ピヤス株式会社 代表取締役
医療法人社団 和晃会
日本大学 松戸歯学部臨床教授 歯学博士 大山和次 氏

大山:ピヤス株式会社は来年100周年を迎えます。歯の神経、根管治療の針を製造する会社です。10年ほど前は、治療の針の製造が約9割を占めていました。そのころは治療が中心でしたが、歯科医療の変革により、今は予防が中心です。予防を主体にした治療へと歯科医院も変革しています。予防が主体となる中で、歯科メーカーとして予防に対応した商材も必要になると思い、マスぺリオというギリシャの天然素材を使った歯周病に効く歯磨剤を発売しました。その歯磨剤の需要として一般の方が関心のあるものは、矯正、口臭、ホワイトニングです。

男性、女性問わずみんなが興味のあることですね。最近は健康志向も変化をしてきました。

ピヤス株式会社 代表取締役大山:矯正は矯正の歯科医院に任せる、口臭とホワイトニングについては歯医者さんに行く場合もあるし、普段の生活の中から予防したり治したりすることができます。歯磨剤は口臭の予防もできますし、歯を白くすることもできます。クリニックのホワイトニングで白くした後に、白さを維持するためには毎日の歯磨きが大事です。そんな理由で、ホワイトニングの歯磨剤を開発しました。

専門的な用語になってしまいますが、虫歯はDMF値といって、1人が虫歯を何本持っているかという指数が、現在は30~40年前の約4分の1になっています。ですから30~40年前は治療が主体だったものが、今は予防になっています。痛いから治すのではなく、虫歯や歯周病にならないようにすることと、歯を白くして、白い歯で健康でいたいと、そういう変遷があるわけですね。

4分の1くらいに減ったということは、食事も関係はあるのでしょうか?

大山:江戸時代に比べたら噛むものは柔らかくなっているので、噛む力は弱くなっています。ただ、それは虫歯とはあまり関係がないと思います。やはり健康志向ですね。それから少子化。子どもがたくさんいる時には、親御さんが子どもさんの面倒が見ることができなくて、食べっぱなしだったので虫歯もたくさんできた。ところが今のお母さんは必ずお子さんの歯をちゃんと磨いてあげますね。磨くことが習慣になったことで虫歯が減る。それとフッ素も大事な要素だと思います。フッ素によってだいぶ虫歯が少なくなったと思います。

歯磨き粉や歯をケアするものもかなり進化してきていると思います。

プレミアムホワイト大山:このプレミアムホワイトは、ホワイトの成分にポリリン酸ナトリウムというものを使っています。30年以上前には、タバコを吸っている人でも白くなるという歯磨剤がありました。その頃のものは歯を少し削っていたんです。削ることによって黒さを取る。研磨するのでだんだん歯が削れてきてしまうんです。ところが、今のホワイトニング材料のポリリン酸ナトリウムは、あまり削ることなく歯を白くすることができます。そこが旧来のホワイトニングの歯磨剤と全く違うところです。歯の表面を削って白くするのではなく、歯の表面の黒い部分を浮き出させて取り除き、白くしているんです。

しかし、歯磨剤だけで完全に白くすることはできません。歯の表面に付いた黒いものを歯磨剤で取るのは結構大変です。クリニックでのクリーニングの後、つかないようにすることが大事です。プレミアムホワイトは、白くすると同時に虫歯、歯周病の予防も兼ね備えています。ですから、普通の歯磨剤で磨くのとホワイトニングと2種類を使う必要はないんです。

歯の表面が黒くなるのは、磨かないから黒くなるのではなくて、その方の唾液の成分、あるいは嗜好によります。例えば紅茶ばかり飲むから黒くなるという方もいらっしゃいますし、唾液の成分によって歯の表面が少し黒くなる方もいらっしゃいます。例えば3か月に1回、6か月に1回クリニックでクリーニングをしないとすぐに黒くなる方もいらっしゃいますが、クリニックで白くした後にこれを使うとだいぶ効果が違います。

この商品は、どこで販売されているのですか。

大山:歯科医院やクリニックで販売していますし、ネット通販でも販売しています。

「プレミアムホワイト」という名前で真っ黒なパッケージが非常に印象的です。発売されたのが昨年の11月ですね。こちらについてもお聞かせください。

ピヤス株式会社 代表取締役大山:逆説の発想ですが、ホワイトというと白いイメージがあります。社内では、黒は靴墨のように、良いイメージがないと反対論もありました。しかし、黒い中に白を浮き出させる、これが先程の歯の表面に付いている黒いものを浮き出させて白くするという効果のイメージだと、反対を押し切ってこのようなパッケージにしました。

他社のものに「ホワイト」がついたものがいくつもありました。白と言えばやっぱり「ホワイト」ですから。社内での議論では、表も裏も真っ黒でネーミングだけ「プレミアムホワイト」という案もありました。ところが、それだけでは使う患者さんやお客さまが見た時に、どのような効果があって、どのように使うのかがわかりにくい。効能や使用方法をきちんと患者さんやお客さまに伝えなければならない。使う人が見て本当にわかりやすいものにしようと考えて、UCDAに相談しました。

食品も、生活者はパッケージ裏面の情報を見て安全を確認し、安心して商品を購入するようになりました。この医薬部外品においても、パッケージに書いてある情報が重要なコミュニケーションのひとつになると思います。毎日使うものですから、使う方は非常に気になりますね。

