プロジェクトUCD 〜フェスティナレンテ〜

「フェスティナレンテ」とは、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの座右の銘で「悠々として急げ」を意味します。
このコーナーでは、日々情報コミュニケーションの課題に悠々と取り組みつつ、UCDを導入し、スピーディーに結果を出している企業・行政・団体を取材します。
「わかりやすさ」への取り組み(プロジェクトUCD)における苦労や、現在の活動、今後のビジョンについてお話しいただきます。

生活者にわかるような「情報品質」がほしい。

 
 出席者 アナザーボイス 佐野 純夫 氏(左)、種井 和子 氏(中)、  横山 茂 氏(右)

企業や団体が関わる、あるいは運営するユーザー組織は数多く存在します。しかし、企業や団体都合の視点を脱却できないという限界を抱えています。「アナザーボイス」は、生活者が主役となるコミュニケーションに貢献するために、生活者が主体的に参加する団体です。そのメンバーは、さまざまな分野における豊富なユーザー体験を背景に、社会、企業・団体、サービス、製品などに対する建設的な批評意欲の持ち主です。

日頃、アナザーボイスとして、アワードの評価や認証委員会に参加していただいていますが、アナザーボイスに参加したきっかけについてお聞かせください。

横山:私は以前、経営関係の公益法人(勤務当時)で、経営層向けのセミナーや講演会の企画をしていました。今日の3人は、公的機関の文書作成モニター会議に参加していた時にUCDAと出会いました。いまは、認証委員会に出席しています。認証委員会では、改善前のデザインと改善後のデザイン、そのもとになったUCDAのレポートを見て判断しています。改善後のデザインがなぜ「わかりやすい」のか、とてもよくわかります。

佐野:私は、銀行に勤務し、定年退職後にある公的機関でモニター制度があるのを見て、「おもしろそうだ」と思って参加しました。その時、UCDAのような専門家が存在するのをはじめて知りました。3年続けて参加しましたが、その間ずっとUCDAと一緒でした。モニター会議は感覚的な言葉が飛び交うのですが、UCDAの論理的な意見をもとに議論が弾んでいました。

種井:私は教員をしていたのですが、デザインに、きちんとシステム化された評価があるということに驚きました。そしてUCDの考えが自分に浸透してくると、日頃企業から送られてくる通知物やパンフレットも、これはどの文字を使っているのか、文字の大きさがどうなのか、行長が長すぎないかなどと考えながら見るようになりました。自分の文書に対する見方が変わってきて、非常に勉強になっています。

佐野:UCDAがしていることに驚きました。「わかりやすさ」の基準があれば、みんなが助かります。アナザーボイスに参加して、UCDAのことを、もっと広げたいと思いました。今まで誰もしていなかったことですから。公的機関のモニター会議では、何でも自由に言ってくださいといわれました。するととんでもない意見が百出し、なかなか結論が出ません。でもDC9ヒューリスティック評価法などUCDAの技術だと、きちんと改善の道のりが見えてきます。私たちもその一翼を担っていると思うと非常にやる気が出てきます。

横山:私はISO9001の審査員補の資格を持っていて、ISOの認証委員会に出ています。ISOは、膨大な量の紙の提出物を求めます。3年から5年に1回サーベイランスをやりますが、その時も膨大な人力と金力と紙の力が必要になります。あれは立ち行かないだろうなと思っています。同じ認証委員会でもUCDAの認証委員会は、論理的、効率的で非常にいいと思っています。認証という制度を、もっと社会に認知されるよう広めてもらいたいと思います。

第3者の客観的な評価が非常に重要であると思っています。さらに、UCDAが出した評価結果に対して認証委員会が「これは、まだ納得ができない」と言ってくださることも非常に客観的な指標になります。認証委員会こそが第3者の客観的な評価で、そこで認められないと認証マークは出ないという厳しさ。家に届いた保険会社の通知物にUCDAの認証マークがついていたら、それは一生懸命この会社が努力したということだと、生活者に感じてもらいたい。そのためには認証委員会が非常に厳しいユーザーの視点であることが必要です。

