1993年4月入行。名古屋法人営業第三部長、事務推進部長などを経て、現在は執行役員 品質管理部長 兼 三井住友フィナンシャルグループ執行役員 品質管理部長。
1993年4月入行。松戸支店長、リテール統括部副部長、コンサルティング業務部長、ライフシフト・ソリューション部長を経て、現在は、理事 リテールリスク統括部長 兼 三井住友フィナンシャルグループ 理事 リテールリスク統括部長。
今回は、UCDAアワード2022で総合賞ゴールドを受賞された三井住友銀行執行役員品質管理部長の前田洋様と、コミュニケーションデザインカテゴリでUCDAアワード2022を受賞されたコンサルティング業務部長の毛利智樹様に、特別鼎談としてお話を伺います。
SMBCグループ全体でユニバーサルコミュニケーションデザインに取り組んでいる
― UCDAアワード2022では2021年度に続き、三井住友銀行としてUCD活動を評価する企業表彰のゴールドを受賞されました。他社からSMBCの取組みについてよく聞かれますがいかがでしょうか。
前田:わかりにくさに対するお客さまの不満の解消、金融包摂-誰も取り残されない金融環境の実現-という観点から、弊行だけでなくSMBCグループ全体でユニバーサルコミュニケーションデザインに取り組んできました。SMBCグループは金融庁が示している「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択し、お客さま本位の業務運営に関する基本方針を公表しています。この基本方針では、柱の1つに重要な情報のわかりやすい提供を掲げております。具体的な取組みは、3つのステップで実施しておりまして、1つ目が理解、2つ目が実践、3つ目が定着です。
― グループ全体でUCD取り組んでいらっしゃいますね。
前田:そうです。まず、「理解」ですが、全ての従業員にUCDの重要性を理解してもらうため、UCDA資格認定の取得機会の提供や、ワークショップの開催といった取組みをしています。そして「実践」では、理解して身に着けたスキルを発揮し、作成したツールでフィードバックを受けるため、UCDAアワードへの参加を推奨しています。また、SMBCグループ各社が参加する「グループUDコンテスト」を開催して、多くの部署に参加してもらっています。2022年度は、コンテストの評価にあたり、弊行のインハウスデザイナーとUCDAにも協力していただきました。
― たくさんのグループ会社が競うようにお客さまへのわかりやすい情報提供に取り組む、素晴らしいことだと思います。
前田:このUDコンテスト自体が、活動の認知拡大にも役立っていると認識しています。「定着」については、資料作成や文書作成あるいは言葉遣いのガイドラインを作成し、グループ全体に周知しています。ガイドラインは周知し続けることが重要だと考えています。
お客さまに当たり前のように受け入れられることがベストだ
― SMBCグループの活動についてお客さまや内部から、最近変わったなど、反応はありますか。
毛利:お客さまからは、「変わった」ではなく、「これはわかりにくい」というご指摘をいただくことがあります。UCDが浸透してくると、お客さまにとってはUCD化したものがスタンダードになり、UCD化していないものが逆に目立ってくるのだと思います。初めて見る方には自然に受け入れられているのでしょう。それがおそらくベストなのだと思います。
― そうですね。UCDAの目標はUCDAがなくなる社会を作ることです。UCDAを必要としない社会がいちばんいい状態だということですね。
昨年のUCDAアワードではコミュニケーションデザインカテゴリでUCDAアワード2022を受賞されました。
毛利:紙とデジタルという組み合わせは、金融機関にとってはよくあります。扱っているのが無形財なので、紙の通帳のような、お渡しするものがあって、初めて取り引きを実感していただけると思います。ですから、お客さまにお渡しするものにしっかり注力していかなければいけない。紙へのこだわりはずっと持っていますが、デジタルと組み合わせることで、よりそれぞれの良さを活かすように、今後も研究と努力を続けなければいけないと考えています。
― UCDAアワード2022を受賞された「わたしの年金とわたしの未来」の〝わたしの″が、内容をよく表していると思いました。よくあるのが〝◯◯さんの場合、年収が〇〇円で、◯年働いて、その場合はこうなります″というものですが、それは〝〇〇さん″の場合で、私の場合ではない。しかしこれを使うことで、私の場合として考え、見ることができる。印刷物とスマートフォンで非常にいいコミュニケーションが生まれていると思います。
毛利:一人ひとりのお客さまにフィット感があることが重要だと思っています。弊行は昔から「一人ひとりのこれからを考える」ことを意識して取り組んでおりますので、リテール部門の企業文化として自然に表現できているのではないかと思います。
