プロジェクトUCD 〜フェスティナレンテ〜

「フェスティナレンテ」とは、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの座右の銘で「悠々として急げ」を意味します。
このコーナーでは、日々情報コミュニケーションの課題に悠々と取り組みつつ、UCDを導入し、スピーディーに結果を出している企業・行政・団体を取材します。
「わかりやすさ」への取り組み(プロジェクトUCD)における苦労や、今後のビジョンについてお話しいただきます。
京都中央信用金庫
 京都中央信用金庫 副理事長 平林 幸子
副理事長 平林 幸子


京都中央信用金庫についてお聞かせください。


平林:
近畿以外の方にはなじみがないかもしれませんが、京都中央信用金庫は、京都を中心に近隣2府2県にまたがって129店舗を展開しています。預金残高約4兆4,891億円、貸出金残高約2兆4,127億円、従業員は2,610人です。(平成28年9月現在)
信用金庫の特徴は、株式会社ではなく会員による協同組織だということです。当金庫の場合は、23万人を超える出資会員に支えられています。また、信用金庫は銀行とは違い、営業地区に制限があり、広域的に営業することができないようになっています。
預金の受入額には制限はないのですが、貸出しは個人と中小企業に限られています。まさに地域に住む人と働く人のためにある金融機関ですね。

昨年、日経金融機関ランキングの顧客満足度総合で全国2位に選ばれました。

平林:お客さまあっての金融機関ですから、「ON YOUR SIDE」をキャッチフレーズに、全員でサービス向上に取り組んでいます。毎週土曜日に行っている「土曜講座」では、毎回いろいろなテーマで勉強会を行っています。強制ではなく、自由参加ですがいつもたくさんの職員が集まります。時には、管理職と新人が机を並べて勉強するようなこともあります。

信用金庫として地域の環境問題、中小企業のビジネス支援なども積極的に行っています。地方創生は信用金庫に課せられた大きな使命だと思っています。また、京都の伝統的な町並みを残すための「京都 中信京町家レジデンスローン」などのユニークな取り組みもしています。

未来を託す若者たちには、公益財団法人中信育英会を設立し、給付型の奨学金制度も行っています。地域のお客さまからお預かりした預金は、地域の経済や事業の発展のために、資金を必要としている企業や個人に融資しています。そのようなところが評価されたと思います。

住宅ローンの申込書を改善して、UCDA認証「伝わるデザイン」を取得されました。その経緯についてお聞かせください。

平林:いままでも、融資申込書のように説明を要して記入項目が多い帳票については、お客さまから「わかりにくく面倒だ」という声はありました。ずっと何とかしたいと思っていたのですが、手段や方法が見つかりませんでした。帳票とそれを使うお客さまを調べてみたら、住宅ローンの申し込みが年間6,700件あり、約4割の方が40歳以上でした。個人の方が金融機関に借り入れのために来店される機会は少なく、このような帳票を書くことになれていない方がとても多いのに、住宅ローンの申込書は、小さい文字で書いてあって行間も狭く、白黒でどこを記入するのかがわかりにくいことに気づきました。

この申込書を使うことで、お客さまからは「わかりにくい」「書きにくい」「時間がかかる」「後で修正しなくてはいけないことがある」と良くないことばかり。当金庫の職員においても、「説明に時間がかかる」「お客さまに修正していただかなくてはいけないことが多く手間がかかる」という良くない状態が続いていたことがわかりました。いままでずっと続けてきたことなので、みんな気づかなかったのですね。

そこで、経営トップの強いバックアップもあり「お客さまが迷わずに確認できる、短時間で記入できる申込書」を作ろうということになりました。そんな時に、印刷会社の方から、UCDAが「わかりやすさ」の基準を持っていて、客観的に評価をしてどこを直せばいいのかアドバイスをもらえるということを聞きました。
これだ、と思いました。そこから総務部が中心になって改善活動が始まりました。

金融機関の帳票は、社内で作られているのでしょうか。

平林:はい、帳票は金融機関の社内で作ることが多いです。そうすると、まず免責約款から入ります。漏らしてはいけないことから書き始めます。そこに気をつけながら書き続けるとお客さまの視点を忘れてしまいます。今回、帳票にもデザインは必要だと思いました。社内にデザイン力を求めることは難しいですから、外部の専門家の知恵をお借りすることも必要ですね。 

今回、改善のプロセスはどのように進んだのでしょうか。

平林:まずは、当時使っているものがどのような状態なのか、客観的に知ることが重要でした。そこで、UCDAのDC9ヒューリスティック評価レポートをお願いしました。まさに第三者による帳票の健康診断書でした。どこがどのような理由でどのくらい良くないのかがわかりました。そして、それをもとに改善した帳票を見てびっくりしました。見事に問題点が解決されていて、誰が見ても納得できるものでした。すぐ経営トップに見てもらいました。担当者から経営トップまで情報が共有できたので、スピーディに改善を進めることができました。

昨年の「UCDAアワード2016」金融分野でUCDAアワードを取得されました。電通ホールの選考結果報告会での副理事長のお話しがとてもよかったとたくさんの方から聞きました。新しい住宅ローンの申込書について、お客さまや職員の方の反応はいかがですか。