大山:歯磨剤も口の中で使うものですから、食べ物と同じ感覚でないといけません。歯磨剤が医薬部外品なのかどうか、それも使う方にとっては非常に重要なことだと思います。皆さんが安心して使えて、効果もある。その辺のすべてをパッケージに集約できたらという思いがあります。

まさにその通りですね。医薬品や医薬部外品における、表示に対する決まり事やルールはあるのでしょうか。

ピヤス株式会社 代表取締役とプレミアムホワイト大山:まず、「医薬品」とは、病気の「治療」を目的とした薬のことで、厚生労働省より配合されている有効成分の効果が認められたものです。「医薬部外品」とは、厚生労働省が許可した効果・効能に有効な成分が、一定の濃度で配合されており、治療というよりは防止・衛生を目的に作られたものを指します。また、「化粧品」とは、医薬部外品と比較してもさらに効能・効果が緩和で、清潔にする、美化する、魅力を増す、健やかに保つなどの目的で使用されるもののことです。以上のことから、弊社のプレミアムホワイトは「医薬部外品」に該当します。医薬部外品は、表示指定成分を表記するのが薬事法で義務づけられていましたが、現在は全成分表示が当たり前の時代になっています。また、製造販売元や内容量、登録名など表示すべき内容は多数ありますが、弊社では、薬事法や公正取引に沿って記載しています。

食品では、昨今はアレルギー表示や、原産国の表示が非常に厳しくなってきたので、狭い面積に入る要素がどんどん増えてきています。

大山:成分もここまで書かないといけないのかというくらいたくさんあります。プレミアムホワイトは、これでも要素を半分くらいに減らしたんです。書いてはあるが読めないものでは意味がありませんから。どうしても必要なこと意外は、ダイジェストにしないといけません。

他の商品と比べても、この成分表示の行間など非常に読みやすいレイアウトになっていると思います。どうしても情報が増えてくると行間が詰まる傾向にあります。今回は、文字のサイズや行間にUCDAの認証基準を採用されていますね。

大山:黒の中の白は読みやすいということもあるかもしれません。文字も「みんなの文字」を使いました。文字を変えるだけでも、これほど変わるということを体験できました。文字の大きさや行間も認証基準に合わせました。他社のものより断然読みやすくなったと、非常に満足しています。

社内、関係者の方の評判・評価はいかがですか。

大山:クリニックの受付で、歯ブラシや歯磨剤などがいくつか置いてありますが、パッケージを見て「あれは何ですか」と聞かれたのはこれが初めてかもしれません。クリニックでは衛生士の方が勧めやすいという話がきています。インパクトがあって説明がしやすいようですね。ネット通販でも、今まで歯磨剤はパッケージで売れるものではないんですが、それを前面に出して結構よかったようです。

デンタル業界の展示会がありまして、いらっしゃった先生方や若い衛生士さんがデザインに目を留めて実際に手にとって裏を見て、「見やすいデザイン」の認証を取ったと説明すると、「他の歯磨剤のパッケージより見やすいね」と。若い衛生士さんに受けがいいですね。
手にとって、なるほどと思っていただいて、使ってもらえれば、効能もよくわかる。一番最初に使ってみたいという気持ちにならないといけませんね。

皆さん安全に対して敏感になっています。安全かどうかを生活者が確認するには商品を見ることしかできません。そういう意味ではパッケージの役割りが非常に大きいと思います。昨年のUCDAアワード2016で実行委員会特別表彰を受賞されました。アワードについてコメントをいただければと思います。

大山:実は、あんなにたくさんの方がいるとは想像していませんでした。たくさんの方が「わかりやすさ」に関心があると、感じました。UCDを導入して、お客さま視点で考えるということに取り組んでいる企業がたくさんあることにも驚きました。今まで、我々だけの感覚だけで広告やパンフレットやパッケージを作っていましたから。特に、成分表示や注意事項などは、法律のことは注意していましたが、お客さまにとって見やすいかどうかという視点はありませんでした。生命・健康に関することですから、きちんと伝えるようにデザインする必要があると、改めて感じました。

最後、UCDAに期待することなどお聞かせください。

大山:今回、UCDAとのやりとりで、非常に勉強になる話を聞かせていただきました。お客さまからすると、まずお店に行ってデザインを見て手に取る。そして、その商品がどのような効果、メリットがあるのかを見るわけです。デザインが目に留まらなかったら素通りしてしまうかもしれません。今回、パッケージを考える時、専門家の意見を聞いて、視覚から入ることの重要性についてすごく勉強になりました。同時に、成分表示や注意事項の見やすさの大切さも知りました。

パッケージの印象だけで、商品が売れるわけではなく、お客さまは、商品の内容をしっかり確認してから買います。お客さまが商品を購入するかどうかを判断するまでの時間は、とても短いです。手にとって見たときに、成分表示や注意事項が「わかりやすい」ということは、商品を買っていただけるかどうかにもつながると思います。これからは、あらゆる分野、業種において情報品質が問われます。UCDAの評価が食品や医薬品などのパッケージに広がって、認証マークを見たときに、お客さまが安心して購入していただけるような時代を作ってほしいと思います。

今、あらゆる分野で消費者保護と言われています。そのための文章や表示が増えて、読まれなくなっては意味がありません。商品に自信があればあるほど、パッケージの表示に「わかりやすさ」が必要になってくると思います。本日は、ありがとうございました。