「第三者」による客観的な評価

20:塚越敏彦-2

●いかに相手からおもしろいネタを引き出すか

福田:塚越さんが最初に中国に赴任した30年ほど前は、インフラ面などが今とは全然違いますよね。
写真塚越:30 年間あれば 国家の容貌は本当に一変する ものです。中国が世界第2の経済大国になるとは、とてもじゃないけど、想像できなかった ですよ。当時の北京は商店もビルもぼろぼろの古びたまま。そうそう、 食堂で食事するには食糧切符が必要でした。車に乗れるのは超高級幹部だけで、朝夕の通勤時は大通りを自転車に乗った人たちが走っていて、川の流れみたいで した。夏は白シャツなので白い川のようで。それが、いまや自動車で大渋滞ですからね。通信手段に関しては、1970年代の特派員は2キロほど離れた電報大 楼というビルにヨーイドンで駆けつけて、1台しかない国際テレックスから記事を送ったそうです。私が赴任した頃にはファックスがありましたが、回線が新華 社との共用だったので、相手が使用していると使えない。特に写真を送るのには時間がかかる。重要ニュースがあるときは「早くラインを空けてくれ」「まだ 使っている」と怒鳴り合いでした。
写真福田:旧ソ連のブレジネフ書記長が死亡したという大スクープ記事を世界に発信したのは北京からでしたね。
塚越:当時のソ連は、いわゆる鉄のカーテンの中でなかなかニュースが取れませんでした。詳しくは言えませんが、あ れは 、育てていた情報源のひとつに、大きな魚がかかったようなものでした。 報道の世界で必要なのはコミュニケーション能力。相手からいかにおもしろい話を引き出すか、真実を引き出すかが一番大事なんですよ。食材が良ければ生で食 べてもおいしいけれど、食材が悪ければいくら名人が腕をふるってもおいしくない。記者にとっては、全能力をつかって いかにいいネタを入手するかが勝負 なんです。
福田:中国では報道 活動に制約がありますか 。
塚越:中国メディアも表面的には、西側メディアと変わりありません。しかし根本的なところで、大きく違う。中国で はメディアは究極のところは宣伝機関だし、西側では権力監視を大きな役割とする報道機関だという点です。「新華社電によれば……」とそのまま転電していた のでは、日本の読者には本当のことはなかなか分からない。昨年の高速鉄道事故で、なぜ車両を埋めてしまったのか、重慶の公安局長がなぜアメリカの総領事館 に逃げ込んだのか、読者はわからないでしょう。ですから 特派員時代は、 表面的な情報の裏にある真相や本音をカバーする記事を書くように努めていました。
福田:ネット社会、国際社会になり、情報化が進むと中国はどうなるのでしょう。
塚越:一番中国当局が悩んで いることですよね。いままではメディアを国家が抑えていましたが、いまや個人がブログやツイッターで勝手に発信していますから、いろんな情報が飛び交うわ けです。アラブの春のこともありますし、さまざまな システムで規制しようと している。でも、中国のネット人口は5 億人。モグラたたきみたいなものですね。責任者も管理しきれないと言っています。いずれは風穴が開くというか、じわじわ波が押し寄せるように自由の許容度 が広がるのではないでしょうか。

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