プロジェクトUCD 〜フェスティナレンテ〜

「フェスティナレンテ」とは、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの座右の銘で「悠々として急げ」を意味します。
このコーナーでは、日々情報コミュニケーションの課題に悠々と取り組みつつ、UCDを導入し、スピーディーに結果を出している企業・行政・団体を取材します。
「わかりやすさ」への取り組み(プロジェクトUCD)における苦労や、今後のビジョンについてお話しいただきます。

印刷物の改善だけではなく、社員を成長させるプロジェクト

オリックス生命保険株式会社 執行役員
お客さまサービス本部長 添野 昌之

 

昨年の「UCDAアワード2015」で実行委員会特別表彰を受賞したオリックス生命保険株式会社。「お客さまのための印刷物」プロジェクトの1年目は、印刷物の改善だけではなく、デザインガイドラインの作成や参加したメンバーが大きく成長するまでに拡大しました。今回は、このプロジェクトのミッションと成果、そしてご苦労されたことをお聞きします。

―今回の「お客さまのための印刷物」プロジェクトについてお聞かせ下さい。

添野:おかげさまで、弊社は順調に売上げを伸ばしていますが、それは商品が機能的でわかりやすいことなどがお客さまに受け入れられている結果だと思っています。この先も持続性をもって成長する企業であるためには、お客さまサービスを見直すべきだと考え、プロジェクトを立ち上げました。
お客さま接点の充実という観点では、コンタクトセンターと印刷物のプロジェクトを進めていました。以前、コンタクトセンターは、お客さまの苦情窓口のような機能でしたが、お客さま視点での組織とカルチャーの改革を行い、今はコンタクトセンターからサービス改善に関する情報を発信できるようになりました。コンタクトセンターの成果が出てきたので、次は印刷物です。印刷物もオリックス生命としてのメソッドがあるわけではなく、各部門がバラバラに作っていました。それも効率性を優先して保険会社目線で作っていたため、お客さまにとっては「わかりにくい」ものだったと思います。
そこで、会社として印刷物や文章のルールを作るべきだ、そのためには、我々自身が学ばなくてはいけないという考えのもと、このプロジェクトをスタートしました。そして、科学的なアプローチで「わかりやすさ」の基準を策定しているUCDAにコンサルティングをお願いしました。

―このプロジェクトには、どのようなメンバーが参加されたのですか。

添野:経営側には、早くやらなくてはいけないという危機感がありました。そこで、お客さまとの接点を持つすべての部門、18部門から50名ほどが横断的に参加することになりました。プロジェクトの事務局は、業務改革部門とCS推進部門が担当しました。全社横断的な大人数のプロジェクトであったため、足並みを揃えて進めていくのは大変でした。当初、このプロジェクトのカリキュラム内容の説明が行き届いていない面もあり、「この内容がどのように改善に繋がるのか」という意見なども聞かれました。
これまでは、効率性と数字を求められてきたところに、突然、お客さま視点で考えるように言われたので、腹落ちしなかったのだと思います。

―大変な船出でしたね。

添野:このプロジェクトは、印刷物を「わかりやすく」改善することだけではなく、会社のカルチャーを変えるひとつのプロジェクトという位置付けでした。
当初は混乱もありましたが、社員の意識を変えていかないと印刷物のデザインは変わらない、という信念のもと始めました。審査部門やCS推進部門だけが学び、社内に広げる方法では変わらないと思ったので、思い切って、一気に進めました。
参加したメンバーも、日々の業務をこなしながらこのプロジェクトを進めたので大変だったと思います。はじめに行ったのは、UCDA認定2級の資格を取得することでした。これによって、参加者全員の知識レベルが同じになります。そして、UCDという考え方、「わかりやすい」デザインの作り方を体系的に学ぶことにしました。
しかし、知識を習得しただけでは意味がありません。実際の業務で知識を生かしていくこと、そして学んだことや、ノウハウを会社に定着させ、お客さまにとって「わかりやすい」デザインの作り方を会社のメカニズムにしていくことが重要だと考えていました。持続性と定着、この2つがキーワードでした。

―メンバーの意識に変化が出始めたのは、どのようなことがきっかけでしたか。

添野: 部門によって温度差は大きかったのですが、UCDA認定1級のプログラムを始めた頃から急に変化が見られました。UCDを学ぶこととデザイン改善を同時に進めたので、腹落ちしたのだと思います。UCDという考え方と、自分が実践していることが重なってきて、これは役に立つと感じたからだと思います。
一方、12月に行ったDET(差分評価テスト)では現実を突きつけられました。UCDAとオリックス生命の改善案(プロトタイプ)は、DETで良い結果は得られませんでした。これが現実で、考えていることとお客さまの評価は違うということを痛感しました。UCDという理想と現場の技術をぶつけながら、DETを経て、修正を繰り返し進めていきました。メンバーにUCDが浸透する大きな出来事でした。
帳票デザイン系は改善の変化が見てわかりますが、募集文書系は深く入っていかないとわからないので、腹落ちするまでに時間がかかったようです。DETをきっかけにメンバーの顔つきが変わってきましたね。

―UCDA認定2級を44名の方が取得、1級を33名の方が取得なさいました。

添野:UCDA認定1級を取得することは、UCDを体系的に学んだという勲章だと位置付けました。会社にとって一番大きかったのは、1級取得者のモチベーションが高まったことです。ただノウハウを身に付けたというだけではなく、達成感や自信のようなものが出てきました。
今回、営業部門、募集文書を作る部門から事務部門まで、それぞれの部門に1級の勉強をさせて複数名に認定資格を取得してもらいました。会社としても、1級取得者を評価しようしています。資格を取得して終わりというのではなく、この人たちを中心に、会社の変革活動を行っていきます。印刷物のことだけではなく、ビジネスパーソンとして、またマネージャー候補として当社を良い方向に引っ張っていってほしいですね。変革のキーパーソンが生まれたということは、持続性と定着というキーワードを実現する上で、とても重要です。

