若い人たちの資産形成と保全に対する意識を高めることが必要だ

― アメリカはお金の動きも、人の動きもダイナミックですよね。

「リボルビングドア」と言って、ウォール街で成功した人が、その後は政府の高官になったり、大学で教えるといったというようなサイクルがあります。クリントン政権の時のルービン財務長官がその一例です。

― 日本にはそのようなすごい富裕層とか、基金を持っているような人がいないのですか。

富裕層の統計を見てみると、アメリカが1番、中国が2番、3番目が日本です。だから、いないわけではない。日本には戦後、国民が一生懸命に働いて積み上げてきたものがあります。
それが預貯金としてあるのです。

― 老後2,000万円無いとやっていけないと騒がれていますけど、若い人は投資して、少しずつ増やしていかないとダメだという話ですよね。金融庁も高齢者ではなく、若い人に向けて言っていますね。

私も、今働いている20代〜30代には金融リテラシーを高めて頑張りましょうと言いたいです。自分たちが60代〜70代になった時に困らないためにです。

銀行に行けば預貯金がありますが、今はゼロ金利なので、複利効果で増えていく環境ではありません。
だからある程度のリスクをとって運用する必要があります。そのまま預貯金にして寝かせておいても増えていかないのです。

― 最近、若い人たちを中心に、iDeCoや積み立てNISAの関心が高まっています。

自己防衛する意識を高めることは大事ですね。

買い手の立場に立った金融商品のUCD化が必須だ

― 金融商品におけるUCD化についてお話しください。

UCDAのわかりやすさは、やはり投資家の目線に立つことですね。
買い手(バイサイド)こそエンドユーザーです。エンドユーザーの利益がいちばん重要です。
しかし、金融サービス業では、投資商品を作って売る側(セルサイド)の目線が強調されがちです。金融はゼロサムゲームの取引です。売り手は高く売ろうとし、買い手は安く買おうとします。売り手が儲かれば、その分買い手は損します。

これまでの金融サービスは商品の売り手が中心でした。売り手である金融機関、大手証券会社や銀行、保険会社は組織で圧倒的な情報を持っていて、とても個人のレベルでは対抗できません。
だから、買い手である個人は、自分がこの商品を購入して自分のためになるのか、本当に購入して大丈夫なのか、そうした情報が欲しい。しかし、売り手は会社の利益のためにとにかく売ることに集中します。そして、販売したあとは、「投資家の自己責任ですよ」というのです。これでは情報弱者のユーザーからすれば不公平ですよね。

金融商品は、買い手の立場に立ってわかりやすくすることが非常に重要です。バイサイドの目線で、説明しないといけない。あとは、その商品を選ぶかどうかは、投資家一人一人の生活レベルや、求めるものに応じて、自分で考えるしかない。また、家族のためにも、ライフプランに沿った投資や運用は、家族ぐるみで話し合って決めるべきですね。

― 日本ではバイサイドの人材や機関が不足しているとお考えですか。

私は今、年金シニアプラン研究機構という年金に関わる研究機関に関わっていて、国民レベルで金融リテラシーを高める投資教育が必要だと訴えています。
年金は確定拠出型に変わってきているので、やはり若いうちからライフプランとマネープランを考えることが必要です。自分の人生設計をしっかり考え、自立するためにはお金にまつわる知識が必要です。

企業に勤めていると、厚生年金が毎月の給与から天引きされます。
その拠出額(掛け金の金額)は定年まで積立てられ、2パーセントで運用するという前提のもとに計算されています。これまでは年金基金側が運用して退職後に年金を支給する確定給付型でした。しかし、これが確定拠出型に変更され、これからは、運用するのはあなたですよと、企業は従業員に丸投げしがちです。

そうすると、金融リテラシーを持ち合わせていない人は、安全だと思われる元本確保型の商品を購入したり、定期預金に入れてしまう。しかし今は金利がほとんどゼロなので、会社を辞めるときになって、全然増えていないじゃないか!ということになるわけです。
最悪の場合、退職金や年金が予想よりも少なすぎると言って、企業が訴えられる可能性もあります。ですから、なるべく、従業員に金融リテラシーを高める教育を与え、自助努力の仕方をわかりやすく説明してあげなければいけない。

先だって話題になった金融審議会による「老後資金が年金だけでは2,000万円不足する」というレポートについても、審議員のほとんどが金融機関、つまりセルサイドの人たちですね。本当は、年金加入者、投資家の利益になるように、金融サービス業のあり方を変えていく必要があると思います。

― 自分の人生ですから、計画を立ててどれくらいの資産が必要かを調べることは大事ですね。

ねんきんネットにログインすれば、65歳になった時の支給額(推定)をチェックすることができます。まずは、自分でいくら年金がもらえそうか、そして老後にどのくらいの生活費が必要かを計算して、目標を立てればいいのです。若いうちから積み立てをすれば間に合いますから。

UCDAには国民サイドでのわかりやすさ化を期待する

― UCDAの理事に就任されましたが、UCDAに対しての意見や希望をお願いします。

今の年金問題とか、金融サービスの分野で、徹底的な「わかりやすさ化」を国民サイドで進めていただきたいと思います。
国民年金基金とかGPIFのようなところからまずUCD化をするべきではないかと思っています。
生活者の立場に立って、また、中立的、客観的な立場から、明快でわかりやすく伝え、理解してもらうことが重要です。

― 本日はどうもありがとうございました。