プロフィール
浅山 理恵(あさやま りえ)

1987年3月 京都大学 経済学部卒業。同年4月 住友銀行(現:三井住友銀行)入行。
港北ニュータウン支店長、あざみ野支店長、人事部ダイバーシティ推進室長、田園調布ブロック部長、品質管理部長を経て、現在は、執行役員 リテール部門副責任役員、品質管理部副担当役員 兼 三井住友フィナンシャルグループ執行役員。
「UCDAアワード2019」(金融機関分野)受賞の際に登壇。

マイナス金利とデジタル化による金融業界の変化

― このたびはUCDAアワード2019受賞おめでとうございます。
今、少子高齢化やSDGsなど、いろいろな社会的課題が持ち上がっています。時代に沿って銀行の役割はどのように変わっていくと思いますか。

金融業界は今、非常に大きな潮目を迎えています。一つはマイナス金利であること、もう一つはデジタル化です。デジタル化は銀行の業務になじむところも大きいので、追い風にしたいと思っています。一方、マイナス金利が続いていますので、今までのようなビジネスのあり方から発想を変えて、銀行として提供する価値を考えていかないと生き残れません。では、銀行として提供する価値は何かということですが、やはりソリューションプロバイダーということだと思います。お客さまのお困りごと、お悩みごとを解決に導く、真の意味でのソリューションプロバイダーです。さらに、これからはお客さまの課題解決のために非金融との連携も考えていく必要があると思います。

― 貨幣からクレジットカードや電子マネーに移り変わるデジタル化が、現実の問題になってきています。そうすると、正に「物」から「情報」というように、生活自体が変わってきますよね。

突きつめて考えると、物はどんどん低価格化するし、情報も無料で手に入れられる。何でもタダで手に入る時代が来る中で、価値のあることとは何だろうというと、人手をかけることだと思います。特に、日本のような人口減の中では、すごく貴重になってきます。今、人手をかけずに低価格を設定する流れがビジネスの主流になっていますが、人手をかける、人が携わることで、相応の対価を払っていただくためにはどうしたらよいかを考えなければいけないと思います。

お客さまにとって価値ある情報の提供が銀行の役割だ

― 今は、情報が溢れているからこそ、それが正しいのか、そうではないのか、見分けるのは難しくなっていますね。そのような中で、一人ひとりを導いてくれるコンサルタント的な役割は大きくなってくると思います。

そうですね。たくさん商品があっても、何を買っていいかわからないとか、欲しいものが何かわからないということがあります。例えば、安い服でも、うまくコーディネートしてくれたらすごくおしゃれになったりしますよね。そのとき、商品には定価しか支払われないけれど、コーディネートのアドバイスには、料金を払ってもよいと思われるかもしれません。私たちも、そのようなコーディネートの役割ができればいいなと思います。例えば、個人のお客さまの運用でいえば、飛躍的に商品が増えています。ただ「ご自由にお選びください」と言われても、お客さまは困ってしまうので、一人ひとりのお客さまの状況に対応したかたちで、どのような情報をご提供し、ご提案できるかということが重要だと思います。

― 銀行というのはブランド作りがすごく難しい業種だと思います。今回の貴行の取組というのは、一つのブランド価値として意味があるのではないかと感じました。個人や企業に寄り添うという考え方とよく合っていますよね。

私たちが目指しているのは正にそういうところです。「顧客本位の業務運営に関する原則」ができてからはどこの金融機関も言っていますが、私たちは従来から「お客さま第一/Customer First」と言ってきました。ただし、お客さまの側に実感として、「早かった」「便利だった」「助かった」と思っていただかなくては意味がない。だから、お客さま本位を実現する上で、「字が読みやすい」とか、「意味がわかりやすい」といったことは、一番の基本だと思います。お客さま本位というスローガンに実態が伴えば、それがブランドというか、企業価値そのものになると思っています。

