食品パッケージは短時間で大量の情報を伝える必要がある
― パッケージをデザインするうえで、食品業界としてはどのような課題がありますか。
佐藤:世の中に出回る商品で、食品パッケージほど広告の道具にもなり、お客さまにイメージを伝えるものであり、かつ中身を正確に伝える必要がある、というようなものはないと思います。例えばアップルのPCを見ても、PCであることはわかるけれど、それで何ができるかはすぐにはわからない。でも食品だと箱を見れば一発でわかります。それから情報量がものすごく多いのにパッケージが小さく、食べたらすぐに不要になってしまいます。短時間で大量の情報を伝える必要があるということがすごく難しいですね。
― 企業が考えていること、伝えたいことがパッケージには凝縮されていますね。
佐藤:それと、社会も人の生活環境もどんどん変わります。今はアレルギーへ関心が高い。アレルギーのある人が間違いのない選択をできるように、きちんとした情報を載せなくてはなりません。これも近年の課題としてはすごく大きいと思います。
― 江崎グリコ様のウェブサイトを見ていると、品質に関してとても丁寧にお書きになっていて、おいしさ品質ということばも使われています。今回それに一つ加えると、UCDAでは情報品質という言い方をしていますが、情報も非常に重要で、品質が問われる一つだと思います。
佐藤:今回のUCDA認証「伝わるデザイン」取得の事例はあらゆる立場の人が情報に対して責任をもち、情報設計に目を向ける機会にもなると思います。
スタンダードな基準を持つUCDAにヒントをもらいたかった
― UCDA認証「伝わるデザイン」を取得されたきっかけはどのようなことでしたか。
榎:例えばレトルト食品。私の世代だとお湯の中に3分間入れて温めるものだと思っていますが、今は電子レンジで加熱するものや冷凍のものなどもあります。やはりライフスタイルも多様化しているので、簡単な説明だとお客さまがなかなか理解しづらい環境になっています。それをいかにわかりやすく書くかが、今我々が苦心しているところです。
― ライフスタイルの変化でパッケージは小さくなる傾向なのに、情報は増えてきています。
榎:パッケージの文字数が多くなるとわかりにくくなってしまいます。だからそのトレードオフをどうするか考えていくわけですが、何を基準にすればいいのかわからない。そこで、スタンダードな基準を持つUCDAに一度お話をうかがいたいと思いました。そして今回できたのが、「炊き込み御膳 具だくさん とり五目」のパッケージです。一商品の裏面表示ではありますが、背景となる思想を学び、お客さま目線の商品を提供していきたいと思い、今回お願いしたわけです。
UCDA認証「伝わるデザイン」取得 「炊き込み御膳 具だくさん とり五目」 クリックで拡大 |
第三者評価が入ると自分たちが取り組んできたことに自信が持てる
― ご依頼をいただいて評価を行ったわけですが、パッケージは表示をできるスペースがかなり限られています。改善時に苦労された点などがございましたらお聞かせください。
榎:パッケージは六面ありますが、何をどこに書くかが悩みどころです。情報としては、法律で書かなければいけないとされている栄養成分表示、それからアレルギー表示、原材料表示、それに作り方などがあります。その優先順位をどう整理していくか、ご年配の方は黄色地でコントラストが弱いものは見にくいなど、そういうアドバイスをいただきながら作ったのが、今回のパッケージです。
佐藤:ユニバーサルデザイン・ガイドラインというものを関係部門と一緒に作ってきたのですが、自分たちだけでルールを作ることに不安もあり、UCDA認証「伝わるデザイン」の取得を考えたわけです。第三者評価が入り、そこで大丈夫だということになれば、自分たちが取り組んできたガイドラインに自信が持てます。さらにそこから深掘りしていくこともできると考えました。
― まさにそうですね。最近食品会社の方がよくおっしゃるのは、社内にプロはたくさんいるし、いろんな知見もあるけれど、第三者から見てどうなのか最後はちょっとぐらついてしまうということです。それで我々に相談にこられるケースがすごく多い。
佐藤:やはり今の時代、最終的には市場の評価だと思います。その商品がいいというだけではなく、例えばカレーがいいからシチューもいいだろうと思ってもらわなければいけない。他社と比較したときに、お客さまがうちを信頼してくれるかどうかということですね。
わかりやすく伝えるためには、複数の人たちが創意工夫し合うことが大事だ
― 今回の改善を見て、全体の印象はほとんど変わらないのですが、細かいところが丁寧に直されていると思いました。企業の心遣いのようなものが感じられていいですね。
榎:パッケージは商品の顔なので、ガラッと変えるとお客さまが迷ってしまいます。お話しいただいたように気遣いというのがキーでしょうね。少しずつ改善を重ねていくことが重要です。
佐藤:あと私が期待するのは社内の評価ですね。CXやUXをきちんとやるためには、社内の人たちのエンゲージメントがしっかりしていないとダメだと思います。わかりやすく伝えるためには、一人悶々と考えるのではなくて、複数の人たちが関わり合って、創意工夫を出し合っていくことが大事です。
― いつも私たちが評価結果を報告すると、皆さんが最初におっしゃるのは「やはりそうですよね」ということばです。皆さん内心感じているものがあるのでしょうね。それがレポートという客観的評価として出てくると、やはりそうかとなって、社内で共有できる。すると、これを改善する力が出てくるわけです。
佐藤:当事者はわかっていても、以前から決まっていることなのでなかなか手を付けられないということがあります。そんなときに脇から指摘してもらえると変えやすいですね。
― そのときは他の部署と連携することがすごく大事ですね。気づきが社内で広がってくると、いろんな部署の力がまた、いろんな商品に集まってくるのではないかと思います。
社内の皆さんが共通のステージを持っていると仕事はスムーズになる
― 今後の取組みとして何かお考えになっていることはございますか。
榎:お客様センターでは、2022年にUCDA資格認定2級を2名取得しました。まだ少ない人数ですが、少しずつ増やしていって、風土をつくり、考え方を発信していこうと思っています。
佐藤:やはり情報設計に向けての意識が統一されていると、無駄なく進められますね。
― UCDA資格認定を取得することにより皆さんが共通のステージを持っているとスムーズになりますね。
第三者評価は重要だ
― 最後になりますが、UCDAにリクエストなどがあればお願いします。
佐藤:今回我々が行ったことは、しなくてはいけなかったことを改めてしてみた、するとまだまだ改善の余地はあった、そういう体験でした。今の時代、デジタル、アナログの区別なく、コミュニケーションのために創意工夫していくことが社会的な信頼にもつながります。ですから、今回の事例をいろいろアピールしていただけると、社内的にも評価され、社員のモチベーションも上がると思います。
― ありがとうございます。そのように言っていただけると我々も励みになります。
佐藤: UCDAの認証を取ったことで、今まで第三者評価はお客さまの信頼を得るのに重要だと言ってきたことがクリアできました。社会に認めていただくためには客観的な立場からお墨付きをもらうことが重要です。そうすれば自分たちのやっていることが確固たるものになります。非常にいい機会でした。
今はゴール目標をみんなで求めていく時代なので、第三者評価というものは今まで以上に求められていくと思います。
― 今日はありがとうございました。