「第三者」による客観的な評価
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【緊急座談会】UCDAアワードが進化させるソリューション

出席者 秋山 太一郎(ドキュメントデザイナー・UCDA認定評価員)/佐々 牧雄(関東学院大学人間共生学部 教授・UCDA理事)/神保 紀子(ドキュメントデザイナー・UCDA認定評価員)/矢口 博之(東京電機大学理工学部 准教授・UCDA理事)/八杉 淳一(UCDA理事・研究開発局長)

UCDAアワードの歴史を振り返る

6月末から、UCDAでは「加齢配慮プログラム(CFA)」や「ディーラーズ・インサイト(DI)」をはじめとする4つの新ソリューションを順次発表しています。それらを含めて、これまで開発したさまざまなソリューション誕生の背景にUCDAアワードの存在があります。アワードを重ねながら、情報の送り手・作り手・受け手が重層的に議論を深めたことが、ソリューションの開発と進化を促した側面があるからです。そこで、UCDAの評価基準とソリューションが持つ意義について、研究開発に携わった皆さんとアワードの歴史をたどりながら話を進めていきたいと思います。

12社の帳票を評価することから始まったアワードは、30社、50社と年々対象企業と分野が広がり、昨年はCSR報告書分野を設けたことで150社を超える企業・団体の情報媒体を評価するに至りました。同時に、情報媒体が紙だけでなく、「人の説明」「紙媒体」「IT」の複数のメディアを組み合わせるケースも多いことから、現在は「コミュニケーションデザイン」全体を視野に収めた包括的な研究と評価活動を進めています。広く社会と対話しながらアワードを重ねてきたことを抜きにして、評価の科学的・客観的な裏付けとなるソリューションの進化と成熟はなかったといえるかもしれません。

アワードは出場のたびに性能が上がる「パリダカ」

佐々、矢口(写真左から)

佐々、矢口(写真左から)

矢口:振り返ってみると、保険商品の帳票を対象にした当初のアワードでは、商品性の異なるものを一つの尺度で評価することに違和感を覚える業界関係者もいました。私たちが評価に取り組んだのは、商品の特性がどれだけ伝わるかという伝達効率の良し悪しであって、個々の商品性ではありません。そうした評価尺度がない時代だっただけに当惑があったのでしょう。

八杉:建築設計を例に挙げれば、戸建て住宅には戸建ての、マンションにはマンションの難しさがある。どちらが難しいかじゃなく、それぞれに求められるタスクの達成度をユーザビリティの観点から個別絶対評価したわけですね。

神保:私が評価に初めて参加した2012年には、これはちょっと問題だなとマイナス評価を付ける対象物がけっこうありました。しかし、昨年あたりは、もはやマイナス評価がほとんど付かないぐらいにまでなっています。

佐々:たしかに2012年ごろまではアワードをすぐ決めることができましたが、年々レベルが上がり、どの対象物も最低ラインは超えているのが最近の傾向です。それと、世の中にアワードやコンペティションの類いは数多くありますが、中には選考結果に異論が出るケースも見られます。今年のアカデミー賞もそうでした。しかし、UCDAの場合は選考を行うための評価方法の裏付けや基準が明確です。それが他にない価値なんだと思います。

秋山

秋山

秋山:評価基準があり、そのフィルターを通した結果により選考されることが明確になっています。そのことが魅力あるアワードにつながっていると思います。

矢口:UCDAは一貫して科学的評価をしてきて、限られた数の専門家による選考や人気投票でないため、なぜあれが選ばれたんだろうと疑問符の付く余地がないんです。

八杉:そこにUCDAのアワードとそれを支える評価システムの価値がありますね。加えて、エントリー企業はアワードで指摘された問題点をどんどん改善して翌年に臨みます。受賞を狙いたいというのとは別に、「指摘を受けて改善するためにエントリーしたい」という企業が多くなりました。その意味ではアカデミー賞でなく、出場経験が性能向上に直結するパリ・ダカールラリーのようなものかもしれません。

秋山:ただし、改善の方向性を間違えると、ある一面では良くなりますが、他の悪い面が現れてくることがあります。今後、表現レベルが上がれば上がるほど一面だけでなく多面的に見る思考回路が必要となってきているのが現状でしょうか。

