第一生命保険株式会社 生涯設計開発部長 谷口 正吾氏
聞き手:一般社団法人 ユニバーサル コミュニケーション デザイン協会 理事長 福田 泰弘

情報の整理やレイアウトの工夫を重ね、「わかりやすさ」を目指す

写真——第1回UCDAアワード特別賞受賞おめでとうございます。受賞の反応はいかがでしたか?
谷口 ありがとうございます。授賞式の写真を社内報に掲載し、本社受付にはトロフィーを飾らせていただいています。何よりも担当者たちが一番喜んでいますね。生命保険各社の総合通知が同じ土俵に上がって、公正に評価していただいたわけですから、とても価値のあるものだと思います。当社の総合通知「生涯設計レポート」は、約850万通を発信していますが、お客さまから「今年はすごく見やすくなった」「色が落ち着いて良くなった」などと評価をいただく一方で、中には「書いてあることが多くて見づらい」というご意見を頂戴することもあります。日々努力していることに対して第三者の目から評価をいただき、おおいに力を得ましたので、さらに改善を重ねていきたいと考えています。
——御社の総合通知は、情報量は多いものの3分冊に整理されていて、読む順番がわかりやすいと評議員も高く評価しました。日頃の改善努力の結果でしょうね。
谷口 毎年の発信にあたっては、多くの関連セクションからスタッフが集まって改善活動を行っています。「今まではこうだったけれど、このままでいいのか」「もっとこういう情報をお届けする必要があるのでは」などと、さまざまな意見が出されます。限られたスペースに収めねばなりませんから、どの情報を優先するかについても集まったスタッフで議論を重ねます。また、お客さまの声も、可能な限り反映する努力をしています。たとえば、ご年配のお客さまからの「文字が小さくて見にくい」というご意見をもとに、文字のポイント数を上げる工夫もしています。つまり、社内からも幅広く意見を集めるとともに、お客さまのご意見も真摯にうかがいながら、次の改善へとつなげているわけです。
——文字を大きくしたり、図やグラフを入れるとコストに影響するのではないですか? 御社独自の工夫や特長などがあれば、お聞かせください。
谷口 必要な量の情報をいかにわかりやすく掲載するかは、大変苦労するところです。2行で表現していたところを簡潔にして1行に縮めたり、点在していた情報を統合して見やすくするなど、レイアウトとあわせて工夫しています。同時に、保障設計図をはじめ、どんなケースでお支払いできるかという保障の範囲などはお客さまの誤解を招かないようにスペースを割き、ひと目で理解していただける仕組みを心掛けています。

デジタル化に対応しながら、主体は手元で見られる紙媒体に

写真——コミュニケーションツールのデジタル化は避けて通れないと思いますが、御社の通知業務は今後どうなっていくのでしょうか?
谷口 現在、当社からお客さまに発信しているのは、「生涯設計レポート」を筆頭に、封書やハガキなど紙媒体が中心です。お客さまにホームページへアクセスして確認いただくこともしていますが、両方が必要だと思っています。インターネットは情報の量やスピード、即時性は非常にすぐれていますが、手元でじっくり見たい方やネット環境が整っていない方も多くいらっしゃいます。また、インターネットの画面ではページ間を行き来しづらく、紙の方がわかりやすいというお客さまもいらっしゃいます。保険はかたちのない商品ですから、紙を手にすることで安心される部分もあるはずです。デジタル化は積極的に進めていきますが、今後も紙媒体を中心にお客さまとのコミュニケーションを行うことになると思います。
——時代が変わっていくけれども、紙媒体が主体なんですね。
谷口 たしかに、かつては携帯電話なども分厚い取扱説明書が付いていましたが、今は携帯電話の画面で確認するようになっています。しかし、これは確実に使える環境がある人を対象としているから可能なのであって、私たちのところで言えば、まだネット環境がないお客さまも多くいらっしゃいますからね。
——総合通知を作成する上で、今後の課題は何でしょうか。
谷口 他社の総合通知を拝見すると、1枚もので簡潔に作られているものもありました。商品の設計は各社各様で、当社はどちらかというと複雑な商品を扱っていますので、「生涯設計レポート」では丁寧に説明しなければならないという認識を持っています。しかし、必要な情報をすべて盛り込んでいるため、ややもすると難しい部分があるかもしれません。もっと簡単なかたちでお伝えする工夫ができないかということについても、今後吟味していこうと思います。

