか。

郷:そうですね。UCDAさんの教科書も、今回の指摘箇所を直していく中で、かなり利用させていただきました。大変勉強にもなりましたね。指摘された理由がわかるので、資格を取得していなかったら改善に苦労していたと思います。

― 今回、デザイン制作した企業も認定2級を取得しています。発注側と制作側が受講したことで、指摘した部分について意思疎通がしやすかったのではないでしょうか。

郷:もちろんありました。目線は一緒ですのでお互い協議もできますし、共通の言語もわかっていますし、修正もしやすかったです。

固定資産税・都市計画税納税通知書(改善後):クリックで拡大

今後はデジタル化に力を注ぎたい

― 今後のわかりやすさへの取組目標をお聞かせいただけますか。

郷:今、いちばん力を入れているのはデジタル化です。オンライン化、デジタル化を進めていけば、入力不備があれば画面上で完結できません。結果として住民の負担を減らすことにもなると思います。

― UCDAは電子画面も認証しています。保険会社の申し込みタブレットなどでは、不備があるとそこから先に行けないとか、デジタル特有の機能があります。そこにUCDを取り込むことで、操作性も非常に向上したという話もお聞きしています。

郷:そういう媒体の特性に応じた在り方を教えていただけるとありがたいです。よりお客様目線での事業を進めていくとか、情報の非対称性(*1)を解消していくとか、そういった基本的な考え方を教えていただけると、私たちも気づけることが多いと思います。

― 今回は税金の通知書ですが、福祉など他の帳票は視野に入れていますか。

郷:まだ始まったばかりで、我々情報部門という小さなセクションでのスタートになっていますが、UCDAさんの考え方、取り組む方向性等は、市役所内で共有していくことからになると思います。

― 2級講座を受講して得た知識をより多くの方に共有してもらえればと思います。

アワードでの受賞が他の自治体がUCD化するきっかけになってほしい

― 前橋市・伊勢崎市、2市の取り組みが「UCDAアワード2019」実行委員会特別表彰を受賞しました。

郷:まず、取り組みという形で評価していただいたことを大変嬉しく思っています。同様の取り組みが、全国で当たり前になるきっかけになればと考えています。

― 今回こういう取り組みを紹介できて、他の自治体の励みにもなるのではと考えています。改善した帳票で市民からのお問い合わせの数の遷移や、業務効率がどれくらい上がったか、検証していただきたいのですが。

郷:はい、可能です。1年目のうちは様式が変わったため問い合わせが増えると思いますが、徐々に減っていくと思いますね。

― 改善効果が判明するのを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

*1 情報の非対称性とは
情報の送り手と受け手の間に発生する格差。
送り手は発信する情報を受け手にわかりやすく伝えることが求められる。
関連リンク:UCDAの森 第15回「情報の非対称性」と説明責任