矢口:エントリー企業にとっての効用はもう一つあります。売上に直結する営業部門などとちがって、帳票をつくる部署はどちらかといえば陽の当たらない部署です。そこでの仕事がちゃんと評価、表彰されることに報われる思いがあるとの声が企業の方たちからよく聞かれます。

企業、業界、UCDAがアワードで共に成長する

佐々、矢口、神保(写真左から)

佐々、矢口、神保(写真左から)

矢口:アワードですから優秀な対象物を表彰するわけですが、賞を決めるとともに評価結果について詳しいレポートを出している点がUCDAの大きな特質だと思います。しかもレポートは専門家、生活者、高齢者と複眼で示されます。それも企業にとってアワードの有用性を感じるところでしょう。

神保:個々の評価対象物ごとに科学的分析を加えて詳細に問題点を指摘して、改善のヒントを示すレポートが出される。それによって自社の制作物のどこが問題なのかが如実にわかるということですね。

矢口:近年、「保険ひろば」のような業態が生まれて、保険の販売形態が少し変わってきましたね。これも、類似する保険商品の説明が各社によってまったくバラバラだったら成り立ちません。わかりやすさに配慮する姿勢が多くの企業に根付いてきたからこそ、比較検討がしやすくなったと言えます。情報の伝達度を上げるUCDAの活動には、業界の販売形態すら変えるインパクトがあったと言えるかもしれません。
一方、私たちが行う評価方法自体も、エントリー数が増えるにつれて、合理化と進化を遂げました。「アワード用に簡易化したDC9評価」もその一つです。2009年は専門家10人による評価でした。しかし今では簡易化したDC9評価が開発されて、評価技術を習得すれば、評価ができるようになりました。飛躍的に評価対象物を増やすことが可能となり、それを専門家がさらにチェックするシステムとなりました。

神保:属人性に依らずに誰でもやれるということは、評価方法が職人的評価ではなく、まさに科学的であることの証ですね。

矢口:そうです。もちろん簡易化してあっても、最終的には専門家が評価を下す設計にしてあるため、評価の質は下がりません。むしろ一般の人の視点が加味された専門家評価ができるようになったという意味で,より的確な評価が行えるように進化しています。

八杉:アワードの選考結果報告会の会場では、報告を聴く方が熱心にメモを取る光景が多く見られるようになりました。参加される方には勉強になるのだと思います。一方UCDAの方も学ばせてもらっているわけで、年々知見が蓄積して報告会で発表しなければならないことが増えています。アワードのこうした側面もソリューション進化につながっていると思います。UCDAは、第三者機関として社会と参加企業から信頼を得ることが肝要ですから、科学的評価のレベルをどんどん上げる使命と必然があるわけです。

単に生活者の声を反映するのではなく、科学のフィルターを通す

矢口:2012年から生活者の意見を反映させる「アナザーボイス賞」が始まりました。アワードも嬉しいがアナザーボイス賞をいただいたことが何より嬉しいと、あるエントリー社の方から言われたことがあります。企業が向き合うべき生活者から評価を得たことに、価値を感じられたんでしょうね。

神保:初期のアワードの段階から高い評価レベルがあったうえに、今では専門家と生活者の評価を比較できるようになったことが企業から評価されたということだと思います。

矢口:ただし、私たちは生活者の意見をそのまま取り上げるわけではありません。ユーザーテストなどで必ず行動を観察し、作業時間分布やエラー内容などをじっくり分析します。時間はかかりますが、その作業がとても重要なんです。

秋山:消費者の声は複合的な内容を含んでいることが多いので、専門知識を駆使してそれらを紐解く必要があります。

八杉:生活者の意見を取り入れていますというフレーズはよく耳にします。ところが、生活者の声に従って文字を大きくしたのに、かえって読みづらくなったというようなケースがある。たとえば行間がそのままだと、かえって読みづらくなるんです。

神保:生活者は文字が小さいと言っているけれど、それは小さいんじゃなく、読みづらいと言っているんじゃないかと推量しなければならない。なぜそう言ったかを専門家が分析しないと正しい改善にならないということでしょう。

