第29回:UCDAアワード2021受賞企業 特別対談|(株式会社三井住友銀行)

プロフィール
山下 剛史(やました たかし)

1988年3月 慶應義塾大学 商学部卒業。同年4月 三井銀行(現:三井住友銀行)入行。
上大岡支店長、管理部秘書室長、リテール統括部長などを経て、現在は、専務執行役員
兼 三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務。

主語はお客さまで、お客さまが金融機関を選ぶということを全員が共有する

― SMBC様はHPにもある理念体系の中で「Five Values」を掲げていて、その中で「Customer First」ということを謳っておられます。金融庁が出している「顧客本位の業務運営の原則」とのかかわりについてお話しいただければと思います。

山下:私がリテール事業部門の全役職員に向けて発信していることは、我々は金融サービス業なので、お客さまにとって「良いこと」を提供して、お客さまに「喜んでいただくこと」が基本にあるということです。まずもって、この考え方が、「お客さま本位の業務運営」のベースだと考えています。

山下 剛史氏

― 金融サービス業が基本だということですね。

山下:そうです。お客さまにとって、日常は使い勝手がよく、困ったときは相談相手になり、解決策となるソリューションを提供し、お客さまに満足してもらう。選ばれる銀行になろう、と。我々はサービス業なので、我々がどう思うかではなく、主語が「お客さま」。だからお客さまが銀行を選ぶ。それが「お客さま本位の業務運営」ではないかと考えています。そのためには、事あるごとに、本社はサービスを磨き、現場には知識やスキルを身につけ、人間力を磨き続けてほしいと発信しています。

― それが基本になるのですね。

山下:当行の経営理念では、第一に「お客さまに、より一層価値あるサービスを提供し、お客さまと共に発展する」ことを掲げています。また、その実現に向けて、役職員が共有する価値観・行動指針である「Five Values」の中に「Customer First」を定め、お客さま本位の業務運営を進めています。
一方で、2017年に金融庁が公表した「顧客本位の業務運営の原則」をもとに、SMBCグループの基本方針を公表するとともに、「中長期分散投資を軸としたお客さま本位の運用提案」や「お客さま本位の商品ラインアップの整備」など、これまで我々が取り組んできた施策や考え方を織り込んだ「リテール事業部門 お客さま本位の業務運営に関する取組方針」を公表しました。当局から言われたからやっていますということではなくて、もともとやっていたことを公表した、と思っています。ただ、我々は本当に取組方針をきちんとお客さまにお伝えできていたかという反省があったので、リーフレットを作ってお客さまにお伝えすることにしました。お客さまに金融商品を提案する際、我々自身が、取組方針をお客さまに説明することで、自らの襟を正すとともに、お客さまに安心してお取引いただけるように取り組んだものです。この取組みはよかったと思っています。

「お客さま本意の業務運営に関する取り組み方針」リーフレット(UCDAアワード2021特別賞受賞)

― もともと顧客本位というお考えがあり、それをきちんとお客さまにお伝えしようということですね。

山下:ただ、「お客さま本位の業務運営」にはゴールがないと考えています。どこまでやったら合格というようなものではないし、お客さまのお考えも時代背景も変わっていきます。やればやるほど、新しい課題が見つかりますが、逆を言えば、その課題に一つひとつ真摯に向き合うことこそが、お客さまのお役に立てる。
つまり、「良いこと」につながるものだと思っています。お客さまに「良いこと」を提供し続けることで、「お客さま本位と言えば、SMBCグループ」というブランドを作り上げていきたいと考えています。

そばに頼れる存在としてSMBCがいることをデジタルでも実現したい

― 昨今のコロナ禍によって、このDX、デジタル化ということがかなり急激に進んでいると思います。非対面という要素もあると思いますが、その中でお考えになられているデジタル化についてお聞きしたいと思います。