横山:行政や地方自治体が採用するとけっこう目に付くようになると思うのですが、行政や自治体はUCDを取り入れていますか。

種井:いくつかの自治体の事例で、コスト削減や業務効率の向上などの結果が出ています。自治体は、予算のことをいつも言いますが、結果的にコストの削減になっているので、前向きに取り入れるべきだと思います。また、宇都宮市の健康診断のように、高齢者の受診率が30%も上がったということを、他の自治体は知らないんですね。この結果は、医療費の削減にも大きな効果をもたらしたのではないでしょうか。

今、金融庁が「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営に関する原則)」と言い始めて、保険・金融業界では、動きが活発になってきました。

佐野:先日、私が取引している銀行から、いま金融庁が主導でこのような活動をしているのでアンケートをお願いしますと言ってきました。まず答えたのは、金融庁が使っているこの「フィデューシャリー・デューティー」という言葉がわからない。もっと日本語で誰でもわかるような言葉にしてほしいと思います。どうしてこんな難しい言葉を使うのでしょうか。

種井:私は先日、ある証券会社の講演会に行ってきたのですが、「今日は、この投資信託を紹介します」という話で渡された資料は、説明文がびっしり書いてあって、真っ黒な印象でした。肝心なところ、それぞれの投資ファンドの特徴なんかをもうもっとわかりやすく書いてくださるといいのですが。資料を作っている方はちゃんと理解していると思いますけど、私たちには良くわからないことがたくさん書いてあります。

佐野:投資信託に関する本には、どれにも中身をよく理解してから買うように、理解できないのであれば買うのを辞めなさいと書いてあります。そうすると、買える人はなかなかいないかもしれませんね。投信顧問とかアセットマネジメントという会社が商品を作り、証券会社や銀行など販売する会社がある。販売する会社の若い方たちは、リスクの高いものから低いものまで、たくさんの商品の情報が全部頭に入っているかどうか。だから買う側は、それがリスクだと思って、話を聞かないといけないのではないでしょうか。

それに、投資信託だと必ず厚い目論見書がありますけど、あれは保険の約款と同じですね。約款を読んで保険に入る人はいません。約款は送られて来るけど見ない。目論見書もそうですね。聞いたことや大体のポイントをつかんで、商品を購入してしまう。そこに投資する人のリスクがあると思います。

横山:今のマイナス金利状況では、ある程度リスクを覚悟してやるしかないです。株が怖くて投資信託をやる人もいますから。

佐野:投資信託というのは人に託すわけでしょ。だったら私は、自分で株を買います。同じ自己責任だったら株の方が納得できます。自分でした行為が自分に跳ね返ってくるだけですから。だからこそ、自分の知らないところで、動いていることはより詳しくわかりやすく報告してほしいですね。時々、成績が送られてきますが、あれを見てもわからないですよ。

やはり、証券会社で商品を買うとなると慎重になります。でも、それが銀行なので、どうしても安心してしまう。そして後で、後悔するようなことを聞きますね。

横山:以前は、銀行に信用がありました。お金を持っていけば、少しでも増えた時代でした。でも、いまは違うように思います。証券会社に抵抗がある人は多いかもしれませんが、銀行にも信用がなくなると、皆さん箪笥預金になってしまいます。日本中に資産があるのに、市場にお金が流通しないという状況になっています。

佐野:どこでも銀行に預けておけば安心という時代が長すぎました。急に自由化されて、超低金利時代になって、どこにどうしたらいいのかわからない人も多いですね。なんとかリテラシーじゃないけど、普通の人にはわからないです。

種井:退職して始めて大きなお金を手にする人が多いです。在職中は仕事でそんな余裕はない。退職してから「運用しなさい」と言われても、そこから勉強しないといけないからすごく大変ですよ。実際に私の友人も困っています。運用しようにも失敗した話はたくさん聞くので、どうしたらいいのかわからない。怖くてできない。

