「第三者」による客観的な評価

顧客本位とUCD(第3回)

第3回:顧客へのわかりやすい資産運用アドバイス

長引くコロナ禍が将来の経済状況の不透明感を強めるなか、人生100年時代を迎え、老後の生活資金の備え等として、中長期的な資産形成・運用への関心は益々高まっていると思われます。一方、例えば2020年3月のような市場急落時には、資産運用に漠然とした不安を感じて、明確な資金使途がなくても運用資産を狼狽売りしてしまうなど、本来の中長期的な投資イメージに沿った行動がなかなか自分ではできないといったこともよく聞かれるところです。
足下、デジタル技術の進展に伴う業務の効率化により、金融機関の店舗の位置づけは「手続きする場所」から、資産運用などを「相談する場所」に変わっていく流れにありますが、金融機関の営業員においては、定期的なフォローアップ等により顧客に長期投資の重要性や効果を確認する機会を提供するといった行動コーチング的な役割を含め、資産運用アドバイスを投資初心者にもわかりやすく行うことがますます期待されるようになってきていると思われます。

また、2021年1月には、「顧客本位の業務運営に関する原則」が改訂され、このうち、原則5【重要な情報の分かりやすい提供】(注4)では、金融機関が複雑又はリスクの高い商品の販売・推奨等を行う場合には、顧客が同種の商品の内容と比較することが容易となるような資料(「重要情報シート」<*1>)を用いて、リスクとリターンの関係など基本的な構造を含め、よりわかりやすく丁寧な情報提供がなされるよう工夫すべきであるとされました。
この「重要情報シート」については、金融機関での導入は緒に就いたところでありますが、一部の金融機関ではユニバーサル・コミュニケーション・デザイン(UCD)に配慮したシートを作成する動きも見られます。特にコロナ禍において対面での営業が制限される中、こうした見やすくわかりやすい資料は、営業員と顧客とのコミュニケーションツールとして重要性が益々増していくものと思われます。
以上のような、顧客にわかりやすくアドバイスができるような営業員の人材育成、業務の質の向上を図るための各種ツールの整備、いずれにおいてもこうした取組みを推進していくにあたっては、経営陣などのトップが「わかりやすく伝えること」の大事さを理解し、企業文化として定着させていくことが不可欠であると思われますが、このような顧客本位の取組みが原則2で掲げる「自らの安定した顧客基盤と収益の確保」にもつながるのではないかと考えます。

日本資産運用基盤グループ 主任研究員
長澤 敏夫(元金融庁主任統括検査官)
*1 「重要情報シート」には、金融事業者の取扱商品のラインアップなどに係る「金融事業者編」と金融商品・サービスに関する重要な情報に係る「個別商品編」がある。
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