「フェスティナレンテ」とは、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの座右の銘で「悠々として急げ」を意味します。
 このコーナーでは、日々情報コミュニケーションの課題に悠々と取り組みつつ、UCDを導入し、スピーディーに結果を出している企業・行政・団体を取材します。「わかりやすさ」への取り組み(プロジェクトUCD)における苦労や、現在の活動、今後のビジョンについてお話しいただきます。

田中 紀充 氏(左)  齋藤 貴之 氏(右)

インタビュー 東京都 総務局総合防災部 防災管理調整担当課長(インタービュー当時) 齋藤 貴之 氏

女性視点の防災ブック「東京くらし防災」を作成されたいきさつをお伺いします。

齋藤 貴之 氏

 2年前に「東京防災」を作りました。コンパクトで「わかりやすく」まとまっていると、評判は良かったのですが、防災について幅広い項目を取り上げているせいか、何から始めて良いのかわからないという意見もいただきました。そこで、もう少し取り組みやすいものを作ろうと内部で議論が起こりました。
 女性の視点で作ったきっかけは、避難所において女性ならではの課題にきめ細かく対応しようということでした。例えば、妊産婦さんの授乳、着替え、子供との関わりなどです。

 また、地域の防災活動はまだ男性が中心で、女性はあまり参画されていないということもあります。そこで、東京都の防災、災害に対する備えをよりきめ細かいものにしていくために、女性にもっと防災に参画していただきたいという思いからこの企画が始まりました。
 もちろん女性だけに向けたものではなく、多くの方々に参画していただくことが目的です。これは都知事の発案です。

どのような点に留意されたのですか。

 日ごろの暮らしの中でできることを重視しようと心がけました。そのため、女性の有識者の方で構成した会議を立ち上げることから始めました。この有識者会議が2017年の5月に立ち上がり、議論の上企画をまとめ作成に入って、2018年3月に発行となりました。

 前回の「東京防災」は、各家庭に一冊常備していただくことをコンセプトに、全世帯に配布しました。一方、今回の「東京くらし防災」は配布ではなく、都内各所に置いて、自ら手に取って読んでいただくという形を取りました。多くの方に防災に参画してもらうことを目的としたからです。

 日常生活の中で、防災に触れていただくようにと考え、郵便局、区市町村の役所、スーパーやネイルサロンなど、女性だけではなく、高齢者や障がい者の方などを含め多くの方が訪れる場所に置くようにしました。

「東京防災」と違うのは、どのようなことですか。

東京くらし防災 「東京防災」作成の際は、視覚障がい者の方向けに別冊を作りましたが、「東京くらし防災」では同じ冊子で共通してご覧いただけるように、文章を読み上げる音声コードを入れたことです。
 前回の「東京防災」は黄色い冊子でしたし、今回はピンク色の冊子で、どこに置いてあっても目立つと思います。内容も、イラストを多く用いて、特に女性に親しみを持っていただけるようにと考えました。その上で、色合いやレイアウト、文章なども含めて全体としてユニバーサルデザインを取り入れました。

以前、「都が発行する印刷物は、ユニバーサルデザインの観点を取り入れ、第三者機関に判断してもらうことにした」と伺いましたが、今回もそうですか。

 「わかりやすさ」というものは、ともすれば主観になってしまうので、第三者的な観点から評価をしていただくことが有益だと考えています。防災も重要な情報です。今回も多くの方々にとって読みやすく見やすいということを目的にしましたので、入札の仕様書の中に、UCDA認証の取得を納品の条件として盛り込みました。情報にも「わかりやすさ」という品質が必要だと思いました。
 完成まで苦労しましたが、UCDAからは数々の助言をいただき、とても助かりました。レイアウト、色使い、文字など、いろいろと気付かされました。

テレビ、新聞で取り上げられ話題になっています。都知事をはじめ職員の反応はいかがですか。

齋藤 貴之 氏

 都知事からも「わかりやすくて良いものが出来たね」という声をいただいています。職員や関係者からの評判も上々です。都民の皆さんの評価が楽しみです。

 前回の「東京防災」は、現在累計805万部発行しています。今回の「東京くらし防災」は、最初100万部印刷しましたが、すぐに増刷の話が出ています(平成30年7月現在 増刷を重ねています。)。多くの方に手に取っていただき、防災に対する意識を高める第一歩になってもらいたいと思います。

「東京防災」「東京くらし防災」以外でも、印刷物をユニバーサルデザインで作成することは進んでいますか。

 庁内で作るいろいろな印刷物にユニバーサルデザインの考えを取り入れることは浸透してきています。広報の内容にもよりますが、多様性の面からもユニバーサルデザインの観点というのはこれからも必要になっていくと思います。
 また、印刷物だけではなく、公共施設の案内サインやデジタルサイネージなど情報コミュニケーションにおいても重要になってきます。まさにユニバーサルコミュニケーションデザインですね。

全国の区市町村では、職員が様々な文書を作っています。勉強をしたり研修を受けたり、「わかりやすさ」に対する意識も変化してきていると思いますが、都庁ではいかがですか。

 職員が「わかりやすい」文書作りを勉強することは大切です。しかし、自分たちが作るものを「わかりやすく」するのは、なかなか難しいことです。担当者の主観で作り、後でいろいろな人の意見が入ってしまうので、情報過多になりがちです。文章も専門用語を使ってしまうことがよくあります。今回の認証取得の過程で、私たち職員が作るものこそ、都民の視点で考えなくてはいけないということに気付きました。

 行政の分野で認証を取っている事例は少ないのでしょうか。民間の企業のほうが多いですか。

「納税通知書」や「特定検診のご案内」など、全国の市区町村でも認証が広がっています。一部の都営バスで流れているデジタルサイネージの画面もUCDA認証を取っています。

 私たちが知らないところで、UCDA認証は広がっているのですね。「わかりやすく」すれば情報の伝わり方が速くなります。正確さと同時に、速さは私たち職員にとっても非常に大事な要素です。自分たちの作業効率も上がりますし、都民のストレスも軽減されます。

 都が都民に送る通知物や記入していただく申請書などの多くは大切な情報です。これを「わかりやすく」することはとても重要です。これからも行政の分野で、もっともっと認証を取るようになると良いと思っています。UCDAには、第三者機関として、客観的な評価によって改善のお手伝いをしていただきたいと思っています。

本日はどうもありがとうございました。