株式会社SAIL
アセット・アロケーター
川瀬 紳太郎 氏
自分で考えて資産を増やしていくための教育が必要だ
― まず、今回認証を取得されたSMOPについて、お話しいただきたいと思います。
大井:私どもは買い手側(バイサイド)に立って、一般の投資家がどのようにしてお金を守りながら資産を形成できるかという大きなテーマを追ってきました。私はアメリカで20年以上投資運用関係の仕事をしてきましたが、帰国して気づいたことがあります。それは、日本では、とりあえず売り手側(セルサイド)のことばに従って金融商品を買っている人が多いことです。その商品が本当にバイサイドにとって意味があるのか判断できないためです。投資家サイドが主体性を発揮できる環境が整っていないと感じました。
― 商品を選択する基準がわからないわけですね。
大井:金融商品を選ぶときの客観的な基準を日本人はあまり考えない。売り手の誘導ではなく、自分で考えながらお金を増やしていくための教育が必要だと思いました。その投資教育プログラムがSMOPです。
― 年金は国任せで大丈夫と思っていたのが、そうではなくなってきましたからね。
川瀬:そうですね、自己責任での運用が必要になりました。企業年金が確定給付型の年金制度から拠出型にどんどん移っていく流れの中で、個人型も始まりました。企業型に関しては、企業に従業員を教育する努力義務があるのですが、教育を頑張っている企業とそうではない企業で運用の質に格差が広がってきていて、将来の運用結果に格差が現れてくると考えられます。iDeCoでも同様に、良い教育を受けられるかどうかで格差が広がると思います。
今の教育では7割が元本確保型に行ってしまう
― SMOPは、自分でポートフォリオの作成を促すプログラムですね。
大井:そうです。最近では自分で年金を何とかしなければと考える人たちが増えてきました。しかし、具体的にどうやったら年金を作れるのか、お金を増やしていけるのかわからない人がほとんどです。今までだれも教育してこなかったし、教育のツールもない。個人投資家はもうかったり損したりを繰り返しているだけで、本当に資産が増えていくという感覚がないのですよ。
― 老後資金2,000万円問題があって、それによって一般の人の気づきが広がりましたね。でも、気づいた人は高齢の人が多くて、若い人にはあまり届いていないのではないでしょうか。
大井:今までは気づかなくていられたし、親も学校もそういう教育はしてこなかった。でも、これからはそうはいきません。早く気づいて行動してもらうこと、何がタスクかを理解してもらうことが重要です。定年間近になってからでは遅いですから。
― 人生百年時代ですからね。
大井:従業員のDC(*1)教育について調べたら、企業側が教育しても7割の人が元本確保型に行ってしまう。リスクはとりたくないし、具体的に何をしていいかわからないのでしょうね。でも、元本確保では将来お金が増えていかないわけです。長期積立と複利効果で資産をどんどん増やすという感覚を、日本人は失ってしまっている。
川瀬:2019年3月末時点で、企業型DCでは運用金額全体の約50%が、iDeCoでは約56%が元本確保型に投入されているという状況です。
SMOPイメージ画像(クリックで拡大) |
「伝わる」とはタスクを達成させること
― 容易に元本確保型を選択しないためには教育が必要だということですね。
川瀬:セミナー活動の中で、最初は時間をかけてポートフォリオの理論から説明していたのですが、ああなるほどとなっても実際には何も買えないという状況を目の当たりにしました。その結果、まずポートフォリオの基本だけを学んでもらって、とりあえずベースとなる部分を組んでもらう。そうして運用を体感してもらい、細かいことは後から説明していく。最初に動いてもらいやすいところにフォーカスした内容になっています。
大井:UCDAの2級講座で学んだ、タスクをどう達成させるかを考えました。「伝わる」というのは、伝わった後に手を動かして何をしてもらうかということで、理論を詰め込むだけでは駄目です。それで、最初はわかりやすく、シンプルに行くことにしたわけです。まず教材を作り、そこからある利率のコースを選んだら、そこに書いてあるものをすぐに買いに行く。そしてその行動を繰り返しやると。
― なるほど。ワークショップのような形でやってみましょうということですね。難しいと思われている投資について、わかりやすく伝える、そして行動に移してもらうと。
大井:それで、慣れたら自分で買いたいものを買ってもいい。とりあえず一歩を踏み出して、何かを始めてもらうということです。
― 確かに、認証審査のときに拝見して、すごくシンプルにできているなと思いました。それで、これを企業の総務部などにまず理解してもらって、それから社員の皆さんに、というようなステップになるわけですか。
川瀬:企業型に関してはそうですが、今回審査していただいたiDeCo型に関しては、まだこれからという状況です。
UCDA認定の2級取得で自信がもてた
― SMOPの使い方は、どんなシーンを想定されていますか。
大井:1つは、中小企業ですね。中小企業には従業員の教育にあまりお金をかけられないところが多いので。もう1つは厚労省年金局です。国民レベルでiDeCoを広めたいのなら、年金問題に気づき、自分で手を動かして積み立ててもらうよう教育をしなければという話をするつもりです。そうしないと、年金を国民の自己責任にすることはできません。
― iDeCoについて考えようとすると、結局金融機関に行かなくてはなりませんからね。
大井:せっかくiDeCoとかNISAの制度とかがあっても、それを自分で使って資産を増やすためのツールがないのです。私共はそうしたツールを開発し、それが本当に見やすく、わかりやすく、伝わりやすいかどうかを客観的に確認する必要がありました。それで、第三者に審査していただいて「伝わる」確証を得たかったのです。
― 一般の人たちにわかりやすく伝えなければいけないので認証申請をされたということですが、ここを直したほうがいいとフィードバックされたものを見ていかがでしたか。
川瀬:2級を取得したときに、今自分が作っているものと照らし合わせて、ここが駄目かなと思っていたところがやっぱり指摘されていました。それを修正するときにも、貴協会のHPなどを参考にさせていただきました。おかげで、独りよがりの表現を直せたと思っています。
― 今回UCDA認定の2級を事前に取得されていましたが、それも役立ちましたか。
大井:もちろんです。2級講座で得た知識がなければ、指摘されても修正の仕方がわからなかったと思います。
― これからの目標は、これを採用するところを1つでも増やしていくということですね。
大井:はい。投資教育は国民レベルで広げていきたいと思っています。スマホで学べるツールは手軽ですし、デジタル化の流れに沿って若い人たちにも広げていきたいと思います。
UCDAのセミナーもデジタル化
― UCDAに対するご意見、ご期待など、何でもお願いします。
大井:デジタル化はさらに進んでいくと思います。非対面型のデジタル化になりますと、情報が伝わりやすいかどうかが、重要なキーポイントになりますね。伝わるデザインを長年研究し、極めて来られたUCDAさんが私たちのデジタルコンテンツに認証を下さったことは、大変ありがたく、自信に繋がります。今後は、どうしたら伝わるかと言ったノウハウを取得するための資格試験や認証が、大事になってくると思います。企業の広報部など文書を作成する部門でも、UCDAで研修を受けた専門家を置くなどして「見やすく、わかりやすく、伝わりやすく」を積極的に広げていくべきだと思います。UCDAさんのセミナーもデジタル化して、スマホで勉強して2級が取れるというふうになるといいですね。
― ぜひそうしたいと思います。今日は本当にありがとうございました。
拠出金(掛け金)の運用によって受け取る年金額が変動する。