第31回:情報の格差を無くすために

プロフィール
飯田 英人(いいだ ひでと)

1996年3月立教大学経済学部卒業。同年4月千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命保険株式会社)入社。
2018年7月オリックス生命保険株式会社入社。経営企画部長を経て、現在は執行役員経営企画本部長。

オリックス生命保険株式会社は、過去に3回アワードを受賞(UCDAアワード2016、同2017、同2018)。2022年度で4度目。

DXとは最新の技術で新しい価値を生み出していくこと

― DX(デジタルトランスフォーメーション)は、コロナ禍にあってかなり加速したと感じますが、保険業界の状況はいかがですか。

飯田:コロナ禍の影響で、オンラインでの営業活動や募集活動が一般的になったり、ペーパーレスでの手続きが増えたりなど、デジタル化は着実に加速していると感じます。ただ、DXは単なるデジタル化とは違うと考えています。デジタル化は、基本的に、今あるサービスやプロセスをデジタルに乗せること。一方、DXは、最新技術を使って、今までにないサービスやビジネスを創出していくこと。DXの目指すところは、すでに存在する業務はできるだけAI化して、人間は真にクリエイティブな業務に集中すること、そしてそれによって新しい価値を生み出していくことだと考えています。そういう視点で見ると、保険業界のDXはまだまだこれからだと思います。

― デジタル化は、業務の効率化など、企業側のメリットのほうが強いような印象ですね。

飯田:企業側における業務効率化、生産性向上はもちろんですが、今まで対面や紙でしかできなかったことがウェブサイトなどでできるようになるのですから、お客さまの利便性向上にもつながると考えています。例えば当社でも、2020年から、給付金請求のお手続きがオンライン(スマートフォン、PC)で完結するサービスを開始していますが、お客さまからも簡単・便利だということでご好評をいただいています。

大事なのはお客さまに合った方法でわかりやすく伝えていくこと

― デジタル化、とひとことで言っても、最近は媒体もさまざまで、主流はスマートフォンに変わってきています。PCとスマートフォンでは、今後伝え方がかなり違ってくると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

飯田:おっしゃる通りですね。スマホファーストといいますか、その前提でお客さまとのコミュニケーションや、お客さまのユーザビリティを考えたほうがよいと思います。

― スマートフォンは画面が小さいので、「紙」という、一覧性を持つ媒体の利便性が見直されてもいます。紙であれば、ひと目で全体を見ることができるということです。今は過渡期だとは思いますが、これからは紙+スマートフォンというコミュニケーションデザインが必要になってくるように思います。

飯田:紙には紙の良さがあると思います。スマホートフォンなどデジタル媒体が主流となりつつも、紙がデジタルの足りない部分を補完することで、お客さまの理解度が高まる場合も考えられます。大事なのは、それぞれのお客さまに合った方法で、わかりやすく伝えていくことだと考えています。

― いずれゲームの中で、アバターが説明して、客である自分が契約する。そのようなこともあるのではないでしょうか。

飯田:アバターは1つの例ですが、AIが説明をする、様々なお問い合わせに答える、といったケースは今後確実に増えていくと考えています。ただ、全てがAI、デジタルでよいのかというと、必ずしもそうではないと思います。我々の使命は、保険金をお支払いすることですが、保険金をお支払いするときは、お客さまも辛い気持ちを抱えていらっしゃる状況です。こうしたお客さまのお気持ち、想いにしっかりと寄り添った対応を行うことが重要で、これができるのはやはり「人」だと考えています。デジタル化・DXを進めるべきところと、「人」がやるべきこと、この使い分けが重要ではないでしょうか。

― 特に生命保険は、お客さまとのお付き合いが長い商品ですから、お客さまのライフステージに応じた対応が必要になると思います。

飯田:生命保険にも色々な種類がありますが、自分に万が一のことがあった場合に、残されたご家族が困らずに生活できるようにする、これが本質的な価値・役割だと考えています。生命保険は、ご加入いただいてからが長期にわたるお付き合いになりますので、ご契約を継続いただけるようサポートし、いざというときに、生命保険に込められたお客さまのご家族への想いが確実にカタチになるようにしなければなりません。

飯田英人氏

お客さまを大事にしようという意識は全社員に浸透している

― 金融庁は顧客本位の業務運営を求めていますが、保険業界は、これまでもお客さま中心、お客さま第一主義と言ってきました。

飯田:そうですね。UCDAさんが推奨されている「わかりやすさ」にもつながる話ですが、生命保険は、保険会社とお客さまとの間で情報の非対称性があります。だからこそ、我々は、生命保険のプロフェッショナルとして、お客さまにベストサービス、ベストアドバイスを提供していかなければなりません。

