企画コンセプト

ローマ神話では、学問発祥の地、アテナの近くに「ミネルヴァの森」というものがあったとされています。ミネルヴァとは、知恵の女神の名前で、つねにフクロウを従えていたことから、フクロウもまた知恵の象徴です。
この企画では、理事長の在間稔允が、長年活躍されてきた各界の賢人の方々(フクロウたち)に、これからのUCDのあり方についてお聴きします 。

ゲスト:一般財団法人 日本消費者協会 総務部長 伊藤健一(左)

プロフィール 昭和59年、一般財団法人 日本消費者協会 商品テスト室に勤務。企画室、教育企画を経て出版編集室 室長に就任。平成16年、総務部に異動。消費生活コンサルタント及び地方消費者行政活性化委託事業や事業者向け啓発講座、消費者相談室統括を行う。教育啓発部 部長、事務局長を歴任。平成29年に総務部長に就任。
UCDAアワード2017の実行委員を務める。

 

―日本消費者協会についてお聞かせください。

伊藤:日本消費者協会は、昭和36年設立です。消費者団体として、情報提供型の組織はそれまでなかったと思います。アメリカのコンシューマーズ・ユニオンをお手本に財団法人として当時の通産省の所管でスタートしました。
当初から二つの柱がありました。ひとつは、消費者問題を取り扱うリーダーを育成すること。これは今でも消費生活コンサルタントの資格制度として続いています。コンサルタントの方々は、消費生活相談員としても活躍しています。また、事業者の消費者対応の人材育成制度として、コンシューマー・オフィサーという人材の育成もしています。一般の方々に対しても、消費者として必要な知識を高めていくための消費者力の検定を行っています。
もうひとつの柱は商品テストです。これはどの商品どこが良くて、どこが悪いのかを客観的な情報として消費者に伝えることを目的に始まりました。商品テストの情報提供は、アメリカのコンシューマーズ・ユニオンでは成功していたのですが、日本ではもう一つなじまなかったようです。商品テストの結果を、「月刊消費者」として毎月発行していたのですが、6年前に休刊になりました。

―アメリカでは今でも、コンシューマーズ・ユニオンが発行するコンシューマー・レポートが700万部も売れているそうですが、同様のことが日本では成り立たないのはなぜなのでしょう。

伊藤:日本人にはブランド志向というものが強くあります。これには日本の技術力が高いという認識や、広告のイメージを重視する傾向も影響したのではないかと思います。新しい商品を購入する時も、商品を比べる前にブランドで選ぶ傾向がとても強いようです。また、販売店の方との話だけで購入を決めることも多いですね。これもとても日本的です。アメリカでは客観的な情報として、コンシューマー・レポートをはじめとした情報を活用しています。企業や販売店の方の話を信じるという情緒的なことに比べると、とても論理的です。

―家電や自動車などは、あまり細かいところで比較をしていくと「オタク的」になってしまうのかもしれませんが、通信や金融商品などは、ブランドだけではなく内容と値段を比較する傾向があるのではないでしょうか。

伊藤:そうでもないですね。欧米では、消費者の選ぶ力によって商品やサービスは磨かれます。日本は消費者個々の考えで選ぶより、消費者全体が「はやり」に乗り遅れることへの恐怖があるようです。例えば、スマホです。誰でもスマホが適しているのかわからないままブームのような形になっています。スマホじゃないほうがいい人にまでスマホを勧めてしまう。これは、便利さを提供しているのではなく、利益や都合さらに「はやり」を優先していることだと思います。こうなると消費者はよくわからない自分が悪い、という錯覚を持ってしまう。

―私たちも「わかりやすさ」の基準というものを提示してきましたが、当初は「これは国が認めた基準なのか」とどこでも言われました。これも、国が決めたことなら信用するという発想ですね。

伊藤:日本人は、国が決めたことがすべて正しいと思いがちです。そして、公益的なことにお金を払うという発想が少ないといえます。大切な情報を知らせる雑誌を作っても、このようなものは国が作って無料で配布するものだとも思うのです。
しかし、これは長期的・継続的に考えると無理が出てきます。それに無料のものは、「ありがたみ」が薄くて認知度が今ひとつという問題もあります。

―消費者保護のルールや法律が次々に出ると、企業が消費者に伝えなければいけない情報もどんどん増えます。それで問題は片付くのでしょうか。

伊藤:ルール作りだけで解決するものではないですね。よくあるのは、ルール作りのために議論をして、消費者の意見も聞いたつもりなのに、なんでこんなものができてしまったのか、ということです。
場当たり的なルール作りが繰り返えされると、気が付くととんでもないものになっていきます。誰のためのルールなのかわからなくなってしまう。
そもそも、金融商品も通信サービスも、まず、自分にとって何が必要なのかを考えなければいけないのに、「はやり」やブームの勢いで購入しようとしてしまう。そしてリスクに関する説明はカタカナや英語が多く難しい。業界や社会では一般的なのかもしれませんが、特に高齢者にとっては、はじめて聞く単語や文章であることがとても多いです。結局それらを理解できないまま、最後は「これがお得です」という言葉で購入してしまう。

消費者自身も購入の動機をはっきりさせて、どんな時も基本的なことを理解してから、検討を始めるべきだと思います。そうするとルール作りも生きてくるし、適確な内容に方向が向くと思います。

―企業には知識があり、消費者には知識がない。アンバランスの中で情報のやり取りが行われ、商品・サービスの売買が行われているのが現状です。だから後で「こんなはずではなかった」というトラブルが起きています。

