「7つのキーワード」で、お客さま視点の帳票改善を実現

Top

総合企画部 ICT戦略室 オペレーション改革プロジェクトチーム参事役 小坪俊昭 氏(写真左)
システム部 システム企画グループ 調査役 吉田浩平 氏(写真右)

「2015アワードでの滋賀銀行の受賞コメントは大変興味深かった」「あのような話が聞けたことは大変貴重であった」という声がたくさん寄せられました。生産性向上プロジェクトを立ち上げられ「7つのキーワード」をもとに、従来からの帳票をゼロから改善されたことは、大変なご苦労があったと思います。本日は、その話をお聞きします。

――行内で、生産性向上プロジェクトが発足したのはいつですか。

滋賀銀行 小坪氏写真小坪:生産性プロジェクトチームは、平成25年の4月に立ち上げました。本格的な活動開始はその年の10月からです。生産性向上プロジェクトは、第5次長期経営計画の一環として組織されたチームで、各部が連携して4名の専属の担当者を配置しました。事務局を業務統轄部におき、システムに強い、現場に強いなど、それぞれが得意分野を持つ人材をそろえ、ひとつのチームとして同じ目標に向かってプロジェクトを進めました。

――このプロジェクトの中心になっている「7つのキーワード」は皆さんで議論して作り上げたのですか。

7つのキーワード
 キーワード ポイント
悩ませない わかりにくい表記や事務フローの改善など
書かせない 過剰な記入項目の削減など
押させない 過剰な印鑑押捺の削減など
戻らない 間違い(ミス)の発生により事務処理が戻らない
待たせない 事務処理の簡素化など
残さない 帳票の削減、保存する紙媒体の削減など
動かさない 書類のデリバリーや移動の削減など

吉田:このプロジェクトのコンセプトである

  1. お客さまのことを思う気持ち
  2. お客さまの利益(利便性)=企業の利益(生産性の向上)

を実現していくためには、みんなが共有できる言葉が必要でした。はじめに考えたキーワードは5つでしたが、議論を重ね、最終的に「7つのキーワード」にまとめ文書化しました。
文書にしておかないと、目指すべき方向性がぶれてしまうことがあります。この「7つのキーワード」は、私たちが目的を見失いかけた時に振り返る「羅針盤」でした。

――「7つのキーワード」をもとに、今までの帳票を見直し、あまり利用されていない情報については、お客さまに記入いただくことをやめる、という思い切った取り組みには驚きました。

吉田:帳票では、「過去から・・・」というだけで、お客さまにご記入いただいていた部分がありました。例えば、お客さまの住所のフリガナです。「読めないところだけをお聞きすればいいのではないか」「そもそも、なぜフリガナが必要なのか」などの意見があり、議論を重ねた結果、フリガナをご記入いただくことを無くしました。

小坪:必要のない項目をご記入いただくことは、お客さまの大切な時間を奪い、ストレスにも繋がります。一方、銀行の業務は間違えないことが重要です。事務で間違いがあるとそのミスを補うための修正を繰り返し、結果として事務プロセスが複雑になります。お客さまの負担、銀行の負担、両方を軽減するために「7つのキーワード」が大きな役割を果たしました。

――住所のフリガナをやめることに関してどのような配慮をされましたか。

滋賀銀行 吉田氏吉田:銀行が取得する情報は、どんどん新しい内容が追加されてシステムに保存されているのが現状ですが、今は、その情報をどのように「引き算をするか」を考えることが大切だと思います。
帳票も同じです。どのような必要性があり記入いただくのか、ご利用いただくお客さまにご負担をお掛けしていないかなど問題点を一つずつ洗い出します。例えば、「フリガナ」という情報は、他のシステムと繋がって利用されていないかなど、その他の業務に与える影響も調査しなければなりませんでした。

小坪:「フリガナ」が残っていたのは、かつて銀行がお客さまへの郵便物をカタカナ表記で送っていたからです。まずは、カタカナ表記で発送する郵便物がないことを、担当部署に確認することが必要でした。