今はどの業界でも、さかんに「消費者保護」と言われています。そのために情報が増えるということがよくあります。そうすると読みにくくなってきて、重要な情報も読まなくなってしまう。それは果たして消費者保護になるのかということも疑問に感じます。同時に、「顧客本位」と言われているので、金融機関や保険会社は困っているのではないかと思います。

種井:「消費者保護」でたくさん説明してくれるのですが、聞き方によっては企業や自分を守るためにたくさん説明して、後から文句を言われないためにあれもこれも言っているように思ったりします。

佐野:病院もそうですね。手術のときに何かとサインを求める。何か起こると困るので、なんでもかんでも説明して、後で「説明しましたよ」と。銀行でも郵便局でもどこでもあることですけど。

種井:何かを契約する、携帯電話でも、電化製品でも、購入した時にいちいちチェックリストで説明されます。

佐野:それが形だけのような気がする時もあります。

説明する人のペースに乗せられて、わからない自分が悪いような気がする時があります。

横山:企業側に責任が及ばないように説明しているとしか思えません。

種井:どこも守りを先んじてやるのはわかりますけど、お客様あってのものではないのでしょうか。たくさんのことを義務的に説明するよりも、大事なことを箇条書きできちんと説明してほしいです。

例えば、これは携帯電話の重要事項の説明書類です。

横山:細かすぎて読めませんね。

種井:情報量が多くて、色がたくさん使ってある上に、字が小さくて目が痛くなります。

携帯電話はお年寄りから子どもまでの生活インフラにもなってきています。でも、重要なことを説明する書類がこのような状況です。ひと昔前の保険の説明書のようですね。昨年のアワードに、総務省の方がいらっしゃったのですが、報告会に参加してみて、保険会社が競うように「わかりやすさ」に取り組んでいることに驚いたと言っていました。

種井:携帯電話は、料金体系からして全くわからないです。

横山:契約するときに使わない機能まで、期間限定で無料ということで付けられてきます。あれはおかしいと思います。サービスでもなんでもないです。シンプルな機能だけでいいという人はたくさんいると思います。

種井:パンフレットや説明文書には、カタカナ用語がたくさんあるので、お年寄りはついていけません。「パケットって何?」とか。当たり前のように私たちは使っていますけど、ちょっと上の世代の方はそれがわからないから「面倒くさい」とおっしゃる方も多いですね。

佐野:これを見て思うのは、企業には「消費者保護」とか「顧客本位」は建前であって、実際は企業を守るために「トラブルになりそうなことは、全部盛り込んでおこう」と。全部盛り込んで契約者に渡しさえすれば、役目は終わったと。ちょっとはき違えているように感じます。

携帯電話会社は、どの会社も面白いテレビコマーシャルを作っていますけど、あれは若い人向けですね、あれで契約を取っているわけです。でも、そのコマーシャルで呼び込んで契約する人に、このように読むことが困難な文書を渡すとはどういうことなのかと、思います。

携帯電話会社の方々も「どうせ読まれないだろう」と思って出しているのではないかとさえ思ってしまいます。コミュニケーションが途切れてしまっていますね。

種井:ある携帯電話会社の株主総会では、必ず契約に関する苦情がたくさん出ます。結局、皆さん理解していない、理解できなかったということで、個人対応の窓口に流動してしまうのですが。

佐野:携帯電話にもマニュアルがありますね。あれもかなり分厚い。気の利いたところは簡単マニュアルが別冊であって、知りたいことがすぐ探せる。ああいう工夫をもっとしてほしいと思いますね。

種井:すごく無責任なのは「本誌とウェブサイトを必ずご確認ください」という文書です。みんなネットへの誘導になるじゃないですか。でも、果たしてその誘導されたところをちゃんと見るかどうか。私たちは、困った時にネットを見ようと思います。安易なネットへの誘導には、ちょっと疑問を抱いています。