伊藤:初期のパソコンがそうでした。あたかも誰でも簡単に使えて、いろいろなことができるようなイメージを作ってしまった。不器用で有名なタレントでも使える、という広告もありました。しかし、いざ使ってみると専門的な言葉が多くて、消費者が日常的に使っていた言葉とは別世界でした。まさにイメージと現実の解離です。

また、消費者には最低限の知識・常識を持っていてほしい、と言うけれど、最低限の知識・常識とはなんでしょう。それは伝承されるべき情報と言うことでしょうが、その伝承が困難な時代になってきました。常識そのものが変化し、一部の伝承されるべき情報は途絶えてしまってもいます。

さらに、媒体の多様化がこれに拍車を掛けています。以前は、多くの消費者に最低限の情報や知識を伝える手段はテレビや新聞で、みんなが同じように基本的な知識を身につけることができました。今は媒体が多様化して、「みんなが同じように」は不可能です。これをそのままにしておいては、トラブルはなくなりません。
ですから、積極的な消費者教育を考えなければいけません。

―消費者問題も変わってきていると思います。消費者教育も必要ですね。

伊藤:消費者教育の必要性は、消費者問題が叫ばれはじめた時代からありました。しかし日本ではまず保護をする政策が主で、スタート時点から欧米とは環境が違っていました。日本の消費者は、いざとなれば国が守ってくれるという意識が強いと思います。それは日本が島国で、敵から守られてきた地理的要因があるのかもしれません。そして規制緩和の時代になっても、意識の変化がなかなかできません。日本で暮らしていると、市場の商品やサービスはあるレベルで保証されていて、安心なものだとの意識が強いです。でも、グローバル化した現在では、それは通用しなくなってきて、いやおうなしに欧米のように、自分を守らなくてはいけない、判断しなくてはいけないことになります。そこでは、客観的な情報が必要になるわけです。

企業の不祥事、コンプライアンス違反が最近急激に増えています。消費者も、客観的な情報を見て、嘘を見抜いたりトラブルを回避できる視点を持たないといけない時代になりました。それに、スマホや投資信託などがそうですが、もともと専門知識を持っている人が利用していた高度なもの商品やサービスを消費者が利用するようになったことで、しっかりした基本知識を身に着けることが不可欠になりました。
そんなことからも消費者教育の必要性は高いといえます。

―情報を得る手段が、スマホなどインターネットだけという若者がとても多いです。うそや騙すための情報でも本当のことのように書かれていると、それを信じてしまう。そのようなニュースもよく耳にします。

伊藤:まさにそうです。発信される「情報品質」が問われています。日本の消費者は、ずっと規制に守られていたので、まだ一般の消費者はこれに対し積極的な役割を果たすレベルに達していません。情報に関しても消費者は受身の発想になってしまっている。消費者は、情報的には確かに弱者かもしれませんが、「受身で無力」なんだということではありません。

この点で消費者は強く積極的になるべきなのです。消費者はもっと知らなければいけないし、研究しなくてはいけません。そして、企業に対しても「情報品質」を求めなければいけません。そうすれば社会は変わると思います。

―これからは、企業や行政が「情報品質」について、真剣に考えていかなければいけないと思っています。その中で、商品やサービスの内容を「わかりやすく」伝えることは絶対条件です。日本消費者協会とUCDAの役割は大きく責任も重いと思います。

伊藤:日本消費者協会は、これからも消費者教育に力を入れていくつもりです。そしてキーワードは、「消費者市民社会」。消費者が社会の主役だということです。また、企業や行政に対しては「情報品質」を求めていかなければいけません。企業や行政が消費者に送っている情報は正しいのか、勘違いするように仕向けていないか。これをしっかり見極めるのが私たちの役割です。商品やサービスについてのリスクは書いてあるが、消費者が理解できるようにデザインされていなければ、何の意味もありません。UCDAは、その情報が「わかりやすく」デザインされているかどうかを審査し認証をする。両方がとても重要な時代になりました。

―UCDAアワードの評価や認証委員会に参加していただいていますが、UCDAについてお聞かせください。

伊藤:消費者のことは役所も実はそれほど良くわかっていません。何事も、消費者の立場で考える必要があるのですが、国はそれをしていないし、どうもしっかりできないようです。消費者に焦点が絞れないのです。UCDAは第三者の客観的な視点で、消費者にとって重要な情報を「わかりやすく」伝える基準を持っています。

UCDAアワード2015のポスターにあった、情報をダイエットすることなどは、大切なポイントです。重要な情報もそうではない情報も同じように書かれていると、誰も読まないものになってしまいます。これは企業にとっても、消費者にとっても不幸なことです。文字や文章がただ並んでいるだけではなく、情報として伝わるように、科学的データに基いた基準をもとに、認証制度を広めてほしいと思います。

また、みんなが「わかりやすさ」について理解をする資格認定制度も重要です。国や自治体にももっとUCDの考え方を勉強してほしいと思います。伝えるためのテクニックを単に学ぶだけではなく、考え方や思想といったものを広めてほしい。「わかりやすさ」は「おもてなし」と同様に、日本の文化になっていくのではないかと思います。

―本日は、どうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

 

―編集後記―

消費者の考え方は文化と同様、各国で違っていることがわかりました。「わかりやすさ」は「おもてなし」同様、これから日本の文化になる予感がします。