「第三者」による客観的な評価

17:松岡萬里野-3

●クレームは反面教師にできる宝の山

福田:先ほど申し上げましたように、ユニバーサルデザインの考えは進んでいますが、製品の取扱説明書はわかりにくいこともありますね。
松岡:私たちも商品テストの際には、必ず取り扱い説明書のわかりやすさも要望してきました。すると、技術担当者は 「物はいいのに、なぜ説明書で点数がマイナスになるのか」と怒るんですよね。しかし、製品設計に問題があるために事細かに説明しなければならないという ケースもありますから。
福田:製品の品質に比べると、まだまだ説明書の品質は問題が残っていますね。
松岡:世の中に新しく登場するもの、以前ならワープロやパソコン、今なら携帯電話の取扱説明書はわかりにくいですね。スマートフォンなんて説明書がなくなっちゃいましたが(笑)。
福田:消費者から寄せられるクレームは商品自体に関しても多いでしょうが、企業と製品を使う人とのコミュニケーションが原因という場合も多いのではないですか。
写真松岡:企 業にしてみれば悪意がなくても、企業と消費者相互の思い込みでトラブルが生じることはあります。たとえば、企業の側は無意識に専門的な言葉を使ったり、こ んなことは知っているだろうという前提で説明するために基礎的なことが抜けたりします。また、金融や保険をわかりやすく説明するのは難しいですよね。かつ て日本人は、金利はどこも同じ、リスクはほとんどないものというなかで育ったから、リスクの感覚が弱い。資産が目減りすることなどないと思い込んでいま す。そこに金融機関とギャップがあるんです。そして、金融庁が「それでは消費者への説明になっていない」と、たくさんの説明事項を作るんですよ。すると、 金融機関は説明を立て板に水のごとくすることになり、聞いている消費者はさっぱりわからず、途中で質問すると、説明している人も丸暗記しているからわから なくなるということもあるとか(笑)。
福田:発信側ではなく受信側の消費者の立場に立って改善の努力をすることが大切ですね。私どもも情報コミュニケーションの改善に生活者の声を取り入れる「Another Voice」という試みを始めています。
松岡:消費者相談をする企業の方に、「消費者の苦情は宝の山。苦情の内容を反面教師として、こう直して欲しいという考 えをくみ取りましょう」と、よく言っていましたね。消費者も、自分は何がわからないのか、何が不満なのかはっきりわからないこともあるので、消費者生活セ ンターの相談員や企業の消費者担当者には、何が問題かを見極める力量が求められます。消費者の声を聞くことは多くの企業でやっていますが、それをどのよう に反映させるかが大事ですね。
福田:UCDAの活動について、どうお考えですか。
松岡:私どもも、取扱説明書のわかりにくさやアクセシブルデザインについて提言もしてきましたし、UCDAさんのアプ ローチ方法には共感します。UCDAさんの取り組みのように、企業と消費者とデザインのプロが一緒になって、改善に取り組むということはとてもいいです ね。みんなの暮らしが良くなる方向に行くためには、それぞれの役割はとても重要です。お互いの立場を考えて議論をする。そしてその結果を踏まえてデザイン を作っていく。デザインを変えるだけでコミュニケーションの深さが変わってきますよね。
福田:私どもはUCDAアワードをはじめ、生命・財産に関わる重要な情報のわかりやすさをメインに考えています。先ほ どおっしゃった金融商品は、テレビや携帯電話のようにカタチがあるものではなく、いわば情報がそのまま商品であり、しかもかなりの金額です。そこをわかり やすくしていくことに意義があると考えています。
松岡:ぜひやっていただきたいと思いますね。私どもも保険会社には、もっとわかりやすくしてほしいとか、きちんと事前の説明をするべきだと言ってきました。でも、なかなか会社全体として動くのは大変なようです。消費者担当者が力をもつようになっていけばいいのですけれど。
写真福田:現 場の担当者は皆さん、一生懸命ですね。UCDAアワードを受賞された企業の担当者の方々は、非常に頑張っておられて、それが認められて嬉しいとおっしゃっ ています。だから評価しなければいけないし、それがまたモチベーションになって、さらなる改善につながります。今年は生命保険と損害保険に加えて、投資信 託とOTC医薬品のパッケージを対象に、UCDAアワードを開催していますが、どちらも一般の人が手にする生命・財産に関わる重要な情報です。
松岡:どちらも厳しい法規制がありますよね。企業としては、法律を守ることにだけ集中しがちで、読む人に理解できるか どうかは別の問題になり専門分野の範疇を破れないなど、難しいところがあると思います。だからこそ、企業と消費者とデザインのプロが協力して、わかりやす くしていくことがとても重要ですね。時には官庁へ物を申すようなこともしていただきたいと思います。UCDAアワードはそのきっかけになるのではないで しょうか。

福田:本日は、消費者の立場からのお話をいろいろお聞きすることができました。どうもありがとうございました。

プロフィール/松岡萬里野(まつおか・まりの)

(財)日本消費者協会会長。 上智大学文学部新聞学科卒業。日本消費者協会にて消費者相談、商品テスト、消費者教育などの業務を経て、事務局長、専務理事、参与を歴任、2012年4月より現職。

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