― オリックス生命様がアワードにエントリーされるデザインは、本当にお客さまの方を向いて制作されているな、と感じています。お客さまの立場に立って何がいいのか考え抜き、それを実現することが、結果として会社のためにもなる、というお考えが浸透しているように思います。

飯田:オリックス生命の理念には、お客さまお一人おひとりの想いに共感し、心地よい距離感で寄り添う存在でありたい、という想いが込められています。お客さまを大事にする、お客さまの視点で考えるという意識をトップが強く持っており、それが社員にも浸透しているのだと思います。また、当社は以前から、お客さまにとってわかりやすい印刷物を提供していくための体制作りや、印刷物を作成するプロセスの標準化に向けて取り組んできました。それらの取組みが社内で脈々と引き継がれ、今につながっているのだと考えています。

常に変化するニーズに対して我々も変化し続けることが大事

― UCDA資格認定講座の受講者から、「UCD(ユニバーサルコミュニケーションデザイン)の考え方は、会社にとってもお客さまにとってもよいことだと思うが、社内で理解が得られないので実現が難しい」という声を聞きます。その点、オリックス生命様は多くの方がUCDA認定1級を取得しているので、理解が早く新たな取組みをするうえでも、他の企業とは違うステージから始められているのではないですか。

飯田:そうですね。社内で繰り返し伝えているのは、すべての社員がお客さまに寄り添い、よりよいものを求めて挑戦しよう、そしてお客さまに新しい価値を提供していこうということです。おっしゃるとおり、会社全体でベクトルを合わせることで、スピード感をもって取り組むことができると思います。

― 最近、ある保険会社様が、パンフレットから二次元バーコードで動画へ誘導するようにしているけれども、なかなか見てもらえないとおっしゃっていました。ただ二次元バーコードを付けておけば見てもらえるという時代は終わったのかなと感じました。お客さまの求めるものは、常に先へ先へと進んでいってしまいますね。

飯田:お客さまのニーズや取り巻く環境がどんどん変化する中で、こうした取組みに終わりはなく、我々も変化し続けなければいけません。そのためには、常にお客さまの目線に立って、お客さまのニーズを先取りしていくことが重要だと思います。

在間稔允

― 昨年ニュースを見てびっくりしたのは、詐欺事件で捕まった20代の女性容疑者が、その動機として、「老後に必要な2千万円を貯めたかったから」と話していたことです。将来に対する不安が広がっているのだなと感じました。世の中の動きに応じて、人間の心理状況もかなり左右されてしまうのですね。

飯田:長寿化が進むなか、先行き不透明な時代で、将来への漠然とした不安を多くの方が抱えていらっしゃると思います。我々は生命保険ビジネスを通じて様々な社会課題の解決に貢献し、人生100年時代を生きるあらゆる世代のみなさまに安心をお届けしていきたいと考えています。人口減少、少子高齢化により、生命保険の市場は縮小すると思われがちですが、お客さまに提供できる価値はまだまだたくさんあると考えています。

もっと視野を広く持つ

― 最後に、UCDAに対してご意見があればお願いします。

飯田:お客さまの価値観がどんどん変わっていく時代ですので、「わかりやすさ」を軸に、客観的に評価していただけるのはとてもありがたいです。UCDAさんの評価の仕組みは、これから先、より重要性が増してくると思います。あとはUCDAさんのご尽力で、「UCD」という考え方がもっとスタンダードになるとありがたいですね。そうすればUCDA認証を取得することやUCDAアワードをいただくことの素晴らしさがもっと認知されるのだろうと思います。もちろん、UCDAさんにお願いするばかりでなく、アワードをいただいた我々も、UCDの重要性を世の中に向けてしっかり伝えていくことが必要ですが。そして、お互いに高め合える関係でいられたら、と思います。

― ありがとうございます。最近、食品メーカー様からの相談が増えています。食品パッケージにUCDAの認証のマークが付くようになると、スーパーなどで生活者の目に触れる機会が多くなり、認知度も上がっていくと思います。

飯田:食品は一般消費者が日常的に目にするものなので、波及効果は大きそうですね。我々も、生命保険だけでなく、他の業界も含めてベストプラクティスを研究し業務に活かしていくことが重要だと考えていますので、視野を広く持っていきたいと思います。

― UCDA認証のマークを取得している会社は生活者にとってよい会社だ、と思ってもらえる社会にしたいと思います。今年のアワードも含め、今後ともよろしくお願いします。

飯田:こちらこそ引き続きよろしくお願いいたします。