佐々:おっしゃる通りですね。つい最近も帳票に書いてもらうユーザーテストをした際、ある被験者の方が「わかりやすいデザインなのに、自分がいけないから間違えた」と言われました。しかし実際は帳票の方に問題があった。ユーザーエクスペリエンス(この場合はユーザーが帳票を理解するという体験)を研究する立場から言えば、多くの場合、生活者が言うこととやっていることは違います。自分が本当に抱えていることを言語化できないんですね。受け手の印象や思い込みをそのまま受け入れても、改善にはつながらない。何か質問をしてそれに対する答えを単に拾うのでなく、実際に使ってもらったり読んでもらったりして分析し、評価する。UCDAのそのスタンスが世の中に認められてきたんだろうと思います。

矢口:最近人間工学会で発表したことですが、書きやすい大きさの文字を書いてくださいというタスク(ワーク)を被験者に依頼したところ、実際に書いた文字と書きやすいと思う文字の大きさとがずれるという結果が出ました。自分がこうだと思ってやっていることと、実際にやっていることが食い違ってしまうことは往々にしてありますね。

八杉:それだからこそ私たちは、行動と意識のズレや違いを念頭に置いて、視線追尾や時間計測、理解度のテストといった科学的な分析を重ねるわけです。

神保:2015年からは、日本語部会が本格的に活動をはじめました。これは、デザインに加えて文章自体の伝わりやすさも研究して、DC9をさらに盤石なものにしようという試みです。DC9から独立して文章DC9を整備し、実際に使えるものになるようにしました。DC9と文章DC9が補い合って機能すれば、視覚的にも内容的にも伝わりやすいコンテンツの評価ができます。現状のアワードでは、専門家評価で文章DC9として独立した評価はしていません。しかし、各評価員がDC9の「テキスト(文意)」という評価項目を文章DC9の意識をもってより深い評価をするようになりました。また、日本語部会で文章DC9の研究をする過程で、伝わりやすい文章を作成するノウハウが蓄積し、独立した講座や1級講座の一部として成り立つまでになっています。需要もあって好評なようで、DDMなどのソリューションの中でも生かされています。

UCDAアワード2016の新分野、「食品」

神保:ところで今年のアワードには、食品パッケージの表示を評価する部門があります。加工食品のパッケージに記載されているアレルギー表示を評価するわけですが、複雑な商品情報を整理することが大切な保険商品などとは別の問題があって、どんな評価結果になるか楽しみでもありますね。

矢口:食品に何が含まれているのか、パッケージの裏を見る生活者はかなり増えています。人によっては食べてはいけないものがあって、それがちゃんとわからないと場合によっては重篤な事態が起こりうる。医薬品とちがって食品は毎日摂取するものですから、注意喚起情報をわかりやすくするのはとても重要です。

佐々:お子様のアレルギーなどで気にしなければならない人は少なくないですから、法律で定められたことを満たしさえすればいいというわけにはいきませんよね。

八杉:その意味では生活者の視点が厳しい分野です。評価にあたってはユーザーがどう見ているのかをしっかりふまえるために、ユーザーテストをかなり重視するつもりです。

矢口:食品パッケージの分野で評価を行うのは初めてですが、医薬品や保険帳票で苦心した経験と蓄積が十分生かせると思っています。具体的には「アレルギーのある子どもを持つ母親が、弁当のおかずを購入する」とペルソナを設定します。分析と評価のプロセスが確立されているので、こういうペルソナを設定してタスクをかけて分析すれば、正しい結果が出せるだろうと考えています。UCDAの評価技術は確実に上がっていて、他が簡単に追従できないレベルになっていると思いますね。

秋山:アワードで取り上げる分野により、その業界での生活者視線を持った情報の取り扱いにスポットがあたる。そのような力になれば嬉しいことです。

加齢への科学的分析が生んだ新ソリューション

八杉:今回発表した加齢配慮プログラム「コンシダレーション・フォー・エイジング(CFA)」に話を移しましょう。このソリューション開発の一番の背景には、世間一般の高齢化対応に疑問を感じていたことがあります。保険業界で言えば、金融庁による高齢化対応への指導があり、各社が個々に対応していますが、知る限りにおいて情報の送り手と作り手に高齢者が含まれていません。当事者がいないために「ユーザー中心設計」が実現できていないことが大きな問題です。

