茂木武志氏

インタビュー
(インタビュー当時)

株式会社三井住友銀行
リテール統括部
副部長 茂木 武志 氏

私たちの取り組みはもともとお客さま本位で行われてきた

― 2017年に公表された「顧客本位の業務運営に関する原則」が、2021年1月に改訂されました。まずは、この取り組みについて貴行のお考えを聞かせていただきたいと思います。

茂木:私たちSMBCグループの経営理念の1つに「お客さまにより一層価値あるサービスを提供し、お客さまとともに発展する」というものがあります。これはSMBCグループが果たすべき使命を述べたものですが、この理念が、「顧客本位の業務運営」そのものだと理解しています。つまり、お客さま本位の姿勢でサービス提供を徹底し続けることで、はじめて弊行が取り組んでいるサービスの価値をお客さまにご理解いただけるということです。

― 「顧客本位の業務運営」は、もともと貴グループも考えていたことだったのですね。

茂木:おっしゃる通りです。顧客本位の業務運営のために何かをするということではなくて、もともと私たちの業務姿勢そのものが、お客さま本位に基づいて行われているということです。

お客さまの価値観は十人十色、それが前提

― 私どものセミナーでは、情報の送り手が100%知っていることが、受け手にとっては0%の場合がある。この「情報の非対称性」を前提に情報発信することが重要だとお伝えしています。貴行は「情報の非対称性」についてどのようにお考えですか。

茂木:弊行、特に私たちリテール部門では、お客さまに提供する商品サービスには情報の非対称性があるということを前提として、2つの観点で取り組みを進めています。1点目は、弊行がご提供するサービスはさまざまなお客さまにご利用いただいているので、その受け止め方も十人十色、且つ、金融商品に対する知識もバラバラです。従って、そのことを前提にいろいろなサービスのあり方を考えていくということです。もう1点は、わかりやすく情報をお伝えすることです。金融商品は非常に複雑です。私たちが当たり前のように使う、例えば「金利」という言葉も、金融商品にあまりなじみのない方にとってはよくわからないかもしれない。それをわかりやすく伝えていくことが大事だと思っています。

お客さまの立場に立ってという目線が大事だ

― 現時点では重要情報シートでUCDA認証を取得されたのは貴グループだけです。(三井住友銀行・SMBC日興証券・SMBC信託銀行)
認証取得の経緯と、貴行にとっての重要情報シートの位置づけを教えてください。

茂木:「顧客本位の業務運営に関する原則」の改定への対応ということではありますが、私たちはこの重要情報シートを非常に大切だと思っていまして、3つの要素を考えながら対応を進めています。1つは、お客さまが重要な情報をひと目でわかるものにすること。2つ目は、お客さまがその情報をもとに適切な選択・判断をできるようにすること。3つ目は、お客さまがこれらの情報を他の金融機関と比較して検討できるようにすることです。

― いずれもお客さまにとって、ということですね。

茂木:そうです。お客さまにとってどういう情報が必要か、そこに重きを置いて作成しています。それから、重要情報シートは使われなければ意味がない。ですので、営業の第一線で業務を担当している行員たちにもこのシートを作った背景を理解してもらうことを徹底しています。加えて、実際に使用する行員の立場になり、使いやすさも重視しています。

― お客さまにも行員の方にも使いやすくないと活用されませんからね。

茂木:次にこの認証取得にチャレンジした理由ですが、大きく2点あります。1つ目は、「わかりやすさ」というものは私たち銀行員が決めるのではなく、あくまでもお客さまが判断されるものだからです。そういう意味で、作ったものの良し悪しはより客観的な目線で判断されるべきだというのが基本的なスタンスです。そこでUCDA認証の取得を目指しました。もう1つは、私たちの「わかりやすさ」への取り組みが1人でも多くのお客さまに伝わればという思いからです。お客さまに喜んでいただくことが、私たちの喜びにもなりますので。

「わかりやすさ」の追求にゴールはない

認証取得物
SMBC グループ リテール事業部門
「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」リーフレット兼重要情報シート(金融事業者編)
2021年6月版:クリックで拡大