平林:初めて「UCDAアワード」に参加しましたが、たくさんの方がいらっしゃっていて驚きました。保険業界は、競うようにわかりやすさに取り組んでおられていて、とても参考になりました。私たちも、まだまだやらなくてはいけないことがたくさんあると感じました。

新しい住宅ローンの申込書について営業店からは、「お客さまがスムーズに記入されるようになった」「選択方式が増えてお客さまの負担が軽減された」「記入漏れが減少した」などの報告がありました。また営業店の職員としては、「お客さまに説明しやすくなった」「その場での確認が楽になり、改めて記入してもらうことがなくなった」ようです。さらに不動産会社の営業担当者からは、事前申込書の「必要書類の一覧が特に見やすくなり、説明がしやすくなった」「ゆっくりした気分で記入してもらえる」「表紙の色で他の金融機関と見分けやすい」との声をいただいています。

シミュレーションでは、記入時間が1件当たり1分44秒短縮になりましたが、これよりもお客さまの心理的な負担を軽減できたことの成果が大きかったと思っています。
また、コストダウンも進みました。コストダウンした分を新しいことに投資できるようになります。帳票は、使わないものを持っているだけでもコストがかかることがあります。帳票にも労働生産性を求めていかないと、コストダウンはできません。この考えは、人を育てることにも役に立ちます。

金融庁の金融行政方針のフィデューシャリー・デューティーについてはいかがでしょうか。

平林:顧客本位の業務運営を行うべきとの原則の確立と定着(平成28年事務年度金融行政方針より)といわれていますね。金融機関としては、お客さま本位で業務運営をしていくことは当たり前の話だと思っています。今は、どの金融機関も「お客さまに選ばれる金融機関」と言っています。

フィデューシャリー・デューティーの「顧客本位の業務運営に向けた7つの行動原則(案)」の中に、重要な情報をわかりやすく提供という項目があります。UCDの観点から、お客さまの声を反映して、お客さまに提供する情報やお客さまが記入する帳票などの「わかりやすさ」に努め、情報の壁を取り除いて、お客さま満足度が向上するように全員で向かっていきたいと思っています。職員全員に、UCDの取り組みを伝えて、業務改善を進めて行きたいですね。

これからの「わかりやすさ」への取り組みについてお聞かせください。

平林:今回改善した2種類の住宅ローンの申込書は、スタートだと思っています。高齢社会が一層進んでいく中、当金庫もその例外ではなく、取引先の平均年齢は55歳となっています。説明が複雑なもの、記入項目が多いものなどお客さまの負担感が強いものから見直しを図っていき、若いお客さまも含めて全ての方々との情報の壁を取り除けるよう努力していきたいと思います。お客さまとは、心と心のハイタッチでいきたいと思っています。これが「ON YOUR SIDE」という考え方です。

10人の方々がUCDA認定2級も取得されました。

平林:帳票や通知物、パンフレットなどを「見やすく、わかりやすく、伝わりやすく」しようとしても、何をもって「わかりやすい」とするのか、誰が判断するのか、とても難しくなかなか進みません。それは、誰にもわかる基準がないからです。私たちもずっと悩んでいました。そして、改善前の住宅ローンの申込書とUCDAのDC9ヒューリスティック評価法のレポートを見たら、指摘された問題点が、全て納得いくものでした。いままでモヤモヤしていた霧がスーッと晴れたような気がしました。

一緒に提案された新しいデザインの理由もよくわかりました。このような「わかりやすさ」の視点がブレないように、また印刷会社さんやデザイン会社さんに、当金庫の考え方をきちんと伝えることができるように、総務部長をはじめ本部関係部署の実務者10人がUCDA認定2級を取得しました。

UCDAについてお聞かせください。

京都中央信用金庫 副理事長 平林 幸子平林:今回は、とてもいい改善ができました。住宅ローンの申込書が「わかりやすく、記入しやすく」なっただけでなく、業務全体を見直すきっかけにもなりました。いま、帳票の見直しを少しずつはじめていますが、業務プロセスの改善とコスト削減も一緒に進んでいます。お客さまの満足度も向上するしコストも削減できるし、これからもどんどん進めていきたいですね。

UCDAには今後も、第三者機関として「わかりやすさ」の公正・公平な基準を提案してほしいと思います。また、お客さまにも、当金庫のこのような活動を知っていただきたいと思います。UCDA認証のマークがついているものは、努力して「わかりやすく」デザインしたものだと知っていただきたい。UCDAにはこの価値を広げる活動をしてほしいと思います。

これからも「わかりやすさ」の研究とUCDの普及に努めてまいります。今日は、どうもありがとうございました。

小池:本当にありがたいと思っています。第三者の視点で色々とアドバイスしていただきました。我々が持っていない物差しを提供していただいて、それがお客様の利便性に繋がっているということは確信できます。UCDAとの出会いは本当に良い出会いでした。また、アドバイスいただいて、作戦を練っていきたいと思います。