―このプロジェクトは、「わかりやすい」印刷物ということだけではなく、社員の意識変革のプロジェクトでもあったのですね。

添野:はじめは、印刷物の改善活動でしたが、人間中心設計は印刷物のことだけではなく、あらゆる場面で効果を出せる考え方です。1年目で、ノウハウの取得とスキルアップを果たすことができました。その過程での、深い知識の習得やUCDAとの激しいやり取りなどの優良な体験が、メンバーを成長させたと思います。当初期待していた以上の効果がありました。しかし、人事異動があると、その部門での持続性が弱くなってしまいます。この変革の芽を伸ばしていきたいので、どの部門にも1級取得者がいて、変革が進むようにしました。2年目の今年は、制作物としてお客さま視点での「わかりやすさ」を実現するミッションがあります。
1級を取得することによって、覚醒をした人たちが、印刷物の改善でミッションを実践することで、もうひとつ上のステージへステップアップすると思っています。
そのためにも持続性が大事なので、経営として何をしなければならないか、現場の担当者にどのような行動を起こさせるかが経営側に求められることだと思います。

―1年だけのプロジェクトではなく、2年目の本年は、改善デザインを制作するミッションをお持ちなのですね。

添野:常にトップダウンで行動を起こさせるのではなく、会社の大きな方針に対して、自分たちが正しいと思ったことを自らが発信していけるボトムアップの集団にしたいと思っています。今回の1級取得者はその可能性を持った人たちです。1年間このプロジェクトを進めてきましたが、ここからがスタートだと思っています。
デザイン設計のガイドラインを作っても、これからの改善活動の中で、必ず迷うことや困ることが出てきます。そのときUCDを基準として前に進められるようにしたいし、UCDAには近くで指導してほしいと思っています。
例えば、法令が変わったときに、法律用語や専門用語を多用した表現では、内容が正しくてもお客さまにとっては、何を言っているのか理解が得られません。ですが、我々はその趣旨をきちんと捉えて、お客さま中心に考え、お客さまに「伝える」という努力をしなければいけません。オリックス生命としてこう考えるというスタンスでいきたいですね。もちろんUCDによるお客さま中心の考え方で。知識やノウハウを得ることが目的ではなく、お客さまに「伝わる」デザインが実現できているのかが勝負だと思っています。今年1年はそれを具体化していくつもりです。
問合せ件数や不備率などの結果を常に数字として捉えて、PDCAをまわしていきたいですね。改善したところがスタートで、その結果を受けて持続的な改善を行っていこうと思っています。今年のUCDAアワード2016にも参加しています。現場の人間が必死に取り組んだ結果がどう出るか楽しみです。

―印刷会社やデザイン会社など、パートナー企業の選択も重要になってきますね。

添野:デザインの改善活動は社内だけでは実践できません。現場からは、自分たちの目標やプロセスを理解してもらえるパートナー企業をリストアップしてほしいという意見も出ています。印刷会社とは、個人の資格だけではなく会社としてしっかりUCDに取り組んでいるというUCDクオリティを見極めてお付き合いしていきたいですね。効率的に改善活動を進めていくためにもこれは大事なことだと思っています。UCDAには、第三者の立場で、それを評価していただき、間違いがあればすぐ修正していけるようにしていただきたいと思います。

―これからの取り組みについてお聞かせ下さい。

添野:今回のプロジェクトでは、DETをしっかり行いました。デザインの改善効果は出ているので、自信をもってお客さまにお届けできます。
また、このプロジェクトでは、プロセスや仕組みの中でUCDを入れていることが大きなポイントです。成果が出るまでUCDによる改善活動をやる、そんな覚悟でいます。
1年目は、社員の意識改革と仕組み作りを行いました。2年目はそれをデザインで実現することです。そしてPDCAをまわしていきます。
業務の効率と情報の品質、そしてサービスを高めていける会社にしていきたいですね。効率を求めるあまり、品質やサービスがおろそかになってはいけません。
1級取得者は、印刷物だけではなく、お客さまに対してのサービスと情報品質を大事にしてほしいと思います。

―アワードのテーマも「情報品質という大きな責任」です。今までは、正しく、間違えないようにということでしたが、いまは「わかりやすく」ということが求められています。

添野:正確な情報を「わかりやすく」伝えることが情報品質だと思います。今期、1級取得者はそれを実現してほしいですね。チャレンジして成果が出なくてもチャレンジしたことを評価したいし、成果が出ればそれも評価したいと思います。

―UCDAについて要望はありますか。

添野:この一年間、UCDAには細かいところまで指導していただきました。そして具体的にどう結果を出すか、ということに注力していただきました。今後は、1級がただの免許ではなく、一人一人の力として発揮していけるように指導していただきたいと思っています。ノウハウが個人ではなく組織にきちんと根付いているか、組織変更があってもスキルレベルが適切に維持できているか、定期的な健康診断のように、外部機関がしっかりとチェックして進められるようにしたいです。このプロジェクトのメンテナンスを継続的にお願いします。

―私たちも結果が楽しみですし、持続性と定着のために支援していくつもりです。本日は、どうもありがとうございました。