吉田:今まで取得していた情報を取らないとする場合、他の部署への直接的、間接的な影響を見極める必要があります。いきなりやめることは出来ません。業務はシステムを含めあらゆるところで重なっている積み木細工のようなものです。ひとつピースを抜くと、全部が崩れてしまう心配があるのです。そうした問題点をクリアしながら、不必要な情報を取得しないようにすることが大切です。

――システムの変更が難しい段階になってから、デザインを変更したいという話をよくお聞きします。そのような状態からデザインを変更するには手間と費用がかかり、結果として変更できないケースです。このプロジェクトはシステム構築と帳票デザインが同時平行で行われたイメージがあります。

吉田:当初から帳票の出来上がりのイメージと進捗状況をシステム部と共有しながら、プロジェクトを進めたことが良かったと思います。帳票を「このように変えたい」、「次はこのように変わる」との私たちの考えは、常にシステム部と共有できていたと思います。例えば、入力した情報が帳票のどの部分に印字されるのかなど、端末操作した時の最終形を確認しつつ作業を行いました。また、業者の皆さんがシステム変更の制約を理解したうえで提案いただいたことも大きかったと思います。

――情報が増え続ける今の時代では、「7つのキーワード」のように、引き算をするという意識を絶えず持つことが大切ですね。

小坪:銀行は今まであるものを根底から変えること、「ゼロベース」で考えることが苦手なところがあります。それは、今あるものは、その時々の様々な事情により修正してきた歴史があるかです。また、「念のため」を想定し、不必要と思われる情報でも取得してきました。しかし、お客さまの情報に関する考え方が、ひと昔前までとは大きく変容しました。
例えば、普通預金の申込書で、A銀行とB銀行で記入する内容が違うのはなぜか、との質問をいただくことがあります。私たちは、取得する情報の必要性に加え、お客さまの利便性(お客さまにご記入いただく手間)を踏まえた対応が求められています。
今後、お客さまとの接点は、ICTの進展により、紙媒体からインターネットなど一層多様化していきますが、お客さまに「わかりやすく」「使いやすい」ものをご提供するという点に関しては、これからも変わることはないと思います。

――改善された帳票を実際に使われてから、どのような反応がありましたか。

小坪:今回の変更で行員は、多少の戸惑いがあったと聞いています。しかし、現在では、お客さまに帳票の記入時間が短くなり喜んでいただけた、との声も聞かれ、行員からの評価も概ね好評を得ています。

吉田:銀行にはたくさんのお客さまがいらっしゃいます。すべてのお客さまに「わかりやすい」と評価していただくことは難しいかもしれませんが、少しでもお客さまのご負担を軽減できれば、この帳票改善は成功だと考えています。

――今回の改善で、UCDA認証「伝わるデザイン」を取得されました。

滋賀銀行 小坪氏、吉田氏小坪:そうですね。私たちが帳票を「わかりやすく」改善したと言っても、客観的な評価がなくでは、ただの自己満足に過ぎません。そのために、第三者の立場で、基準が明確にあるUCDAさんに評価していただいたことは非常に良かったと考えています。

吉田:帳票の印刷会社様が、私たちの目指す方向性をご理解いただけたことが大きかったと思います。例えば、銀行内で帳票の細部について意見がぶつかり合い結論が出なかった時、印刷会社様との意見交換により、問題解決の糸口が見つかった時もありました。「わかりやすい帳票を作ろう」「伝わるデザインの認証をとろう」という共有の目標のもと、私たちの課題をともに考え、議論いただいたことで、結果的に良いものが作れたのではないかと考えます。

――製作を発注された時は、UCDの認証取得を要望されたのですか。

吉田:その通りです。私たちがUCDを念頭におきながら帳票改善の準備している時、印刷会社様からUCDAさんをご紹介いただきました。それは大きな出会いでした。一方で私たちがUCDの観点を持ち、わかりやすい帳票を目標としていることがうまく伝わっていない業者様もいらっしゃいました。UCDAさんとの出会いの橋渡しと、わかりやすさの追究を最後まで熱心に行っていただいた印刷会社様に感謝の気持ちで一杯です。

