「第三者」による客観的な評価

顧客本位とUCD(第4回)

第4回:コロナ禍における「情報品質」への取組み

「顧客本位の業務運営に関する原則」(金融庁、「FD原則」)は、「金融事業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現が望ましい」とする。
金融事業者の、顧客から選択されるための競争により、「顧客本位の業務運営」の実質的達成が実現でき(社会価値の実現)、金融事業者の顧客基盤と収益の確保にも繋がる(企業価値の実現)という、CSV(社会価値と企業価値の同時実現)の考え方に立脚する、競争・市場原理を利用した施策である。
そこでは、「最低基準(ミニマム・スタンダード)」は是とされず、顧客本位を実質的に達成するための「創意工夫を発揮」することが求められる。
「顧客保護」は、最低基準であり、それに欠ける行為は不適切となる。一方「顧客本位」は、競争・市場原理を背景に金融事業者にプラスαの取組みを求めるもので、それに欠ける行為が直ちに不適切となるわけではない。むしろ、「顧客本位」とはそれを達成した事業者を評価・賞賛するための概念と言える。

UCDAは、企業等の「情報品質」の向上を促進することをそのミッションとする。
「情報というものは、『最低基準(ミニマム・スタンダード)』で提供しても、顧客に伝わらなければ(読んでもらい、理解してもらわなければ)意味がない。」
「情報品質」の向上という課題に取組む企業は、最低基準のレベルを既に達成したうえで、このような考えのもとに、情報が真に顧客に伝わるよう、プラスアルファの行動を行っているのである。これは、「顧客本位」に位置付けられる行動である。

コロナ禍における企業の「情報品質」への取組み状況は、どうであろうか。理念上は、3つのパターンがあるはずだ。①ディスタンスを余儀なくされる時期だからこそ、コミュニケーションがより重要との考えのもと、平時以上のレベル感で「情報品質」に取組む、②平時同様のレベル感で「情報品質」に取組む、③コロナ禍を有事ととらえ、プラスαの取組みである「情報品質」は一旦お休みし、他の諸課題を優先させる。
この点、コロナ禍においても、「情報品質」に係る競争は続いていることを忘れてはならない。コロナ禍でも、経済は止まらず、市場原理は働き続けている。商品の顧客や販売者は、企業の「情報品質」を、意識的に無意識的に評価し、それも踏まえて商品購入の判断や、自らがその商品を取り扱うか否かの判断を行い続けている。

コロナ禍がいつまで続くのか、必ずしも先は見えないが、そのような今だからこそ、自社のコロナ禍における「情報品質」への取組みを、振り返ってみるべきではなかろうか。

弁護士法人中央総合法律事務所 社員弁護士パートナー/UCDA理事
錦野 裕宗
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