「品質保証新宣言」の精神が、商品開発やサービスに浸透

写真——御社は「品質保証新宣言」を掲げていますね。製造業の場合、製品の品質向上を目指すわけですが、御社にとって「品質」とはどんなものでしょう?
谷口 「お客さま第一主義」という創業以来変わらない理念を達成するために、お客さまが高いレベルで商品とサービスの中身に満足されることをつねに意識して提供するということですね。生命保険は非常に長くお付き合いいただく商品です。ご契約前から始まるお付き合いは、ご契約後、お支払いが発生したときや、その後も生涯続きます。長い期間にわたってフォローさせていただく中で、お客さまの満足度を高めることが会社としての品質を向上させるのだと思います。
——商品だけでなく、サービスも含めたお客さまの満足=品質なんですね。「新宣言」の「新」とは、時代の変化に合わせて見直すという意味でしょうか。
谷口 「品質保証新宣言」は、社内告知と同時に、マスコミに発表されたんです。社内だけなら「日常業務で心がけよう」ということですが、社外に向けて「第一生命はこういうことを保証させていただきます。改めて宣言させていただきます」とお伝えしたわけです。お客さまはもちろん、一般の方々に向けて、企業姿勢を発表したのは、とても新鮮だったと思います。私たち社員もお客さまと同じタイミングで知ることで、すべての業務がそこに立ち戻るのだと強く認識しました。
——宣言に「お客さまが契約内容について知りたいこと、重要なことをわかりやすくご説明します」とありますね。その姿勢は総合通知をはじめ、各部門の仕事にも浸透しているんでしょうか。
谷口 すべての業務のベースに「品質保証新宣言」があると言ってよいと思います。たとえば新商品開発でも、「品質保証新宣言を実現するためにどうするか」という視点で検討がなされていたり。「品質保証新宣言」を実現しようという姿勢が全社的に生まれていると思います。
——目に見えるものだけが品質ではありませんし、サービスの部分でお客さまに満足いただくのも非常に大事なことですね。
谷口 当社では、毎年「生涯設計レポート」の発信と並行して、お客さまを訪問する活動を行っていますが、2010年度は、「安心の定期点検」という試みも始めました。「生涯設計レポート」を受け取られたお客さまに、どのような場合に保険金・給付金をお受け取りいただけるか、過去10年にどのような給付をお受け取りになられたのか等、あらためてご契約内容を確認いただくというものです。お客さまは四六時中保険のことをお考えになっているわけではありませんし、保障内容を詳細に覚えていらっしゃるとは限りませんから、定期点検しましょうと。すべてのお客さまにタッチする「オールコンタクト」を目標に掲げて行なっているところですが、こうして当社からお客さまに積極的にコンタクトをとっていくことで、ご不明な点やお知りになりたいことを解消していただけるよう努めています。今後はこうした活動についてもアワードで評価していただけるとありがたいですね。
——印刷物の中身だけでなく、補完する活動も充実させているということですね。本日はお忙しい中を大変ありがとうございました。

一般社団法人ユニバーサル コミュニケーション デザイン協会 理事長 福田 泰弘

Column インタビューを終えて

写真第一生命保険株式会社様は「品質保証新宣言」を発表され、創業以来受け継がれてきたお客さま第一主義に新たな気持ちで取り組む運動を展開されています。宣言の中には「お客さまが契約内容について知りたいことをわかりやすくご説明します」とあります。その一環として、総合通知「生涯設計レポート」を発信したのち、お客さまをくまなく訪問してコミュニケーションを密にする活動も実施されています。こうした品質保証へのご努力が総合通知にも具現化され、わかりやすい内容を実現されているのだと感じました。