プロフィール
松下 健一郎(まつした けんいちろう)

1992年3月慶応義塾大学理工学部卒業。同年4月千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命保険株式会社)入社。
その後外資系生命保険会社の商品開発担当や香港勤務などを経て、2021年1月よりマニュライフ生命保険株式会社 常務執行役員チーフ・プロダクト・オフィサーに就任。2023年4月より常務執行役員チーフ・インフォース・マネジメント・オフィサー。
マニュライフ生命保険株式会社は、2019年から4年連続でUCDAアワードを受賞した。

デジタル化が進んでも、人間が寄り添わなければいけないものは残る

― UCDAアワード2022の受賞おめでとうございます。まずはDXによって、ビジネスのスタイルでもいろんな変化が出ていると思いますが、今、どのような動きが起きていますか。

松下:ここ2~3年、コロナ禍により対面で話をすることを抑制する流れになりました。そこにデジタル技術の革新が相まって、保険業界においてもデジタル化が急速に進んでいます。弊社でも、例えばお客さまの質問に対してLINEを使い、チャットボットで簡単に受け答えができるようにしました。また、セミナーや契約時の手続きなども、デジタルやオンラインでできるようになっています。弊社では、新規契約のうち約3分の2、請求では約6割がオンラインベースです。

― それはかなり大きな変化ですね。

松下:支払い請求のオンライン化は、弊社は業界でトップクラスです。これは弊社の商品特性によるものが大きいです。例えば医師の診断書が必要なものなどはオンラインでは難しいのですが、弊社の主力商品は比較的簡単にできるものが多いのです。

― 商品開発においてもデジタル化の影響はありますか。

松下:商品開発そのものにはあまりありませんが、商品の情報をお伝えするときにオンラインやデジタルを使うケースが増えています。弊社にはお客さまの資産形成を助ける商品がありますが、その状況をオンラインで簡単に確認できる。そのようなものが増えてきています。

― お客さまからの反応はいかがですか。

松下:劇的に便利になったと評価していただいています。例えば請求でも、今まではまず電話で請求したいと告げてからお支払いまでに10日ぐらいかかっていました。オンラインで請求すると、簡単なものだと即日、長くても2~3日でお支払いできるようになっています。

― 対面で築いてきたお客さまとの信頼関係についてはどうなんでしょうか。

松下:おそらくデジタルで代替できるものはどんどん代替しつつも、やはり人間が寄り添わなければいけないものは残ると思います。どちらの方法でもお客さまに満足していただくことが、これからの保険業界には必要だと思います。

― 今、コロナ禍も落ち着きつつありますが、これからも変化は続くのでしょうか。

松下:続いていくと思います。便利さがわかり、代替できるものとできないものもわかったので、今後もデジタル、オンライン化は進んでいくでしょうね。

― コールセンターに入る電話にも変化が起きていますか。

松下:もちろんです。保険会社としては、電話でもチャットでも対面でも、お客様が望む方法でコンタクトできる状態を用意することが究極的にはベストだと思います。

― まさにコミュニケーションデザインですね。お客様とのやりとりをデザインして、より優良な体験をしていただき、長くお付き合いしていただく。そんな流れでしょうか。

2023年度はデジタルカテゴリでもアワードにチャレンジしたい

松下:弊社は4年連続紙カテゴリでUCDAアワードをいただいています。去年は受賞した瞬間から、2023年は絶対デジタルカテゴリでもエントリーするとチームには言ってきました。お陰様でUCDの考え方は社内でも浸透してきていて、去年はパンフレット制作部以外、いわゆるオペレーション部門からもエントリーしています。残念ながら受賞はできませんでしたが。今年も社内のUCDチャレンジカップ(※)という仕組みを継続しますし、他部門からのエントリーもどんどん推進していこうと思っています。

― それは素晴らしいチャレンジですね。私たちもすごく楽しみです。

松下:パンフレットをやってきたこと、今回UCDチャレンジカップで初めて社内のいろいろな部門も巻き込んだことで、わかったこともあります。まず印刷物とデジタルのトーン&マナーや、ことばの使い方など、お客さまが受ける印象がちぐはぐだとわかりにくいので、統一しなくてはいけない。そのためにはいろんな部門を巻き込んで、UCDという考え方を柱にする必要があると思います。