山下:お客さまが銀行をいちばん意識されるのは支店だと思います。これはコロナ禍の前からですが、銀行の店舗がこのままでいいのかという課題がありました。お客さまのためと言いながら、実は私が入った30年前の見た目と何も変わっていない。そこで従業員のスペースが7割、お客さまのスペースが3割だったのを逆転させようと考えました。日常の銀行取引は、インターネットバンキングやアプリ等の利用を推奨することで、便利に、簡単に、スピーディーにお取引いただき、店舗では、お客さまがゆっくりと安心してお金の相談をしていただこうと考えたわけです。

― それは画期的なことですね。

山下:そして、コロナ禍で、お客さまの接点は、対面から非対面へ、リアルからデジタルへ、ここ2年で大きく変化しました。対面によらないわかりやすい情報提供がいっそう求められるようになり、従来の紙媒体に加え、デジタルを活用したわかりやすい情報提供の高度化にも取り組みました。例えば、「いつでもすぐそばに、頼れる存在としてSMBCがいる」をコンセプトに、デジタル推進の土台となるSMBCダイレクト、スマホアプリ、タブレットの大規模なリニューアルを実施しました。
その前提として、もうひとつテーマだと思っているのは、リテラシーです。我々は、数年前から、口座にSMBCダイレクトをもれなくセットして、口座開設の際は、SMBCダイレクトの使い方まで必ず説明してからお帰りになってもらっています。「けっこう簡単ね」とか「振込手数料この方が安いから自分でやってみよう」というお客さまを着実に増やしています。
金融というのは、お客さまの人生において重要な機能を担っていますので、商品・サービスそのものの質の向上はもちろん、ユーザビリティの向上や、お客さま一人ひとりに合った情報を、お客さまにとって最適な場所、時間、手段で、わかりやすくお伝えすることが、我々がお客さまに提供出来る付加価値になると考えています。

いい意味でのプレッシャーを感じながら4年連続にチャレンジしたい

― 昨年UCDAアワードを受賞されて、3年連続になりました。情報品質が非常に向上しているのではないかと思います。このアワードを取得したことに対して、中で何か聞こえてくる声などがありましたらお願いします。

山下:ユニバーサルコミュニケーションデザインに関しては、直接担当する者もしない者も、みんな努力してくれています。勉強会やセミナーの開催や、UCDA認定の資格の取得も広げてきましたが、会社としては文化になるレベルにしなくてはという思いがあります。こうした取組みの延長線にUCDAアワードがあると思っています。UCDAアワードの3年連続受賞をはじめ、4つの賞を受賞したことは、大変光栄なことであり、従業員のモチベーションや意識の向上につながっています。

― 実際に三井住友銀行様のパンフレットは、エントリーしているもの以外もわかりやすいという声が、実行委員からも上がっています。

山下:ありがとうございます。一度ご評価いただいたものが途切れてしまうと後退したことになりかねないという危機感があります。私以上に、かかわっているメンバーは、より高みを目指していかねば、という良い意味でのプレッシャーを感じているところです。4年連続にチャレンジしたいと思います。

在間稔允

社会全体がわかりやすい情報に向かえばアワードの価値も高まる

― 最後になりますが、UCDAに対して、厳しいひと言でも結構ですので、何かいただけたらと思います。

山下:わかりやすい情報提供をしていると言っていただくのはとてもありがたいのですが、私自身が何かを知りたいとかやりたいとかいうときに、わかりにくい壁にぶち当たることがあります。「わかりやすい情報提供」は社会全体で取組むべき課題です。そういうものを追求するにあたって、UCDAがやっておられる取組みというのは、アワードを含めて非常に大切だと思います。

― ありがとうございます。

山下:ですから、社会全体がそちらに向かうように、後押しともサポートともちょっと違うかもしれませんが、科学的知見に基づいた啓発や最新の動向の発信などをさらに進めていただきたいと思います。社会全体がそうなってくれば、取組み全体の評価も上がってきますし、その中でどんどんアワードの権威、価値も高まってくる。そうすれば、アワードをここまで取らせていただいている我々にとっての価値も上がると思います。

― 今日はどうもありがとうございました。