「第三者」による客観的な評価

顧客本位とUCD 第1回

第1回:「市場取引と顧客保護」

新型コロナの感染症拡大が深刻化した昨年3月、日本を始めとする世界の主要な証券市場は危機に瀕していた。しかし、各国の財政金融当局はこうした事態に対処するべく相互連携の下、迅速果敢に政策の実施に踏み切った。私はこれを高く評価すると同時に、この一連の行動に至る背景として、1990年代の日本や他のアジア諸国で起きた金融危機、2008年秋のリーマン・ブラザーズ社破たんから始まる世界的金融危機の発生などを経て、各国政府が学んだ苦い教訓があったことを挙げたい。今回はそれをしっかり実行したということに尽きる。

それ以降これまでの約一年半、大きな問題の発生は何とか食い止められたが、真の問題はこれからなのかもしれない。ワクチン接種や治療薬開発が進む一方で、ウイルス変異株の出現がこの感染問題の複雑化、長期化を生んでいるからだ。

今後に向けて注意を要する点が、主に二つある。
その第一が、コロナ問題で最大の打撃を受けたいわゆる対面業種、すなわち、飲食、サービス、宿泊、観光などの業種の今後の動向である。いうまでもなく、これらは現在私が勤務する信用組合業界にとっての重要顧客、同時に、地方経済を左右する企業群でもあるのだ。これまで人口減少や少子高齢化が言われてきたが、今回のコロナ禍はさらなる押し下げ要因となった。短期的また中長期的にも課題が山積するなか、今こそ地域経済に基盤を置く信用組合の出番であると、思いを強くしているところだ。

一方、昨年以来の株式相場は史上空前の規模となる強力な財政金融支援策にも支えられ、想定をはるかに超える上昇を見せた。そうしたなか、今ここでしっかりと認識するべきことに触れておきたい。これが第二の論点であり、また、これこそが本稿の主題でもある。

昨年以降の日米の株価は概して9割の幅で、最近はさすがに上値が重くなってきたものの、ほぼ一貫して上昇し続けた。これは、ヘッジファンドや投資信託などによる旺盛な買いもさることながら、コロナ禍のもと、自宅勤務での巣ごもり投資と呼ばれるように、政府から支給された給付金や手元の小遣い資金などを元手に取引参加した膨大な数の個人投資家の存在なくしては語れないだろう。
スマホによる瞬時のネット取引、売買手数料のゼロ化、そして借金しながら買い進める強気の投資姿勢(信用買い)などがまさしく、こうした個人投資家の特徴を示している。市場に参加して間もない彼らは相場の本当の下げは経験していない。個人投資家としてひとくくりにはできないが、彼らの知識、経験、財産状況などにふさわしい取引を行っているかどうか、顧客自らはもちろんのこと、金融事業者においても検証してみる時ではないか。

金融事業者に顧客本位の業務運営にかかる原則の履行が求められてからすでに時間も経つが、わかりやすい説明と同時にその取引内容を顧客に正確に理解してもらうことは言うはたやすく、実はそうたやすいことではない。
株式の信用取引やデリバティブ取引、また、最近話題の仮想通貨(暗号資産)などについて、果たしてどれほどの個人投資家が理解しているだろう。米国ではこうした点を重く見て、問題ある証券会社に多額の制裁金が課せられた。
今の米国は明日の日本の姿かもしれない。株式市場を始め、金融の取引には今一度、慎重さとわかりやすさを求める呼びかけが必要なのではあるまいか。

全国信用協同組合連合会 理事長/UCDA理事
内藤 純一(元金融庁総務企画局長)
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