小坪:私は多色刷などのコスト面も考えて、別の案を検討していたのですが、若手行員は、この提案が

  1. シンプルでわかりやすいこと
  2. お客さまにも必ず喜んでいただける

という観点から、評価していました。

――帳票の改善には、UCDを実現するデザイン力が重要になってきます。

小坪:一番ご苦労されたのは、デザイナーさんではないでしょうか。私たちが苦心しているところをご理解いただき、私たちの願いやアイデアを実現いただきました。

――今回のような改善には、かなり費用(コスト)がかかったと思いますが。

小坪:そうですね。確かにコストはかかりました。しかし、大切なことは、全体で見た時のコスト、さらにはお客さま満足度がどうなっているかだと思います。例えば、お客さまへのご説明時間が短くなり、記入ミスが減れば、それにかかる人件費や帳票類の費用などが削減できます。そして、何よりも、利便性が向上することでお客さま満足度が高まります。それらをトータルで考えると、帳票一枚あたりの単価が上がっても、そのコストを十分回収できると判断しました。

吉田:当行では、帳票の印刷費用は各営業店が負担する仕組みになっています。そのため、当初は、帳票単価が上昇したことに批判をいただきましたが、最近では、事務コストの軽減や取入書類が減少したことで、トータルのランニングコストは削減されている、との理解が深まってきたと考えています。

――これからのビジョン、具体的なPRを教えてください。
小坪:帳票改定は、UCDAさんから教えていただいた「わかりやすさ」「伝わりやすさ」の考えを基本に進めていくつもりです。お客さまとの接点が変っても、そのスタンスは変えずにやっていきたいと思っています。また、「アワード」をいただいたことで、その考えをしっかりと後輩たちに継承していきたいと考えています。

吉田:「わかりやすさ」はどこでも適用できる概念です。特にシステム部で考えると、画面や出力される帳票にも「わかりやすさ」が求められます。個人的な考えとしては、プロジェクトで培ったノウハウを、システム画面に転用できるように取り組んでいきたいと考えています。
もう一つは、地域貢献です。弊行が得たUCDによる効果を広め、県内の公共団体や地域の企業が導入される時の一助になれれば、と考えています。

――最近UCDについてシステム会社からの問い合わせが増えてきました。ユーザー画面を「わかりやすく」したい、お客さまに届く印刷物のデザインを「わかりやすく」したいなどの問い合わせです。

吉田:システム構築の一部を担っている者として思うことは、ユーザーとシステムをつなぐ「ユーザーインターフェース設計」が非常に難しいということです。それは、システムをプランニングする、あるいは処理、内部設計する者と、その動かし方を決める者が同一であるからに他なりません。つまり、お客さまと接する営業店の意見が活かされていないことにあります。どのようにユーザーとつながっているのか。私たちは、現場の利用シーンを十分理解したうえで、情報を取得する意味や使用方法、時期などを明確にして、その情報を活用していくシステム部でありたい、と願っています。また、お客さまやユーザーの視点で帳票や画面の改善提案が出来て、その処理をスムーズに行うシステムの構築を目指したいと思っています。

――最後にUCDAに対してご意見がありましたら教えていただきたいのですが。

小坪:帳票改善を進める過程では、賛成や反対、双方の意見がありました。しかし、そこを様々な視点で検証し、多様な考えから分析することが重要だと勉強しました。いろいろな意見を聞き、失敗から学び、前に進むことを実感できたのは貴重な経験でした。

吉田:UCDAさんには、ここまで対応していただいたことに感謝しています。何よりも「わかりやすさ」という考え方を教えていただいたことは貴重な経験であり、今回、私たちもその考えに気づくことが出来ました。頭の中で考えたことを形に出来たのはUCDAさんの考え方があったからだと思います。要するに、情報をどれだけダイレクトに伝える技術を身につけるかどうかです。
私たちは目の前のことで精一杯なので、UCDAさんには、これからも「わかりやすさ」の指針となっていただき、一歩先を見据えたアドバイスをしていただきたいと思います。

――我々もこの活動を「広める」ことが、皆さんのお役に立つと思っています。認証のマークが、お客さまのことを一生懸命考えている企業の目印になるように頑張りたいと思います。本日は、ありがとうございました。

(2016.05.18 収録)