― そのためにはやはりリーダーが必要でしょうね。

松下:経験値がありますので、我々のチームが中心になって進めていきたいと思います。去年からUCDチャレンジカップを始めたことで、他部門にもUCDA認定取得者やUCDA認定に興味を持つ人が増えています。企業としていい取組みだったと思います。私としては2023年のUCDAアワードで総合賞ゴールドを狙っています。そのためには会社組織的にやらなければいけないと考えています。

松下健一郎氏

UCDチャレンジカップ以外にもUCDの考え方を社内に広める枠組みがある

― UCDAアワードを4年連続で受賞されて、社内外での反響はいかがでしたか。

松下:やはりUCDという考え方に沿って作ると、トーン&マナーや、読みやすさ、統一感などが出てくると思います。ここ3~4年の間に、違うパンフレットでUCDAアワードを受賞したことによって、営業現場からも非常に使いやすくなったという声を聞いています。

― それは、皆様の努力の賜物ですね。

松下:2023年はデジタルカテゴリにチャレンジしますし、他部門も巻き込んでいくので、プレッシャーもありますが、新たなカテゴリへの挑戦ということでモチベーションも非常に高くなっています。

― 今年もUCDチャレンジカップは継続されるのですか。

松下:やります。UCDチャレンジカップのいいところはPDCAを回せるところです。エントリーしたものに関しては、社内のUCDA認定取得者が評価し、評価結果をレポートにしているので、受賞しなかったものの改善にも活用できる。改善できれば、次にまたそれをエントリーすることができる。UCDチャレンジカップを活かしてよりよいものにしていく取組みは続けていきたいと思います。

― 以前、営業職員の方が持つタブレットにUCDA認証を取りたいという保険会社様がありました。一般的には、最初にシステムを決めて、デザインは最後ということが多い。ところが、デザインを最後にすると、デザインを直したくてもシステム上不可能だったりします。システムとデザインの関係というのはなかなか難しいです。

松下:我々もそこを考えて、UCDチャレンジカップ以外にクロスファンクションで統一感を保つための枠組みを作ろうとしています。ベースラインでの認識合わせをするための枠組みです。UCDチャレンジカップが前面に立ち、その後ろにUCDの考え方を社内のあらゆるコミュニケーションに反映させるための枠組みというのがあるという形ですね。

松下健一郎氏

社員向けにUCDに関するセミナーをやってほしい

― 最後に、UCDAに対するご意見やご要望などがあればお願いします。

松下:クロスファンクションの取組みをしてわかったのですが、UCDを知らない人がまだまだ多い。ぜひもっと有名になっていただきたいですね。

― それはもう、我々にも耳が痛い話です。ついこの間、お話をうかがった金融機関は、パンフレットで伝わるデザインの認証を取られたのですが、お客さまへのアンケートのデザインでも認証を取得されました。わかりやすくしましたが、いかがでしょうかというアンケートです。企業の努力を知ってほしいし、アンケートをわかりやすくする事で、お客さまの声を社内にわかりやすくフィードバックしたいという狙いがあったそうです。我々としてもUCDA認証の有効な活用例だと思います。

松下:我々も努力していることをお客様にもっともっと知ってほしいですね。

― 今、食品会社様からの依頼がかなり多いです。食品のパッケージは日常的に目に触れるものであり、そこに認証マークが入っていると、お客さまの認知につながります。保険や銀行、行政機関に加え、食品でもわかりやすさが始まった、それを我々は目指しています。

松下:後は、社内にもまだしっかり浸透していない部分もあるので、機会があれば弊社の社員向けの講演やセミナーをしていただけるとありがたいなと思います。

― セミナーは有効ですね。去年、ある食品会社様では複数の部門に対しハイブリッド形式でセミナーを開きました。役員をはじめ、商品開発、工場の担当者まで幅広く、150人ぐらいが参加されましたが、皆さんそれぞれ悩みをお持ちで、UCDによって解決できるかなと思った方がたくさんいらっしゃいました。機会がありましたら、ぜひ開いていただきたいと思います。

松下:よろしくお願いいたします。

※UCDチャレンジカップ…マニュライフ生命が、お客さまに継続的にわかりやすい情報を提供していくために、各部署が作成しているお客さま向けツールなどを社内で評価・表彰するチャレンジカップ。今年で2回目の開催となる。