○○ ○○氏・○○ ○○氏

インタビュー
株式会社印刷学会出版部
月刊『印刷雑誌』編集長 中村 幹氏

印刷雑誌には106年の歴史がある

― 最初に、中村さんが今やっていらっしゃる印刷学会出版部についてお聞かせください。

中村:歴史的には、印刷雑誌は1917年創刊で今年106歳です。当時は印刷雑誌社から出版されていました。その後設立された日本印刷学会が1947年に出版部を作る際、印刷雑誌社から印刷雑誌を引き継ぎました。
印刷学会出版部は当初から独立系出版社として歩み、出版取次の口座も持っています。位置付けとしては専門書出版社です。
現在では、日本印刷学会誌と印刷雑誌の二誌があり、論文など専門的なものは日本印刷学会誌に、取材など一般の記事は印刷雑誌に掲載するようにしています。

― 印刷雑誌の読者は印刷業界で働いている方々ということですか。

中村:印刷業界が中心で後はインキをはじめとした素材メーカーや、印刷機やプリンターなどのメーカーですね。

― その印刷雑誌は定期購入が多いとは思いますが、書店での購入もできるのですか。

中村:できます。発行部数のうち2分の1くらいが定期購読、4分の1くらいが一般社団法人日本印刷学会に買い取ってもらっています。大きなお客さまという関係ですね。日本印刷学会はそこから会員に配っています。残りの4分の1が書店です。

印刷で培われてきたノウハウは紙でなくても活かせる

― 印刷には長い歴史がありますが、ここ数十年でかなり大きな変化がありましたね。

中村:私が社会人になってからの、いちばん大きな変化はDTPの出現です。もう1つがインターネットですね。

― プロがやっていたことを一般の人ができる時代になってきたわけですね。

中村:編集ソフトウェアを使えば誰でもデザインができる時代です。

― UCDAを始めるきっかけも、一般の人がデザインをするようになって、それが印刷物として世の中に出てきたことにあります。一般のユーザー側はプロが作っていると思っている。でもそれがわかりにくい、そこに何か基準を作れないかということからUCDAが始まったわけです。

中村:当社の火災保険の更新で申込書を見たのですが、小さい字で書かれている。老眼の私は困ったなと。UCDAはそういうものを変える活動をしていますね。それで、営業の人にUCDをご存じですかと聞くと知らないと言う。メディアとして何とかしなければと思いました。

― 私たちも頑張らなければいけないと思います。
中村さんは、今デジタル化によって紙が減ってきていることについてはどうお考えですか。

中村:紙は減っていますが、年配の方々でけでなく、やはり紙の本を読みたいという人達は多くいます。あと、紙でないと記憶に残らないですよね。

― 確かにデジタルでは記憶に残るというところは弱くなりますね。

中村:デジタル化によって成功したといわれているものの1つに学校の卒業アルバムがあります。だいたい行事のところには自分は写っていないものですが、デジタル印刷によってそれを自分の写真だけにできる。それで、おじいちゃんおばあちゃんが1冊10万円でも買うわけです。

― 現在は紙からデジタルへの移行期にあると思いますが、印刷で培われてきたいろんなノウハウは紙でなくても活かせるのではないですか。

中村:もちろんです。例えば自社でインターネットを作れなくても、プランニング力があれば外注すればいい。UCDに関係しますが、例えばスーパーのチラシの金額の0が1つ多いとか少ないとか、問題になる前に気づく人が昔の印刷会社にはいました。

― 何かおかしいなという直感みたいなものですね。

中村:昔は活字を拾っていたので文字を読むという意識があり、印刷会社が紙面を作っていたので写植やDTPになっても、まだ印刷会社にはそういう人たちがいた。今、印刷会社はどんどん組版をしなくなっています。それは編集プロダクションや出版社のDTP部門がやっていて、印刷会社は刷り屋さんになっている。これは大きな問題です。

中村幹氏

クライアントのことを勉強しようとしないことが印刷業界の課題だ

― 今の印刷業界の課題は、やはりデジタル化の中で紙が減ることですか。

中村:オフセット業界からすると、パッケージの割合は10~20%ぐらい。後は商業印刷物などが占めるので、少ないパッケージの部分を奪い合うみたいなことになっています。

― パッケージは日々消費するものだからなくなりはしないでしょうね。

中村:グラビアインキを作っている会社は、コロナのときは巣ごもり需要で生産が追い付かなかったそうです。やはりパッケージは生活の必需品ですね。
ただし、グラビア印刷業界でも、オフセット印刷業界でも、印刷会社に就職したいという若手は少ない。このような、魅力的な業界かどうかも課題の1つですね。

― UCDAを始めた頃は、企業とお客さまとのやりとりの中で、印刷はすごく重要な役割を果たしていたました。デジタルになっても、コミュニケーションという考え方を中心にすれば活躍の場はかなりあると思います。

中村:そう思います。全ての産業にといっていいぐらい、印刷会社は出入りしていますから。

― だから、コミュニケーションという考え方を発展させていって、ノウハウをデジタルとうまく結び付ければ未来は明るいと思うのです。

中村:明るくない要素もあります。どんな業界でも業界紙というのが必ずありますが、印刷会社でクライアントに関わる業界紙を見ることはほとんどない。相手先のことを勉強する気がないのです。最たるものが、当社に来る飛び込み営業でも、当社のウェブサイトも見ずに来る人もいる。そういうものを通過した後に、やっとUCDAみたいな話があるのかなと思います。

― 業界ではかなり前から提案型の業務に替えていかないとダメだと言っていますが、いまだにそれができていない。

中村:救いは世代交代ですね。危機感を持っている若い社長もいますから。

「印刷物からデジタル」ではなくて「印刷物とデジタル」を使い分ける時代だ

― クライアントのニーズを知ることが提案につながるので、印刷雑誌はクライアント情報も熱心に取材されているわけですね。中村さんは最近UCDAにかかわる記事を多く書いてくださっていますが、それはなぜですか。

中村:面白いからですよ。印刷会社を必要としているクライアントの考えや動向は、『印刷雑誌』の掲載うんぬんに限らず、印刷会社の人は知るべきだという基本ですね。

― クライアントと印刷会社の間にUCDAという組織があり、そこにUCDという考え方があるということですね。中村さんはUCDが印刷業界にとって有効性があると思っているから、いろいろ記事にしてくださっているわけですね。それは具体的にどのようなことですか。

中村:きちんと定量的な評価がされていて、見やすいデザインを考えるうえで有効だからです。

印刷雑誌2023年3月号
月刊「印刷雑誌」3月号
消費者にわかりやすい印刷物の特集が組まれた

― 今、UCDA資格認定講座の受講者がすごく増えています。受講者の8割ぐらいは保険金融関係の人で、印刷会社の人は少ない。そうすると、仕事を発注する側がどんどん賢くなって差が広がってしまう。「UCDってどういうふうにすればいいんですか」と保険会社の人は印刷会社の人に聞かれてしまうそうです。

中村:印刷会社は、クライアントの情報を収集するいいチャンスでもあります。

PRをどうやっていくかがUCDAの課題だ

― では最後に、UCDAへの期待とか、苦言でもけっこうですので、何かありましたらお願いします。

中村:PRをどうやっていくかということですね。UCDAを仮にメーカーとすると、売り込みにはやっぱり情報提供が必要だと思います。意識を高めるような情報ですね。

― 我々も頑張ります。今日はありがとうございました。