お客さまの行動観察を繰り返して改善に役立ててきた
― この企画を立てて、実際に制作していく過程で、難しかったことや大変だったこと、何か課題になったことなどがあればお話しください。
毛利:まずはアイディア出しです。アイディアは今の時代背景をきちんと映したものでなければいけない。2021年はコロナ禍でもあり、自然に課題が出てきました。しかし今後はさらに難しいと思っています。また、ここまで作り上げるためには相当テストを繰り返しています。一般の方が見たときにどう思うかというテストを何回も行って、繰り返し改善しました。そこが苦労した点だと言えます。
― そのようなことがこの中には凝縮されている印象を受けました。
毛利:以前からカメラを置いた部屋で一般の方にインタビューをして、それをバックルームで観察するというお客さまの行動観察を行ってきました。そのようなことが少しずつ根付いてきていると思います。
― UCDAアワードの実行委員会でも、お客さまが紙に「書く」という行動をごく自然にすることによって、自分事と思えるように計算されているという評価がありました。タブレットだと読むよりも見るという感覚になってしまいます。日本語は書くことで意味や文脈を捉えるという面があるので、タブレット教育は記憶に残りにくいとも言われます。そんな中で、よく考えられた仕組みだと思います。
課題を見つけて取り組み、それがアワード受賞という結果につながればいい
― 2023年のUCDAアワードに向けてはいかがでしょうか。
毛利:まだまだ弊行のすべてのツールがお客さまにとってわかりやすいツールになっているわけではないので、課題を見つけ優先順位をつけながら丁寧に取り組んでいきたいと思っています。それが結果として、UCDAアワード2023という形で評価されればいいと思います。
― わかりやすい情報提供は貴行だけではなく、業界としてやらなければいけないことだというお考えだとお聞きしました。
毛利:例えば保険商品の資料はどうしても情報が多くなりがちです。ですから、弊行は募集代理店として常に各保険会社と協働しながらレベルアップしていきたいと思っています。
― 投信関係はいかがですか。
毛利:どの企業もお客さまにわかりやすく伝えることを考えて、取り組んでいると思いますが、お客さまに伝わっている企業と十分に伝えられていない企業があると思います。
― 国は、最近、金融教育を推進するために映像を作って、誰でもいつでも見られる形にしています。ただ、専門家の方が話をされているので、内容はかなり充実しているんですが、一般の人にはわかりにくいかなと感じました。
毛利:お客さま目線の内容や言葉選びが重要だと思います。我々金融事業者もあまり不安をたきつけてはいけないと思っています。老後2千万円問題があって大変だからという切り口ではなく、未来は楽しいんだ、豊かなんだと前向きに未来に向かって今できることを提案することで、お客さまも前向きに考えられると思っています。
― ビジネスモデルも、高齢社会の在り方に一緒にチャレンジしているんだという考え方にならないとダメですね。
わかりやすさへの取組みをブランドイメージの向上につなげたい
― 貴行並びにグループとして、これからの取組み、わかりやすく情報を伝えることについての今後の方針がありましたらお願いします。
前田:重要な情報のわかりやすい提供は終わりのない取組みだと考えているので、引き続きUCDA資格認定の取得、UCDAアワードへの参加、グループ横断のUDコンテストなどを続けていくことが大事だと思っています。お客さまとの接点が書面中心からデジタルとの組み合わせになっていく中で、わかりやすい情報提供は一層重要になっています。その研究に、UCDAの知見もお借りしながら、SMBCグループ全体として取り組んでいくことが、お客さまのためにも、日本経済のためにも大事なのかなと考えております。
― SMBCグループとして「わかりやすい情報提供」に努力されてことを、もっとお客さまにお知らせしても良いと思います。
前田:お客さま本位の業務運営やCXの取組みを、今後は対外的にも発信していこうと、我々の部署の年度方針にも入れています。わかりやすい情報提供についても、SMBCグループ全体として何をやっているかというような発信をして、それによって企業価値が上がればいいと思います。
― 足もとからコツコツ努力するようなブランド作りは、お客さまから理解されやすいですね。
UCDAの取組みがもっと広く世間に知られるといい
― 最後になりますが、UCDAに対してメッセージをお願いします。
前田:UCDAの取組みがもっと広く世間に知られるといいと思います。金融も然りですが、高齢者が増えていく中で、わかりやすい情報提供はますます大事になってきますし、UCDAが発信されて広まることで、世の中が少しづつよくなってきたなと感じています。
― 早くそうなれるように私たちも頑張ります。今後とも私たちは情報品質向上に努めていきます。