佐々:ATMのアクセス方法や駅の通路の利便性向上といった分野では研究が多く、実用化も進んでいます。しかし情報デザインの分野では、加齢で生じる問題を本格的に研究した例は非常に少ないのが現実ですね。その点ではUCDAがリードして加齢の問題に取り組む意義はあるかと思います。

矢口:加齢による生理的な変化についての研究はよく行われていますが、じゃあどう情報をデザインすれば的確に伝達できるようになるのかという研究はほとんどなされていないんです。たとえば文字の行間やジャンプ率、色の見え方などを調査分析すると、高齢者でも見える人はいるし、40代でも見えづらい人がいる。情報デザインの場合は、一概に高齢者ということでくくれないのです。一方で、色彩の問題などで現れる高齢者の課題が一般の人とは明らかに違うこともわかった。それが新しいソリューション開発につながるきっかけでした。

八杉:そこでUCDAは、事前にDC9の評価方法を学んだ高齢者の方たち「アナザーボイスマスターズ」に、評価員とともにドキュメント・デザインの評価へ参加してもらっています。そのうえでユーザーテストや送り手の企業も参加するワークショップを行い、改善方法を導き出すのがCFAなのです。

UCDAは理想論でなく現実的な改善策を示唆する

八杉:最後にUCDAの評価スタンスと今後の取り組みについて触れたいと思います。情報デザインの改善というのは、理想論に走ると良くない結果をもたらす場合があります。私たちがアワードで培ったのは、企業が現実的に対応できる中で最大限の伝達効率向上を目指そうという姿勢です。単に文字を大きくするとか、色数を減らすといった改善ではないんです。企業の要望や商品特性を考慮したうえで、ペルソナを厳密に設定してさまざまな観察と分析を行い、評価を行います。また、一定した評価項目にまとめて提示しますので、企業の担当者の方にとって学習しやすく、すぐ効果も現れます。

佐々:企業が現実に対応できない理想論を示すだけなら、とうてい受け入れられませんし、UCDAが提唱してきたことがここまで社会的な広がりを獲得できなかったはずです。

矢口:われわれは改善を範囲でとらえているんですね。ここまでなら読みやすいと。たとえば、色づかいの多いデザインは伝達効率が悪いんですが、コーポレートカラーをはずせないとなれば、それも含めて適切な改善方針を提案するという具合に。その裏付けは、行動観察やデータ分析の専門家が関与して臨床からデータを取っているわけです。

八杉:UCDAは改善の中身を「効果」「効率」「満足度」と分けています。一番重視しているのは「効果」です。すべてがマルなら一番良いわけですが、商品の性質や媒体の特性、受け手の属性などによって、効率や満足度は少しがまんして効果はきちんと出そうというケースもあるわけです。企業は受け手の事情を考慮してパラメーターの幅を選択すればいいのです。

矢口:それとUCDAの改善提案というのは、具体的な解決方法を提示するのでなく、ここが科学的に見るとまずいのでやめましょうという指摘の仕方です。デザイン的な解決方法は実にさまざまですから、テストみたいに唯一の答えがあるわけでもないし、ここまでやれば合格ですよという基準があるわけでもありません。
UCDAの評価の土台は、伝達効率を阻害するマイナス要因を詳細に指摘する「ネガティブセレクション」ですが、次のチャレンジは「プラス評価」に取り組んでいくことでしょうか。定量化しづらい面がありますが、それをなんとか定量化できるように研究をより深めていきたいですね。また、タブレット端末の普及が進むなど、インターフェースが変化していますので、そうした電子媒体での評価もできるように対象を広げていきたい。関連業界はハード、ソフトの開発に追われて、ユーザビリティの検証まではなかなか手が廻らないというのが現状のようですので、私たちの出番は今後も増えていくのではないでしょうか。

秋山:情報表現レベルが上がってくると、マイナス要因を取り除く視点だけでは「可もなく不可もなく」のものが意外と評価が良いものになりかねません。プラス評価の定量化により、そのような事態を避けることができるでしょう。

八杉:アワードを研究開発の場ともとらえて実験的評価手法を試しながら、次のステージを目指していきたいですね。

cfa

 

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