アワード受賞で他の部門にも「わかりやすさ」の取組が広がってきた

― 今回アワードを取られて、行内外の反響はいかがでしょうか。

アワード受賞を機に雑誌に取材していただいたり、関係省庁から評価いただくなど、ありがたいお話をうかがっています。行内でも、第三者機関にきちんとした基準で評価いただいたのは大きいと言われました。特によかったのは、意義を感じて、「うちの部門でもやりたい」と自主的に取組が広がってきたことです。

― その反面、いろいろとご苦労されたこともおありかと思いますが。

「ユニバーサル」を謳った当初は、品質管理部はビジネスラインではないし、実際にコンテンツを持っているわけでもなく、まず取り掛かってくれる部署を探さなければなりませんでした。そうした働きかけの中で、ユニバーサルデザインに向けた取組は、ビジネス面でもコスト対効果があるということを理解してもらいました。タイミングもよかったと思います。「顧客本位の業務運営に関する原則」も策定されましたし、以前からずっと上がっている「見にくい」とか「わかりにくい」といったお客さまからの苦情に抜本的な手を打ちたかったのです。お客さまに一生懸命向き合っている現場の従業員からも、そうした声がありましたからね。

資産運用に関する総合商品ラインアップのご案内(UCDAアワード2019受賞)

これからは外部の知恵やノウハウを活用することが重要だ

― 受賞までの経緯をお話しいただけますか。

それまでもガイドラインや勉強会といった施策を打っていましたが、2018年のアワードを商品所管部の担当が見に行き、これはすぐにやるべきだ、と実務に着手しました。やはり個人のパッションは大きいですね。今回、知見のある印刷会社にも入っていただいて、社内・外、双方のパッションが合わさったというのが非常によかったと思います。
これから商品サービスを考えていくのに、自部署や自社だけで進めていては駄目です。外部の知恵やノウハウ、パッションをいただいて一緒に取り組むことが重要だと思っています。

― アワードでのプレゼンテーション、すばらしい内容でした。プレゼン担当の方に、「ぜひとも三井住友銀行のお客さまに聞かせてください」とお話ししました。「わかりやすさ」への取り組みに三井住友銀行は一生懸命だな、ちょっと話を聞いてみようかとなって、それが一つのブランドになるのではないかと思います。

興味深いアイディアですね。就活の学生向けに、仕事でこういう苦労・経験をしたというストーリーを社員に語ってもらうことはありますが、それを社外に向けて発信するという考え方もあるなと感じます。

― ものすごく努力されて、この「伝わるデザイン」の認証を取ったということ、アワードを受賞したということを、一人でも多くの人に伝えていただければと思います。

わかりやすさを一番の基本にしたい

― では、これからの取組についてお話しいただきたいと思います。

これからは、あらゆる情報発信で、「わかりやすさ」ということを、まず一番の基本にしたい、カルチャーにできればと思います。企業サイドが「書いた」「言った」ではなく、お客さまに「理解された」「伝わった」という、お客さまサイドを基準にしたい。この先はデジタルの活用も含めて、全体的に水準を引き上げていく。さらに、一人ひとりのお客さまに合わせた、わかりやすさの提供ができたらいいと思います。

UCDAにはビッグになってもらいたい

― 最後になりますが、UCDAに対してご要望をお願いします。

ぜひビッグになっていただきたい。例えば、「UCDAアワード」の発表が、「流行語大賞」並みに、新聞やテレビで紹介されるようになっていただきたいです。

― お客さまから「もっと生活者への知名度が上がるように頑張れ」と言われます。

UCDAの取組によって、社会全体の情報品質が非常に上がってくると思います。それから、最新の動向や、好事例などをどんどん発信すると、うちもやろうという企業がたくさん出てくると思いますよ。科学的な、客観的な最新情報もぜひ教えていただきたい。組織を動かすには、科学的な知見に基づくデータが一番の力となります。大学や研究機関の知見のハブとして情報提供いただけると嬉しいですね。

― 機会があれば、新しい研究データをお伝えします。本日はどうもありがとうございました。