佐野:そういうのに限ってなかなか電話で連絡がつかない。

横山:どこに掛けたらいいのかわからないものもありますね。

今年はアワードで共済もとりあげます。

横山:県民共済とか都民共済などたくさんあります。これも一種の保険ですよね。共済というと国や都や県が関係しているというイメージがあります。

佐野:自宅に届いたものがあったので持ってきました。国民共済ですね。1ページ目は、何かかわいらしいデザインです。字も大きくてわかりやすい。でも注意事項になると・・。しかもB5で。

横山:営業マンがいないので、通信販売のようですね。

種井:人件費がかからない分、安くできています。生協の共済も安いなと思って見ていました。でもどこも、パンフレットがわかりにくいですね。いいことばかりが大きく書いてある。契約する前に私たちが注意することこそ、目立つようにしなくてはいけないと思います。

食品表示についても、UCDAではアワードを通じて研究を続けていますが、課題はたくさんあります。

佐野:食品の表示を見ると、「○○フリー」とか「ゼロ」などと書いてあります。私がおかしいなと思うのは、カロリーの表示です。メーカーで自由だそうですが、100グラムあたりのキロカロリーという表示は多いです。ところが、容量が300グラムだとすると、半分だけ食べた時に何キロカロリーになるのだろうかとか、何枚食べたら何キロカロリーだとか、考えてもわからないことがあります。100グラム単位で、イメージはわかるけれども、実際には私の参考にはなっていないのです。

例えば、150グラムの容量があったら、150グラムあたり何カロリーと書いてあった方が消費者にやさしいかなと思います。もうひとつ、「~ゼロ」という表示も、ちょっと疑問に感じます。許容範囲があり、完全にゼロではないからです。

種井:食品表示のモニターでアンケートを頼まれたことがあります。項目がたくさんありました。一番大切なことは命に関わることで、アレルギー関係だと思っていたのですが、それ以外にもたくさんの項目があって、どこまで載せたらよいのかを答えるのに苦労しました。食品パッケージはスペースが小さいので、情報量が多すぎると、生活者は読み取ることができません。消費者保護と言われていますが、わからなくなっては保護とは言えませんね。

佐野:塩分についても、ナトリウムが何ミリグラムとか、表示が全然違います。両方とも塩分を表していると思うのですが、これもよくわからない。

この30年ほどで経済の状況も全くと言っていいほど変わりました。いまは、60歳以上を対象にした商品やサービスがたくさん出ています。

佐野:でも、説明用のパンフレットや契約のための書類は、若い人たちが作っています。我々にとって、読みやすいか、わかりやすいか、チェックしてほしいです。便利にできている商品でも、使い方やメリットなどの情報がきちんと伝わっていなければ不便な商品になってしまいます。

種井:商品開発を色々やっているのは見えているのですが、説明不足が気になります。それから情報が伝わってこないことが多いです。JRの切符にしても、今はほとんどネット予約です。また、アルファベット略語が多過ぎてついていけない。高齢者の方は、わからないとそこで終わってしまいます。知らないことは恥ずかしいことだと思って隠してしまうので、それがすごくもったいないなと思います。

横山:金融商品も、通販も、スマホやインターネットも情報を送る側は、100%情報を知っていますが、私たちは、場合によってはゼロのこともあります。生活者視点で情報を考えてほしいですね。UCDAが言っている「情報品質」は情報を送る企業や行政にゆだねられています。

佐野:だから、認証委員会での私たちの立場はとても重要だと思います。生活者の視点を企業や行政に伝える場だと思っています。

種井:UCDAの評価にも、一言注文をつけることが稀にあります。私たちは、生活者の代表として出席していると思っています。

アナザーボイスは、社会に貢献するという意識がとても高い方々の組織です。UCDAは、1者(情報の送り手)、2者(情報の作り手)、3者(情報の受け手)の重層的な議論の場を創出するとともに、UCDAが蓄積した専門知と「アナザーボイス」の生活知を重ねた集合知によって、客観的な評価の質を高めていきたいと思います。今日は、どうもありがとうございました。

※アナザーボイスのホームページはこちら