― 認証取得後の行内からの反応はいかがでしょうか。

茂木:私自身は非常によかったと思っています。というのは、銀行員である私たちですら「金融商品は難しい、複雑だから仕方がない」と思いがちですが、今回はそういったことをいったん忘れて、ゼロベースでお客さまにお伝えするにはどうすればいいかを考えて取り組みました。もちろん金融庁からご提供いただいているフォーマットはありますが、その中でどのような工夫をすることがお客さまにとってベストなのかを考えていく。このような思考プロセスは、銀行としてお客さまに相対していくときに非常に大事なことだと思っています。

― 重要情報シートは使用しながら課題を見つけていき、そこからまた次のステップに向かうのだろうと思っています。行員の方やお客さまの反応が楽しみです。

茂木:私たちは制作物をリリースするとき、その時点で百点満点だと思うものを出していますが、そこはゴールではなくて、お客さまに直接ご説明し、使ってみてわかることもあると思います。この「わかりやすさ」の追求は、やればやるほど課題も見つかりますが、その分お客さまにも喜んでいただけるものだと思います。

デジタル化と有人対応を両立させていきたい

茂木武志氏

― 今後の「わかりやすさ」への取り組みや、これからの目標について教えてください。

茂木:足許、私たちが考えないといけないことは、コロナ禍による業務環境の変化、また、それに伴うお客さまのニーズの変化です。今まで銀行は駅前に店舗があって、その中でお客さまに対面で対応させていただくことが基本でした。しかし、コロナ禍を経て、デジタル化や、リモート化が急速に進展しました。つまり、お客さまと銀行をつなぐチャネルが複線化してきているのです。

― 確かに今はスマートフォンが普及しているので、コミュニケーションの場が多様化しています。

茂木:対面であれば、私たちが直接サポートさせていただくことでわかりやすくご説明できていましたが、今後は、非対面で今までと同じクオリティの「わかりやすさ」をお客さまに感じていただかなくてはいけない。それと並行して、お客さまの価値観もどんどん多様化しているので、その変化にもついていく必要があります。「店頭ではわかりやすかったけれど、スマートフォン・PCだとわかりにくい」ではいけません。お客さまのニーズや業務環境の変化に応じて、「わかりやすさ」というものをきちんと追求していく。こういう姿勢が大事だと思います。

― デジタル化が進む一方、店舗に行って話を聞くことで安心するとか、改めて何か決断できるとか、そういうこともあるのではないかと思いますが。

茂木:そうですね。有人対応には有人対応のよさがありますので、両立させるべきだと思います。デジタルでできることは便利にデジタルでやっていただく。でも、人生の色々な節目で立ち止まって考えなければいけないこともあります。その際はひとりひとりのお客さまに親身に対応させていただくことが、お客さまの安心に繋がるものと思っています。フェイストゥフェイスの関係というのは今後もあり続けるだろうと、私自身は思っています。

「わかりやすさ」を社風として根づかせていく

― 私どもの責任も大きくなっていきますね。最後になりますが、UCDAに対してご要望などお願いします。

茂木:「わかりやすさ」にはゴールがなくて、やればやるほど解決しなければいけない課題は増えていく。私は、むしろそれは好循環だと思います。つまり、わかりやすいものを作れば作るほど多くのお客さまの目に触れ、ご理解いただける。その分、いろいろなご意見をいただける。それがまた私たちの成長の糧になっていくのだと思います。
ただ、私たちだけではどうしても客観性を担保するのが難しい。ですので、私たちも一生懸命やっていきますが、引き続きUCDAの客観的なご意見やご指導をいただきながら、よりよいものを作っていきたいと思っています。

― 以前、「社内の帳票を全て見直して改善する」という企業がありました。これ自体は素晴らしい取組みなのですが、1回改善してそれで満足してはいけません。この「わかりやすさ」への取組みは継続しなければいけないと思っています。

茂木:そこがいちばん難しいですね。1回作って「これで完璧だ」とすると、またそこに手を加えるのは気持ち的にもハードルが高くなる。しかし、そこに対応しないと、この手の取り組みはどうしても形骸化してしまいますので、「今が完璧ではない」と、常に自分たちを疑う意識を持ち続けることが大事だと思っています。その為にも、引き続きUCD推進の考え方を文化、社風として根づかせていけるよう、チャレンジしていきたいと考えています。

― UCDを社風として根づかせていくお手伝いを、これからも続けてまいります。本日はお忙しいところありがとうございました。